歓喜のマウンドには左腕・本間がいた。MVPにあたる橋戸賞を受賞している[写真=矢野寿明]
初優勝を果たしマウンド上で歓喜に沸く選手たちへ、三塁側とレフトスタンドの大観衆からは勝利を祝う「三菱賛歌」が高らかに歌い上げられた。第95回都市対抗野球大会の最終日。三菱重工East(横浜市)が3対1でJR東日本東北(仙台市)を下して日本一。栄えある黒獅子旗を手にした。試合直後の場内インタビューでは佐伯功監督(東北福祉大)は「チームを代表して言わせていただきます。『おめでとうございます』」と応援団へ声を掛け、大歓声をその一身に浴びていた。
三菱重工Eastは統合と再編を繰り返してきた。1957年に三菱重工横浜として創部し、17年には三菱重工長崎と統合。21年には三菱重工グループが野球部を東西の2チームへ再編したことに伴い、活動を終了した三菱重工名古屋と三菱重工
広島の選手を受け入れ、三菱重工Eastとして再スタートを切った。同時に三菱重工名古屋を率いて18年の社会人野球日本選手権で優勝した実績を持つ佐伯監督が就任。
さらに、各チームで主力としてプレーしていた選手が集まったこともあり、その年の夏に開催された日本選手権では準優勝という好成績を残した。しかし、佐伯監督は「個々の実力はありましたが、偶然が重なった結果。まだチームにはなっていなかったので、勝つべくして勝っているようには見えませんでした」と振り返る。
発足当初の佐伯監督はチーム編成にあたって、かなり気を使ったという。「コーチ陣には『こんなチームが作りたい』という話をしていましたが、選手にはあえてぼんやりとしか伝えませんでした。それというのも、どこか特定のチームのカラーが強くなると、他チームでプレーしていた選手に拒否反応が出てしまう。だから、コーチには『選手に時間をあげよう』と言っていました。チームが共通認識を持つまで時間は掛かりましたし、まだ成長の途中ですがやっと方向性が定まってきて偶然の勝利が必然になってきたと感じています」。根幹にあるのが、周りから目標とされるチームになることだ。
「相手へのリスペクトはもちろん、野球だけじゃなく一社会人としての振る舞いも大切にしてきました」
勝利の一因はフィジカル強化
今季、4年目のシーズンを迎えたが、チームが掲げた「“フェアプレー” “チャレンジ” “ビクトリー”〜正真正銘のトップアスリートからなる常勝チーム〜」というスローガンからも、その意志が伝わってくる。
6月の都市対抗西関東二次予選では3試合で25得点を挙げ、6本塁打。佐伯監督は「特別なことはしていなくて、打球速度を上げていくためにフィジカルを強化しています」と話すが、今年から加入した新人・
中前祐也(中大)は「ウエート・トレーニングはどこのチームよりもやっているんじゃないかと思います」と、その練習量は相当だ。主将・矢野幸耶(北陸大)も「ウエートは週4回。シーズン中も大会前はスピード系にして続けています。食トレも含めて体づくりを大事にしているチームなんです」とのことだ。
ただ、破壊力のある打線が注目されているが「バッテリーを中心にした守り。選手にもその重要性を説いています」と佐伯監督。その中で「勝つために万全の準備をしてくれる頼りになる存在」として名前を挙げているのが32歳の捕手・対馬和樹(九州共立大)だ。試合前は数時間かけて相手打者を研究することもあり「無責任なサインを出したくない。ピッチャーの強みとバッターの弱点の両方を意識して、使い分けながらサインを出しています」と、扇の要としてチームを支えている。
補強選手とは違う日本一の味
都市対抗の本大会を前に「日本一を取るための選手の本気度がすごかった。今季は優勝することが決まっている」と独特の表現で決意を語った佐伯監督。その言葉を聞いた矢野主将も「自分たちもその言葉に乗っかろうと思いました」と優勝を疑うことはなかった。
すると、今大会は投打のバランスが取れ、5試合中4試合は先行逃げ切り。対馬のリードも冴え、投手陣は5試合で5失点だった。特に左腕・本間大暉(専大)は伏木海陸運送(高岡市)との1回戦で5安打完封。以降は抑え役に回り、通算4試合に登板し15回を投げて1失点。防御率0.60の好成績を残して橋戸賞を受賞した。「今季は体重を95キロから85キロに絞ったことで腕が振れるようになり、真っすぐも変化球もキレが良くなりました」(本間)。
打線は効果的に長打が飛び出し、JR東日本東北との決勝は矢野主将が「チームを勢いに乗せるスイングをしようと思っていました」と先頭打者本塁打に、3回にもソロを放ち、2打席連続弾。今大会のチーム本塁打は6本で、長打の総数は17本を数えている。
決勝では矢野主将が初回に先頭打者本塁打、3回にソロ、5回に適時打とチームの全打点を挙げた[写真=矢野寿明]
有言実行で黒獅子旗を手にし「この選手たちに日本一になってほしかった。最高にうれしいです」と話した佐伯監督。本間は2年前にENEOS(横浜市)の補強選手として優勝を経験しているが「自チームでの日本一は、うれしさが違います」と笑顔を弾けさせた。
「次の目標は、秋の日本選手権」と声をそろえた矢野主将と本間。高い意識に裏打ちされた質の良い練習を積み重ね、二大大会連覇を狙う。(取材・文=大平明)
主将・矢野は黒獅子旗を手に[写真=矢野寿明]
【表彰選手】 ▽橋戸賞 本間大暉(三菱重工East/投手)
▽久慈賞 小島康明(JR東日本東北/投手)※TDKからの補強選手
▽小野賞 三菱重工Eastチーム
▽打撃賞
下山悠介(三菱重工East/内野手)※東芝からの補強選手
▽首位打者賞 野崎大地(西濃運輸/内野手)15打数8安打、打率.533
▽若獅子賞 該当者なし
【第95回都市対抗野球大会結果】