
再編・統合された2021年からチームを指揮する佐伯監督。社会人日本選手権はホンダとの準決勝で敗退したものの、就任4年目で確かな手応えをつかんだ[写真=松村真行]
悲願の都市対抗初制覇を果たした三菱重工Eastが日本選手権でも4強入り。地力の高さを証明した。
日本製鉄東海REXとの1回戦では佐伯功監督(東北福祉大)の腹をくくった采配で逃げ切った。1対0で迎えた9回裏に入社1年目の
野中太陽(大商大)がマウンドへ。野中は都市対抗での登板がないどころか、大学時代に肩を痛めた影響で、夏までオープン戦でも投げられなかった。
三菱重工Eastは三菱重工グループが持っていた4つの野球部を2チームに再編・統合することによって2021年に誕生したチーム。戦力層は厚く、ブルペンには実績ある投手も控えていた。都市対抗を制し、例年以上に注目される中での初戦である。重圧がかかる中、佐伯監督は信念を持って新人を送り出した。野中は1安打を許したものの、無失点に抑え、1対0で逃げ切った。
「あえてああいう場面で、乗り越えてこい、という思いですね。失敗したら全部、私のせいなので、思い切って腕振ってくれましたね。非常に良い経験になったと思います」
新戦力の台頭に加え既存の戦力もレベルアップ。都市対抗で橋戸賞を獲得した左腕エース・本間大暉(専大)は「もうちょっとスピードが出せるんじゃないかなと思って練習してきました。出力が上がってきて、良かったなと思っています。代表の選考合宿に呼んでいただいたときにほかのピッチャーと交流して良い発見があったんです」。
10月に行われた社会人日本代表候補選手の強化合宿で最速157キロを誇る日鉄ステンレスの
江原雅裕(国学院大、
楽天ドラフト4位指名)からヒントを得ていた。「『どういうふうに投げたら150いくつも投げるねん』と話したら、こうしたら良かったですよと聞いて、それやってみようかなと思ってやりました」。今大会は2試合14回を投げて被安打7の1失点、安定感抜群だった。
主将が明かした「苦労」
0対2でホンダに敗れた準決勝でも2点を追う8回表に二死満塁の好機を作り、食い下がった。どの相手にどんな展開になろうとも、簡単には土俵を割らない。発足4年目を迎えたチームの成熟度は年々高まっている。
佐伯監督は「都市対抗を絶対獲るんだという強い気持ちでスタートして、それが実現して、この秋もという思いでいたんですけど、選手たちは本当によく戦ってくれて成長してくれたなと思います」。主将・矢野幸耶(北陸大)は1年を振り返った。
「長かったですね。あっという間っていうのがなくて、苦労した1年でしたし、その中でいろいろな人が成長してくれたり、今までスタンドで見ていた選手が先発で投げたり、ケガで出られなかった選手が投げたりとか、そういう選手が増えてくれたので、後輩がドンドン上がってくるのでうれしい気持ちで良かったかなと思います」
夏秋連覇はならなかったが、二大大会における8勝は全国トップだ。
「我々が目指す『常勝チーム』というところに少し近づけたかなと思うんですけど、少しの気の緩みでチームって崩れていくものなので、もう1回、チームを強化していきたいと思います。今まで積み上げてきたものをさらに積み上げていくその作業になると思います」(佐伯監督)
社会人野球界のトップチームとしての土台を固める1年となった。(取材・文=小中翔太)