昨年は打点王、最多安打
DeNA打線で四番を務める牧。走塁にも意欲的だ
混戦のセ・リーグで首位争いを繰り広げるDeNA。バットだけでなく、足でも魅せているのが不動の四番・
牧秀悟だ。
球界を代表する強打者であることに異論はないだろう。昨年は全143試合で四番を張り、打率.293、29本塁打、103打点をマーク。打点王と最多安打(164本)のタイトルを獲得した。目標に掲げていた100打点をクリア。シーズン終了後に週刊ベースボールのインタビューで、打点についてのこだわりを聞かれた際にこう語っている。
「入団するときには思っていましたね。大学時代からずっと継続してきたところですし、強い意志を持ってきました。また、より気持ちが強くなったのは2年目からチームの軸として打たせていただいて感じる部分があったからです。それは、四番が打つか打たないかということは、打席の結果以上に、試合の流れや状況を大きく変えるということ。良い意味でも悪い意味でもです。だからこそ、今年は特に強い思いを抱いて打席に立っていました」
「単純にたくさん打点を挙げようと思ったら、例えばですけど犠牲フライとか本塁打をはじめとした長打を増やすとか、遠くへ飛ばす意識を持つことも一つの手段だと思います。ただ僕の場合は、確実性を上げる方向に重きを置きました。試合中は遠くに飛ばすことを意識せず、とにかく一球で“仕留める"ことだけを考えるようにしていましたね。複数でなくても得点が入ることでチームも球場も盛り上がりますし」
新人年には打率3割
ただリーグ優勝を果たせなかった悔しさは残る。牧、
佐野恵太、
宮崎敏郎ら強打者をそろえながら520得点はリーグ4位。好投手から集中打で攻略することは難しい。得点力アップへ、チーム全体で取り組んだのが走塁への意識を高めることだった。牧は昨年までのプロ3年間で計7盗塁だったが、今年は進化した姿を見せている。右太腿裏の軽い肉離れで10日間戦線離脱した時期があったにもかかわらず、69試合出場でリーグ2位の9盗塁をマーク。失敗が一度もない。
「チームの中でずば抜けて速いわけではないですが、決して足が遅いわけではない。光るのは思い切りの良さと判断力です。投手の神経が向いていない瞬間を見逃さず、タイミング良くスタートを切れる。盗塁を重ねることで感覚をつかんできていると思います。今年は厳しいかもしれませんが、トリプルスリーに最も近い選手ではないでしょうか」(スポーツ紙デスク)
新人の21年に打率.314をマークしており、昨年は自己最多の29本塁打をマークしている。打率3割、30本塁打は牧の能力をすれば十分に達成できる。盗塁が最大の難関だったが、今年はタイトル争いを繰り広げていることで自信をつけていることは間違いない。
最後のトリプルスリーは2018年
2018年に自身3度目のトリプルスリーを達成した山田
トリプルスリーを最後に達成したのが、18年の
山田哲人(
ヤクルト)だ。プロ野球史上唯一の3度目の達成で打率.315、34本塁打、33盗塁を記録した。失敗は4つのみで、盗塁成功率89.2%という数字も価値がある。
野球評論家の
張本勲氏は19年10月に週刊ベースボールのコラムで、山田のすごさについて論じている。
「彼が『足の速さ』『スタート『スライディング』という盗塁をするための三拍子を兼ね備えていることは間違いない。個数は物足りないが、真面目で慎重な性格もあるのだろうし、『走らない』という選択も観察眼が優れているからなのかもしれない。盗塁でアウトになればチームに迷惑が掛かる。かつての
堀内恒夫(元
巨人)のようなクイックとけん制がうまいピッチャーが相手であれば、そう簡単に走れるものではない。そこを見極める観察眼が山田哲にはあり、だからこそ高い成功率を誇っているのだとは思う」
今年から主将に就任した牧を先頭に走塁への積極性がチーム全体に浸透し、42盗塁はリーグ2位。271得点も1位・ヤクルトに次ぐ。V奪回に向け、ダイヤモンドを駆け抜ける四番打者に要注目だ。
写真=BBM