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【大学野球】完全優勝した早大の心の拠り所「歴史は繰り返される」 部長の野望「早稲田で完結させる」を実現

 

2022年4月に第11代部長就任


早大・日野愛郎野球部長は2022年就任。初めてリーグ制覇を経験し、学生たちの手によって、神宮の杜を舞った[写真=矢野寿明]


【6月2日】東京六大学(神宮)
早大12-2慶大(早大2勝)

 早大が2020年秋以来、7季ぶり47度目の東京六大学リーグ戦制覇を遂げた。優勝回数で並んでいた法大を抜き、単独最多となった。

 対戦5カードから勝ち点5の完全優勝(10勝2敗)の背景には、心の拠り所があった。早大ベンチのホワイトボードには毎試合、「歴史は繰り返される」と書かれていた。立大との開幕カードを前にしたミーティングで、日野愛郎野球部長は選手の前でこう言った。

「慶應と明治で4連覇以上したのは、過去に3回あります。そこで優勝を阻止したのは、早稲田。歴史が物語っている。あとは安心して、普段のどおりの力を発揮すればいい」

 一つの暗示をかけたわけだが、学生にはリラックス効果となった。日野部長は2022年4月に野球部の第11代部長に就任。いつも話に引き込まれる。野球部内だけでなく、節目のあいさつのたび、東京六大学リーグ戦における歴史を題材に話を展開。裏付けとなる明確な事象を紹介するため、説得力があるのだ。

 早大は2024年、6年に1回、東京六大学リーグ戦の当番校である。各校の野球部長が「連盟理事長」の役を担う。今春のリーグ戦の開会あいさつと閉会あいさつでは、学生に寄り添う内容が心に残った。多くの4年生がコロナ禍で春、夏の甲子園大会が中止となった2020年を経験した当時の高校3年生。「何の制約もない中でプレーできたことは深い意義がある」と語った。また、冒頭では「予定されていた15カードの対抗戦を終えることができました」と、東京六大学の最大の醍醐味である加盟6校による対抗戦について触れた。「7カード以上が3回戦までもつれるのは2016年春以来」と、過去のデータを持ち出し、興味を引いた。儀礼的なスピーチではなく、入念な準備をしてきたメッセージは、人の記憶に刻まれる。

勉強熱心で生徒に寄り添う


神宮球場の早大ベンチのホワイトボードには「歴史は繰り返される」の文字が書かれていた[写真=矢野寿明]


 日野部長は元野球人だ。早稲田高では軟式野球部に所属し「一番・二塁」に副将として活躍。東京都大会決勝で早実に敗退し、全国大会にはあと一歩、届かなかった。早稲田大学野球部に入部する「覚悟」はなかったという。

「このレベルでは……。改めて野球部長という立場となって学生たちの取り組みを見ていますが、大学4年間を捧げる部員たちをリスペクトします」

 早大時代は東京六大学リーグ戦を観戦。「ライトスタンドの学生席で応援する機会が多かったんですが、ちょうど慶應に高橋由伸さん(巨人元監督)が在籍しており、何度、近くまでホームランボールが飛んできたことか(苦笑)」。母校への愛着。神宮の杜では肩を組んで『紺碧の空』を歌ったのが思い出だ。

 その後、早大政治経済学術院教授として教壇に立ち、研究活動を続けていた2021年11月、事態は大きく動いた。

「前野球部長の川口浩先生と大学の廊下ですれ違うと『これだけは、断らないで聞いてほしい』と。『(次の)野球部長をやってほしい』との要請でした。冗談かと思いました(苦笑)。まさしく、青天の霹靂です。一度、考えさせてくださいと持ち帰ったんです。初代野球部長である安部磯雄先生は、政治経済学部の初代学部長を務めました。野球部の歴史としても、政治経済学部の教授が4代続いてきた経緯もあり、恩返しができることがあればと、お引き受けをさせていただきました」

 勉強熱心であり、繰り返しになるが、学生に寄り添う。現場に近い野球部長である。就任1年目の夏、新潟・南魚沼キャンプではジャージーに着替え、グラブを持ち、フリー打撃の球拾い役を買って出た。熱血漢にあふれる。

2人のレジェンドに報告


2024年は早大が当番校。東京六大学野球連盟理事長である早大・日野部長から、早大の主将・印出に天皇杯が授与された[写真=矢野寿明]


 当番校として東京六大学野球連盟の理事長を務める今春、日野部長には、密かな野望があった。

「早稲田で完結させる」

 学生たちはベンチにある「歴史は繰り返される」を信じて戦った。早大の初代監督・飛田穂洲氏の教え「一球入魂」を全12試合、徹底してきた。立大、明大、東大、法大、慶大から勝ち点を奪取し、天皇杯奪還を決めた。

 いよいよ閉会式である。早大・藤田南マネジャー(4年・開智高)が場内アナウンスで「天皇杯授与」をコール。控えていた表彰補助の早大の主務・中原由信(4年・早実)から理事長である日野部長、そして早大・印出太一主将(4年・中京大中京高)へと手渡された。日野部長が思い描いていた「早稲田で完結」を成し遂げたのだ。

 閉会式後はすぐにバスで西早稲田の早大総合学術情報センター(中央図書館)へ向かった。初代部長・安部磯雄先生、初代監督・飛田穂洲先生の胸像前での優勝報告。かつての旧安部球場があった、早大にとって原点の場所。日野部長はチーム本隊よりも先に移動し、到着を待った。この日は試合中から激しい雨が降り注いでいたが、優勝報告の約2分間は、小雨に。天国からV奪還を見届けた2人のレジェンド。胸像も微笑んでいるようだった。

「東京六大学の重み、天皇杯の重みをあらためて感じました。安部先生の命日(2月10日)に合わせて毎年2月11日、野球部として墓参を行っています。その後、旧安部球場の跡地を訪れ、献花をしました。そこで『春に戻ってきます!』と、安部先生と心の中で会話をしました。実現できて良かったです」

 優勝報告の後は優勝パレード、優勝報告会と祝賀行事が続いた。野球部は大学、学生、ファンとともに歓喜を共有。昨秋は慶大1回戦で優勝に王手をかけてから2連敗し無念のV逸。「多くの関係者が(祝賀行事の)準備をしてくださったにも関わらず、申し訳ない気持ちでした。この準備を実らせることができて良かったです」。気配り、心配りの野球部長から指導を受けられる学生たちは幸せだ。

文=岡本朋祐
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