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【高校野球】「5年で甲子園へ」――学科再編と共学化「大改革」の鹿児島商が本格着手する野球部強化

 

2024年に創立130周年


鹿児島商高を今年4月から指揮する塗木監督。「5年で甲子園」を目指している


 鹿児島商高野球部の部員48人は、活動拠点「鹿商新生球場」の環境整備に当たっていた。グラウンド周辺の清掃のほか、フィールド内も丁寧に土をならす。2日前(8月30日)、鹿児島県大会3回戦(対鶴丸高)を8対12で敗退。塗木哲哉監督は、大会後の節目には必ず、常日ごろから使用する各設備をきれいにする。技術向上の前に、やるべきことがある。次の目標へと気持ちを切り替え、心の面をしっかりと、鍛錬する場なのだ。

 塗木監督は2022年春に大島高を率いて、センバツ甲子園に出場した。左腕・大野稼頭央(ソフトバンク)を擁し、前年秋に九州大会準優勝。同校は14年春に21世紀枠でセンバツに初出場していたが、8年ぶり2回目の春は実力で出場。メンバーは奄美大島の出身者で占められ、離島勢の活躍は多くの感動を与えた。

 1894年4月設立の伝統校・鶴丸高OBの塗木監督は、大島高での9年の勤務を終え、今年4月、鹿児島商高へ異動した。鹿児島商高は「鹿児島簡易商業学校」として1894年10月に開校。学制改革の48年に現校名となり「鹿商(かしょう)」として親しまれている。鹿児島市内には鹿児島商高のほか、鹿児島女子高(1894年創立)、鹿児島玉龍高(1940年創立)と3校の市立高校がある。

 2024年に創立130周年。このタイミングで2つの大きな動きがある。学科再編と共学化。商業科がビジネスクリエイト科、情報処理科が情報イノベーション科、国際経済科がアスリートスポーツ科となる。また、鹿児島商高は公立商業高校で全国唯一の男子校だったが、男女共学化へと踏み切った。より魅力ある学校へと発展させるための「大改革」である。野球部では女子部員(マネジャー)の新入部員を検討している。

確立された支援組織


5年前に完成した野球部寮[鹿商桜岳寮]はグラウンドから徒歩1分にある


 硬式野球部は1898年創部。1927年夏(昭和2年)に甲子園初出場を遂げると、春12回、夏13回の甲子園出場を誇る。かつては鹿児島実、樟南(鹿児島商工)で「御三家」と呼ばれていたが、鹿児島商高の夏の甲子園出場は1995年が最後(春は2007年)と、全国舞台から遠ざかる。今夏の甲子園では神村学園高が4強進出と、勢力図は変わってきている。

 古豪復活へ。鹿児島商高は学校の「看板」である野球部強化に本格着手している。5年前には同窓会(鳥井ヶ原昭人会長)の尽力により、鹿商桜岳寮が完成(36人収容)。県内の遠方者、離島出身の生徒を受け入れる態勢が整う。熱血漢である塗木監督に加えて、外部コーチとして元プロの小椋真介氏(元ソフトバンク)が就任し、指導体制が固まった。

 塗木監督はかつて指揮した鹿児島南高では95年夏に県大会準優勝、頴娃高では03年、志布志高では11年に、センバツ21世紀枠の鹿児島県推薦を受けた。約30年の指導キャリアから「5年をメド」で結果を残せる自負がある。鹿児島商高は同窓会のほか、野球部OB会など、支援組織が確立され、グラウンド、室内練習場、寮と恵まれた環境がある。

 鳥井ヶ原同窓会長は「野球部を強くするため、現場に重圧をかけない形でバックアップしていきたい。塗木監督の高い指導力には皆、期待していますから楽しみです」と語る。11月4日には同窓会が4年ぶりに従来の形で開催が予定され「オール鹿商」で塗木監督以下、野球部を全力応援していく。塗木監督は言う。

「生徒たちには、言っているんです。鹿商は甲子園に行ける。早まるのも、遅れるのも、君たち次第。心の中にある本音の思い(目標)を、本気で継続できるか。夢をかなえるための方法です。現状は目標設定が確立されていない。気付くには、失敗しかありません。この秋の1敗は良い教訓となりました。彼らは課題に対して、すぐに実践する姿勢がある。ただ、辛抱強く続かないので(苦笑)、繰り返し指導していくしかない。指示待ちではなくて、自分で気づくことが大切だと思います」

新チームから丸刈りを廃止


新生球場の入口付近には「栄光の足跡」の石碑がある。過去の甲子園出場実績が刻まれている


 具体的に何をすれば良いのか。塗木監督から4カ月、指導を受けた3年生が教えてくれた。

 右腕・江口遥斗は「一つひとつの練習の意味を考えて取り組む」と言えば、二塁手の福岡慶隼は「1球で負けることを想定してノックを受ける。打撃は1球で仕留める。1球に集中してメニューと向き合うことが大事です。塗木監督は熱いですが、熱すぎず、自分たちのことを第一に考えてくれる」と感謝した。また、沖永良部島出身で生徒会長を務める石原翔和は「塗木監督の就任以降、自主練習の時間が増えました。個々の意識で差が出る。チームは明らかに変わりました。後輩たちはこの秋の悔しさを忘れず、来夏には甲子園を目指して頑張ってほしい」とエールを送った。

 言われてから動くのではなく、自発的に、やるべきことをきっちりやる。チーム全体で共有できれば、大きな力になる。塗木監督はかつて指揮した4校で成功体験をしており、鹿児島商高でも、そのイズムを落とし込む。

 今秋の新チームからは丸刈りを廃止し、髪型は生徒個々に任せる方針とした。あくまでも、学校が定める校則に従い、スポーツ選手らしい長さを求めている。「自己判断能力が試される」(塗木監督)。結果を残す「特効薬」はない。日々、目の前のことを全力で向き合うことが、地力となる。「生徒たちへの愛着がある。任された以上は腹をくくってやるしかない」。塗木監督の改革は、一歩一歩、前進している。

文=岡本朋祐 写真=上野弘明
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