二軍ではズバ抜けた成績

スケールの大きな左腕・井上。今季こそ、能力を完全開花させることができるか
新戦力の覚醒はV奪回の大きな手助けになる。昨季リーグ優勝を飾った
阪神が好例だろう。
プロ未勝利だった
村上頌樹が22試合登板で10勝6敗1ホールド、防御率1.75とプロ3年目に大ブレーク。最優秀防御率、MVP、新人王を受賞し、38年ぶり日本一の原動力になった。前年の2022年は一軍登板なしに終わったが、ウエスタン・リーグで最優秀防御率、最高勝率の2冠を獲得している。「二軍の帝王」から殻を突き破ったことは、他球団も育成で大きなヒントになるだろう。
巨人でもファームでは無双の左腕がいる。イースタン・リーグで昨季11試合登板し、7勝0敗、防御率0.75と抜群の安定感を誇った左腕・
井上温大だ。
他球団のスコアラーはこう分析する。
「すごい球を投げますよ。直球は手元でホップするような軌道で、スライダーも縦と横の2種類でとらえるのが難しい。ファームで見せる投球を一軍で発揮すればそうそう打たれないでしょう。ただ、それが難しいんですけどね。素質は抜群なので、きっかけをつかめば大化けする可能性を秘めています」
侍ジャパン相手に好投
プロ入り後、左肘頭スクリュー挿入術を受けて育成契約を経験した左腕だが、22年に支配下に再昇格。9月23日の
中日戦(バンテリン)で6回7安打3失点に抑えプロ初勝利を挙げた。最速150キロの直球とキレ味鋭いスライダーを軸に、24回を投げて27三振は目を見張る数字だ。プロ野球ファンに強烈な印象を残したのが、同年11月に侍ジャパンと対戦した強化試合だった。同年に三冠王に輝いた
村上宗隆(
ヤクルト)を内角へ力のある146キロ直球で遊飛に仕留めるなど、3回1安打4奪三振の快投。課題だった制球力も無四球と完ぺきな内容だった。
井上は週刊ベースボールのインタビューで、「本当に抑えられるとは思っていなくて、『当たって砕けろ』という感じで投げたんですけど、結果的に0点に抑えることができて、本当に自信になりました。それ以降の練習にもポジティブな気持ちで臨むことができたし、特にストレートに自信を持ちながら練習することができたので、本当にいい経験ができたと思います」と振り返っている。
先発ローテに割って入る
若手のブレーク候補と期待された昨季だったが、2月の春季キャンプ終盤に左肘の違和感を訴えて戦線離脱。リハビリを経て実戦復帰まで約3カ月間の月日を要した。6月23日の
広島戦(マツダ広島)がシーズン初登板となったが、4回2失点で降板。先発で4度のチャンスを与えられたが、5イニングを一度も投げ切れなかった。9月3日の
DeNA戦(横浜)は1回6安打7失点KO。ファームでは腕を振ってテンポよく投げていたが、一軍では変化球の精度が低いため投手不利のカウントになり、痛打される場面が目立った。
4試合登板で0勝1敗、防御率10.95。技術面で磨かなければいけない点はまだまだ多いが、球自体は決して悪くない。制球を気にするあまり慎重になりすぎ、持ち味の大胆さが失われているように感じた。
巨人の先発陣は
戸郷翔征、
山崎伊織、
グリフィン、
メンデスが確定。残り2枠は
赤星優志、
菅野智之が有力候補だが、
横川凱、
松井颯、
ソフトバンクからトレードで加入した
高橋礼が虎視眈々とチャンスを狙っている。ルーキーの
西舘勇陽、
森田駿哉も先発で起用されるなら競争に割って入ることになる。井上も負けられない。春季キャンプは二軍スタートなったが、コンディションを整えて実戦で結果を残し続ければ光が見えてくる。
巨人の日本人左腕は
高橋優貴が21年に11勝をマークしたが、22、23年と2年連続で5勝以上をマークした投手がいない。他球団を見ると、先発左腕の活躍が目立つ。阪神は
大竹耕太郎、
伊藤将司が2ケタ勝利をマークし、
オリックスも
山崎福也(現
日本ハム)、
宮城大弥、
田嶋大樹の3投手で計27勝を積み上げた。巨人も井上が2ケタ勝利を挙げる活躍を見せれば、V奪回にぐっと近づく。救世主になれるか。
写真=BBM