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ベンチで涙も…阪神のキーマンは「福留孝介と重なる打撃センス」の若武者

 

チャンスメーカーとしての輝き


5月31日のロッテ戦でプロ初本塁打を放った前川


 大山悠輔シェルドン・ノイジーと主軸で期待された選手が打撃不振でファームに降格する想定外の事態を迎えた阪神。「不動の一番」だった近本光司が6月から四番に抜擢された中、二番でチャンスメーカーとして輝いているのが前川右京だ。

 高卒3年目の21歳。時折見せる表情はまだあどけないが、打席に入ると野武士のような佇まいで鋭いスイングを見せる。昨年は33試合に出場したが、3三振を喫して途中交代した際はベンチで涙を浮かべる場面も。向上心旺盛の若武者は悔しかったのだろう。6月に月間打率.358をマークしたが、8月2日に登録抹消以降は体調不良で実戦から遠ざかり、リーグ優勝、38年ぶりの日本一を味わう歓喜の瞬間をグラウンドで迎えられなかった。

 今季はノイジーが左翼のレギュラーに最も近かったが、打撃の状態が上がらないため5月27日にファーム降格。熾烈なレギュラー争いが繰り広げられている。岡田彰布監督は開幕前に週刊ベースボールで、チーム力の底上げへ若手の台頭の重要性を強調していた。

「こうした若い力の突き上げがないと、『連覇』は簡単ではない。オレはそう考えている。いまのチームはしっかりと出来上がりつつある。レギュラーもほとんどが決まっており、若いチームでありながら、安定して戦える構成になっている。ただ、これは阪神というチームの中でのことで、戦う上において他球団は戦力補強を行い、ウチに向かってくる。上回るには、こちらも昨年以上の強さにならねば。それにはさらなる層の厚みというのかな。若い力、新鮮な力が必要なのだ」

「沖縄キャンプから、多くの若手を起用して、試してきた。最初はオッと思うも、日々を重ねるごとに壁に当たり、一軍から落ちた選手もいたし、いまもなおテストは続いている。そんな中で野手では前川(右京)が一軍で使える力を付けてきた。そらチャンスよ。外野手で決まっているのはセンター・近本(光司)だけ。両翼はまだまだ分からんよ。その中に当然、前川は入っている。守備はまだまだこれからだけど、バッティングは、かなり成長している」

 3月29日の開幕・巨人戦(東京ドーム)。「六番・左翼」でスタメンに起用される。高卒3年目で開幕スタメン出場は2016年の横田慎太郎以来、球団史上8年ぶりだった。2回にエース・戸郷翔征の低めカーブを左前にはじきかえすと、4回に四球で出塁。その後の試合も三番や五番などクリーンアップで起用される。「六番・DH」で起用された5月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)では、2点差を追いかける6回無死一塁でフルカウントから美馬学の直球を振り抜くと打球は右中間のホームランテラスに飛び込んだ。プロ初アーチが起死回生の2ラン。試合は敗れたが、存在を強烈にアピールした。

鋭いスイングから快打


 試合を重ねることで加速度的に成長する。6月に大山がファーム降格の緊急事態で打線の再構築を迫られた際、新たな打順としてチャンスメークを託された。プロ入り以来初の二番でスタメン起用された6月5日の楽天戦(甲子園)で3回に先制の適時二塁打。二死から一番の中野拓夢が右前打を放つと、前川がフルカウントから内星龍の151キロ直球を振り抜き、打球は右中間を突破。スタートを切っていた中野が本塁生還した。一、二番で得点を奪った攻撃は大きなインパクトを残した。

 6月7日の西武戦(甲子園)では、1点リードの4回二死一、二塁の好機でサブマリン右腕・與座海人の直球を左前に運ぶ適時打。2四球を選び3出塁で勝利に貢献した。9日の同戦は今季2度目の猛打賞。7回は2点先制した直後の二死三塁の好機で右前適時打を放った。8回の打席も右翼深くに放った打球を好捕されたが完璧に捉えていた。

 6月5日の楽天戦(甲子園)から二番で7試合連続スタメン出場し、27打数9安打、打率.333。他球団のスコアラーは、「スイングが鋭く、見逃したと思ったらパッとバットが出てくる。ああいう打撃をできる選手はなかなかいない。選球眼も良い選手なので打ち取ることに苦労する。打撃センス、打席での雰囲気が福留孝介に似ていますよね」と評する。

 交流戦で5勝9敗と黒星が先行している阪神だが、投手陣が安定しているだけに打線が機能すれば白星を積み重ねられる。前川がブレークすれば、リーグ連覇がグッと近づくことは間違いない。

写真=BBM
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