ウエスタンでは格の違い

来日9年目の今季、一軍出場が15試合にとどまっているビシエド
借金12を背負い、残り23試合。
中日が置かれた状況は厳しい。CS進出に向けて勝ち続けるしかない。
貧打解消が低迷脱却のカギを握っていたが、311得点はリーグワースト。四番の
細川成也は120試合出場で打率.296、17本塁打、55打点と合格点を与えられるが、前後を打つ選手が固定できない。今季から加入した
中田翔は62試合出場にとどまり、打率.217、4本塁打、21打点。8月9日に腰痛で今季3度目の登録抹消とコンディションが整わず、力を発揮できていない。中田と同じく
巨人を退団して加わった
中島宏之は代打の切り札で期待されたが、開幕から15打数無安打。7月下旬以降はファームで調整している。
そして、中日ファンが気になる選手がいる。チームを長年支えたダヤン・ビシエドだ。首位打者、最多安打のタイトルを獲得した実績を持つ強打者だが、昨年は91試合出場で打率.244、6本塁打、23打点。今年は本職の一塁に中田を補強したことで厳しい立場になった。15試合出場で打率.209、1本塁打、2打点。一軍でプレーした期間は5月中旬から3週間もない。シーズンの大半をファームで過ごしているが、決してコンディションが悪いわけではない。ウエスタン・リーグで57試合出場し、打率.290、6本塁打、25打点。出塁率と長打率 を足し合わせたOPSは.845と格の違いを見せている。
獲得球団に大きなメリット
他球団のスコアラーはこう分析する。
「一軍で通用していないと言われますが、打席数が少ないですからね。ファームではバットが振れているし、下半身の粘りから手元まで引き付けて押し込む打法で逆方向に鋭い打球を飛ばしている。まだまだ一軍で通用すると思いますよ。全盛期のような輝きは厳しいかもしれないが、六、七番で打率.280、15本塁打ならクリアできる。いま日本でプレーしている助っ人外国人でこの成績に届かない選手が大半です。ビシエドは日本野球を熟知していますし、FA権を取得して『日本人扱い』となったことも獲得球団は大きなメリットです」
中日は
石川昂弥が8月から一塁でスタメン出場しているが、一塁の定位置を固定できていないチームは少なくない。最下位に低迷する
西武は新外国人のヘスス・アギラーが「四番・一塁」で開幕から先発起用されていたが、30試合出場で打率.204、2本塁打、10打点と期待外れの成績に。5月上旬に登録抹消されると、8月22日に右足関節後方の鏡視下クリーニング手術を行ったことが発表され、今季限りでの退団が濃厚となっている。
楽天も
鈴木大地、
マイケル・フランコなどが一塁で起用されているが固定できていない。
オリックスは昨季首位打者の
頓宮裕真が打撃不振で、
レアンドロ・セデーニョも確実性を欠いている。パ・リーグは指名打者制のため、一塁だけでなく起用法の幅が広がる。
他球団で復活したベテラン

97年の開幕戦で3打席連続本塁打を放った小早川
出場機会を減らしたベテランが他球団に移籍して復活を遂げたケースは過去にある。1980年代に
広島の主力打者として活躍した
小早川毅彦氏は96年に6試合出場にとどまり、
ヤクルトに移籍。当時の
野村克也監督に評価されて97年の開幕戦・巨人戦(東京ドーム)に「五番・一塁」で抜擢されると、前年まで3年連続開幕戦完封勝利を挙げていた相手エース・
斎藤雅樹から3打席連続本塁打で勝利に貢献した。野村監督は「あの3発や。負け犬根性も、斎藤への苦手意識も見事に払拭してくれた。小早川の3本がすべてや」と絶賛。同年は116試合出場で打率.249、12本塁打、33打点をマークし、リーグ優勝、日本一の立役者になった。小早川氏は現役引退後に、ヤクルト時代の3年間を振り返っている。
「僕が移籍したときは36歳でしたがそれでも1クールに1回は特守があり、いつも
辻発彦さんと一緒に受けていました。辻さんは僕より年が上なのに僕のほうが早くばてていて、何とかついていこうと必死でした。辻さんと一緒に特守を受けていたからこそ頑張れましたね。ヤクルトではサインプレーやフォーメーションなどは何度もやります。しっかり頭で理解させる感じ。分かっていても、ミスすることはありますが、そのできなかったことに対してなぜできなかったのかを聞かれます。理解してのミスなのか、分かっていなくてミスしたのか。聞かれたときに答えられるよう準備をしておかなくてはいけない」
小早川氏の広島最終年と35歳のビシエドの境遇が重なる。来季も中日のユニフォームを着るのか、それとも──。
写真=BBM