“振り子打法”で颯爽と阪神でデビューした坪井智哉。いきなり打率3割をマークするなど、その打撃センスを存分に見せつけた。その後、日本ハム、オリックスでプレー。最後はアメリカの独立リーグでバットを振り続けた。野球の、打撃の本質を追い求めた男が自身の野球人生について語る。 夢の中でひらめく
──8月15日に現役引退を表明しましたが、それ以後、バットを握ることは?
坪井 ほとんどないですね。子どもにノックを打つときに握るくらいで……。10月初旬、テレビ収録で明石家さんまさんと草野球をやって、そのときには実際に打席にも立ちましたけど。もう、バットを握りたいとは思わないです(苦笑)。普通の40歳のオッサンと同じですよ。不健康にならないように、ランニングをして、腕立て伏せをやろうかなというくらいで。
──テレビ中継で試合の解説もやって……。
坪井 ユニフォームを再び着たいなんて思わないですよ。食事も好きなものを食べています。ただ、家族がいるから少しは気を付けますけど、独り身だったら多分大変なことになるくらい暴食してしまうほどの気持ちです(笑)。
──逆に言えばユニフォームを着ている間は、それだけ野球にかけていたんですね。
坪井 現役のときは気が付かなかったんですけど、すべてが野球のためでした。例えばコーヒーを飲むにしても、砂糖を入れない。ファストフードを食べたくても、食べない。乗り物で移動するときも、高いお金を出しても楽な方法を選ぶ。階段を上がると足を踏み外す可能性があるから、スロープをのぼろう、と。何かを選択するとき必ず野球が絡む。当たり前過ぎて気が付かなったんですけど、野球中心の生活でしたね。それをイチイチ考えることはないですけど、本能でそうしなければいけないと分かっていたんだと思います。
──でも、それは苦ではなかったんですよね。
坪井 そうですね。プロですから。高いお金をもらって、ファンの方は高いお金を払って球場に見に来てくれている。野球中心になるのは当然のことですね。
──ファンも坪井さんのことを、打撃を極めようとする求道者のような選手として見ていたと思います。
坪井 単純に打撃が好きなんでしょうね。バットを振りたくないと思うときがなかった。むしろ今考えるとスランプのとき、リラックスするためにバットを置く時期があっても良かったのかな、と。それがあったら違う結果になったかもしれない。でも、現役時代はバットを振らないと眠れなかったんです。
──納得いかない、と。
坪井 そういえば寝ていて、夜中にガバッと起きることもありましたね・・・
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