タバコを吸っても2人で“三冠王”
選挙権は18歳からに引き下げられたものの、いまでも20歳からしかたしなめないのが酒とタバコ。酒は少量なら体にいいとさえ言われるが、タバコは絶対にダメ、隣の人が吸っている煙でさえもダメらしい。筆者の知人は学問的にタバコの害悪を研究していて、喫煙者を見ると虫唾が走るといった顔つきになり、蛇蝎を見るような目つきで睨みつけたりしている。そ、それほどまで悪いものなのか。
ひと昔前まで、タバコは大人のたしなみとして一定の地位があった気がする。とはいえ、それほどまでに悪いものならプロ野球選手の成績に多大なる悪影響を及ぼしたのではないか。そう思って過去の資料で歴史をさかのぼってみる。昔の選手名鑑には、最後のほうにタバコの1日あたりの本数という項目があった気がするが、これを簡単に手にする環境は、この2年で遠ざかってしまった。手元に『プロ野球優勝伝説』という本がある。手前味噌だが、値段の割に情報量が豊富で、長い在宅ワークに貢献してくれている盟友のような資料だ。
各シーズン、両リーグの優勝。その瞬間の写真がある。これでさかのぼってみよう。プロ野球選手がタバコを吸っている写真を発見するのに、それほど時間はかからなかった。1969年のセ・リーグ。巨人がV5を決めたときだ。その10月9日、巨人だけでなく、プロ野球の父とも称された正力松太郎が死去。ナインは喪章をつけて試合に臨み、優勝を決めて、正力の遺影も飾られた祝勝会で静かにV5を祝っているのだが、写真では
王貞治と
長嶋茂雄、いわゆる“ON”が、それぞれの利き手でタバコを吸っている。
この試合を決めたのは第1打席で2ラン、第2打席で適時三塁打を放って3打点を稼いだ長嶋で、長嶋は115打点で打点王に。このシーズンのMVPは44本塁打、打率.345で本塁打王、首位打者の打撃2冠に輝いた王だった。三冠王を分け合った2人とタバコ。巨人の歴史をさかのぼると、1リーグ時代の
青田昇は「いつもくわえタバコ」(『プロ野球偉人伝』)だったというが、2チームで5度の本塁打王に輝いている。それでも、やはりタバコは体に悪いという。
文=犬企画マンホール 写真=BBM