日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。 15年ぶりの復活出場で伝統の応援を披露

広島商は伝統の「しゃもじ応援」を展開。岡山学芸館との初戦(2回戦)で惜しくも敗退したが、印象に残る「音」だった(写真=高原由佳)
カチッ、カチッ、カチッ。
心地よい音色が三塁アルプスから発信された。猛暑の中、涼しさを送り届けてくれそうな乾いた音である。銀傘にこだまして、甲子園球場全体が広島商ムードに包まれた。
古豪が15年ぶりの復活出場。岡山学芸館との初戦(2回戦)。しゃもじによる伝統の応援も、久しぶりに甲子園で披露された。
同校同窓会が主体となって、用意されたのは1500セット。保護者会、同窓会、野球部OB会ほか関係者はしゃもじ、生徒はメガホンを持って大応援を繰り広げた。
今年3月に卒業した野球部OBの広津勝(117期)さんは言う。現3年生とは2年間、汗を流してきた直系の先輩である。
「広商にとって、しゃもじは、ずっと一緒に戦ってきたもの」。自身は昨夏、二番・左翼で出場し「広商のベンチが三塁側だと、ポジションから最も近くで聞くことができ、大きな力になりました。今日は後輩たちへ届くよう、必死に応援しました」。選手たちはしゃもじの後押しを受けたが、惜しくも逆転負け(5対6)。

広島商は歴代先輩からの伝統により、甲子園の土を持ち帰らない。そこには大きな理由があった(写真=高原由佳)
カチッ、カチッ、カチッ。
しっかり三塁ベンチにも、声援は届いていた。記録員のマネジャーで118期の井上慧大(3年)は言う。
「姿は見えなくても、気持ちは十分に伝わってきました。心強かったです。自分たちが入学したときはどうしようもない1年生で、1学年上の先輩方が情熱を持って接してくれ、自分たちに伝統を残してくれた。今の自分たちがあるのは117期のおかげです」
広島商の慣例で、今夏も甲子園の土は持ち帰らなかった。全国制覇を遂げ、優勝旗を持ち帰るために甲子園へ来たからである。広商の伝統は119期(2年生)、120期(1年生)にしっかりと継がれた。
文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)