3時間16分の大熱戦

2018年から母校・広島商高を指揮する荒谷監督は「令和の精神野球」を追求している[写真=田中慎一郎]
11月23日 神宮
【第55回記念明治神宮野球大会】
▼準決勝
広島商高11-9敦賀気比高
(延長11回タイブレーク)
第55回記念明治神宮野球大会の4日目(11月23日)の第2試合、広島商高(中国地区/広島)が敦賀気比高(北信越地区/福井)との準決勝を、延長11回タイブレークの末に制した。初出場の広島商高は、決勝で横浜高(関東地区/神奈川)と対戦する。
7回を終えて、広島商高が5対0でリード。一塁ベンチで母校を指揮する荒谷忠勝監督は「全国レベルの敦賀気比さん。経験豊富な東(哲平)監督であり、このまま簡単に終わるとは思っていなかった」と警戒していた。
先発の右腕・大宗和響(2年)は7回まで4安打無失点にしのいでいたが、8回裏に3失点、9回裏に2失点で追いつかれてしまう。5対5で決着つかず、延長タイブレークだ。
広島商高は10回表に3点を勝ち越し。大宗は9回で152球を投じていたが、荒谷監督は続投させた。背番号10を着けた左腕・徳永啓人(2年)が前日の初戦(2回戦、対東海大札幌高)で8回無失点という状況も考慮した上での決断だった(大宗は救援で1回無失点)。
「ここまで継投できまして、先発完投できる投手力を、私の指導力不足で育てられないのが現状(苦笑)。この時期ですので、どこまでいけるか……。(大宗には)背番号1を着けている分、厳しい場面を経験させたかった。守りのミスもありましたが、5対0から追いつかれましたが、投げ切れる投手になってほしい。新チームになって3カ月。未熟な選手も多い。大会を経験することで、次のステップへと成長するきっかけになってほしい」
大宗は10回裏、3点リードも守り切れなかった。エースへの期待は、11回表も続いた。八番・大宗は無死一、二塁の継続打順である先頭打者で打席に立ったが、バントで走者を進めることができなかった。
正攻法では代打の選択肢もあったはずだが、今後を見据えていた荒谷監督は、9人目の打者としての役割を、あえて託した。「投手と言っても、決めてほしかった。他の選手がカバーしてくれたので、次は頑張ってくれると思います」。次打者も三振で二死一、二塁となったが、ここら打線がつながって3点を挙げた。11回裏。184球を投げた大宗に代わり、リリーフした徳永が敦賀気比高の反撃を1点にしのぎ、11対9で逃げ切った。3時間16分の大熱戦だった。
「むしろ、ウチのペースかな、と」
なぜ、2度追いつかれながらも、勝ち切れたのか。9回土壇場で同点とされても、広島商高ベンチは沈まなかった。荒谷監督は明かす。
「彼らはタフな部分があって、落ち着いていた。むしろ、ウチのペースかな、と」
1万人の観衆が見守る中で踏ん張れた要因は何か。チャレンジャー精神にある。
広島商高は今夏の広島大会で2年連続準優勝。決勝では、いずれもライバル・広陵高に惜敗した。新チームは野手2人(一塁手・小田健登、主将で二塁手・西村銀士)が残ったのみで、投手は総入れ替えだったという。
「ウチは夏の選手権からの逆算でチーム編成をしているんです。その過程の中で、この秋は、明治神宮大会出場を目指してきました。広島大会、中国大会を通じて素晴らしい相手校さんとの対戦を通じて、一戦一戦、成長させていただいています」
決勝は甲子園で春3度、夏2度の優勝を誇る横浜高が相手である。
報道陣から横浜高でマークする選手を問われると荒谷監督は「全選手。投手2人も良いですし、野手も素晴らしい」と答えた。
相手を見るよりもまず、自分たちの野球が展開できるかにフォーカスする。
「今大会も良いチームと対戦させていただいている中で、広商も成長させてもらっている。チャンスですのでどん欲にいきたい。今できる広商の野球をやる。1球1球、全力でできるように準備するだけです」
広島商高は春1度、夏6度の優勝実績がある。最後の全国制覇は昭和最後の1988年夏。春22回、夏23回の全国大会出場があるが、平成以降は春5回、夏2回とかつての黄金期から比較すれば苦戦が続いている。多くの広島県民が「古豪復活」を心待ちにしている。OBの荒谷監督は伝統を継承しつつも、新たな道を模索し日々、丁ねいに指導。心を込めた「令和の精神野球」を、後輩につないできた。
長く高校野球界をけん引してきた名門校同士の頂上決戦は11月25日(10時試合開始)、神宮球場で行われる。
文=岡本朋祐