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【大学野球】「次の世代へ夢を与えたい」 慶大に残る「一般入試組」が活躍する土壌

 

「秋は4年生が活躍しないと、勝てない」


慶大には4年生の副将・斎藤快[左]の弟・開地[右、1年]が在籍する[写真=BBM]


 今春の伝統の早慶戦。慶大の先発9人には1回戦で7人、2回戦で6人の慶應義塾高出身者が並んだ。チーム内競争を勝ち抜いた精鋭。このベストオーダーを発奮材料にしていたのが、副将・斎藤快太(4年・県立前橋高)である。

 斎藤快は堅守を武器に、3年春は遊撃手、秋は二塁手のレギュラーとして出場。しかし、今春は開幕から4試合先発も、その後はベンチを温める機会が多かった。早慶戦2試合では出番がなく、連敗を喫した。チームは秋春連覇を逃し、リーグ戦3位に終わった。

「秋は4年生が活躍しないと、勝てない」

 2003年入学者から慶應義塾高で推薦入試がスタートして以降、文武両道を実践する優秀な選手が入学するようになった。以降、激戦区・神奈川から甲子園に名乗りを上げ、昨夏は107年ぶり2度目の全国制覇。慶大にはスポーツ推薦入試が存在しないだけに、一貫教育校からの入部者は貴重な戦力になっている。

 慶大は部員198人の大所帯。AO入試、指定校推薦など、さまざまな入試経路で入部してくるが、一般入試組が活躍する土壌も残る。

 過去を振り返れば、1992年秋に二塁手・赤池行平(長野高)、主将で遊撃手・印出順彦(土浦日大高)、外野手・古葉隆明(広島城北高)の「二浪三羽ガラス」が中心選手としてリーグ優勝を遂げ、明治神宮大会を制した時代もあった。自力で入学した斎藤快も「KEIO」への熱き思いは、誰にも負けない。

「あこがれて受験を頑張って入った慶應なので、残りの学生生活を後悔なくやり切りたい」

 斎藤快は前橋七中時代に三塁手で全中に出場した実力者である。両親が高校の教員であり、教育熱心な家庭に育った。「勉強、野球でも一番を狙う。小学生のときから決めていた」と、県内トップの進学校・前橋高に進学した。1年時に慶大・柳町達(ソフトバンク)のプレーを見て、神宮でのプレーにあこがれた。

「指定校推薦では学校評定が足りなかったので……。自分の場合、慶應に入るには学力でしか方法がありませんでした。得意科目を伸ばすやり方で、学部も絞って受験しました」

 3年夏の引退後は「学習する環境が整っている」と、予備校には通わず、学校内の自習室にこもった。教員からの受験指導、過去問などをこなし、現役で慶大商学部に合格した。

弟も難関入試を突破


 2020年春から母校を指揮する堀井哲也監督も静岡県立韮山高校から一般入試で入学し、4年秋にレギュラー奪取というたたき上げ。斎藤快には公立校出身の「一般入試組」としてのプライドがある。今年の4年生には斎藤快と同様、2人の「苦労人」がいる。捕手の森谷史人(4年・福岡高)は今春にリーグ戦初出場を遂げ、明大1、2回戦では先発マスクをかぶり、初安打も放った。外野手の古野幹(4年・岸和田高)は2年秋から代走・守備要員でベンチ入りすると、今春は4試合に先発(左翼手)し、リーグ戦初ヒットを含む3安打を放った。公立校出身の希望の光だ。

 古野は大阪の府立校から1年の浪人を経て入学。斎藤快は合宿所でよく話をするという。

「僕らのような境遇の選手が神宮でプレーすることで、次の世代へ夢を与えたい。受験生にしか分からない苦しみ、不安を経験してきました。先が見えない厳しい日々を乗り越えた強さを、野球に生かしたいと思っています」

 主将の二塁手・本間颯太朗(4年・慶應義塾高)、副将の三塁手・水鳥遥貴(4年・慶應義塾高)、一塁手・清原正吾(4年・慶應義塾高)に加え、副将・斎藤快が遊撃手のレギュラー陣に加わるのが理想の布陣。V奪還へ、最上級生の活躍がチーム浮上のカギとなる。

「自分は言葉で、どうこう言うタイプではありません。姿勢から何かを感じてほしいです」

 学生ラストシーズン、斎藤快にはもう一つの発奮材料がある。この春、弟の開地が塾野球部に入部した。兄の背中を追い、県立前橋高から1年の浪人生活を経て、商学部の難関入試を突破してきた。

「努力が報われて良かったです。(168センチ72キロの)弟は(168センチ68キロの)僕と同じような右投げ右打ちの内野手。まずは守りからチームの信頼を得て、地道にコツコツと頑張ってほしいです。自分が活躍すれば、励みになるはず」。弟・開地の同級生である1年生には、昨夏の慶應義塾高の甲子園Vメンバーが在籍しており、エリートたちへ果敢に挑んでいく形になる。

 斎藤快は慶大卒業後、社会人野球でプレーを続ける。レベルアップする上で、目指すは「プロ野球選手」だ。

 学生野球の集大成、秋の東京六大学リーグ戦は9月14日に開幕する。大学入学以来4年、下積みから這い上がってきた「慶應らしい選手」である斎藤快に、派手さはない。堅実かつ献身的に動く神宮での1プレー1プレーから「KEIO」でプレーできる「感謝」と「勇気」を発信していく。

文=岡本朋祐
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