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第55回記念明治神宮野球大会

【神宮大会】横浜・村田浩明監督が東洋大姫路戦で内野5人シフトを決断できた理由

 

絶体絶命のピンチで


1対1の11回表、無死二、三塁からの遊ゴロで生還する主将・阿部葉太[2年]。これが決勝点となった[写真=田中慎一郎]


11月23日 神宮
【第55回記念明治神宮野球大会】
▼準決勝
横浜高3-1東洋大姫路高
(延長11回タイブレーク)

 第55回記念明治神宮野球大会の4日目(11月23日)の第1試合、横浜高(関東地区/神奈川)が東洋大姫路高(近畿地区/兵庫)との準決勝を、延長11回タイブレークの末に制した。25日の決勝では、広島商高(中国地区/広島)と対戦する。

 1対1のまま延長タイブレークに入った。横浜高は10回表が無得点に終わり、10回裏は一死満塁という絶体絶命のピンチを迎えた。一塁ベンチの横浜高・村田浩明監督は動いた。10回裏から左翼に入っていた大石宙汰(2年)に代わり、内野手の林田滉生(1年)を入れ、二塁ベースに就かせた。レフト付近はガラ空き。内野5人のシフトを敷いたのである。

「1点取られたら終わりなので、100回に1回、1000回に1回のプレーかもしれませんが、あれも、野球。いろいろな勝ち方がある。相手打者(九番・投手の阪下漣、2年)のデータを見ると、引っ張りがない。あのシフトも、当たり前のようにできました。二塁ベースに就かせた林田は初出場なので、そこだけが不安でした。実は昨年の熊野ベースボールフェスタでも敦賀気比さんを相手に一、二塁間に3人を置いて最後、ホームゲッツーで終わっているんです。バットも変わって、いろいろな準備をしないといけない。当たり前にできたので、違和感はない。一塁手はバントケア。遊撃手に飛んだら『6-7-1』。一塁手の小野(舜友、1年)は一塁ベースカバーに間に合いませんから、ピッチャーの奥村(頼人、2年)が入る。奥村は野球小僧です。こうしたシフトの練習ではいつも、引っ張ってくれている。15通りぐらいあります」

横浜高は10回裏一死満塁で内野5人のシフトを敷いた。データを入念に分析した上での決断で、レフトのポジションはガラ空きだった[写真=田中慎一郎]


 奥村頼は阪下を空振り三振に斬ると、好打者の主将で一番・渡邉拓雲(2年)を二ゴロに仕留め、窮地を脱した。先発は奥村頼で5回無失点。6回からの4イニングは、150キロ右腕・織田翔希(1年)が1安打1失点に抑えた。タイブレーク以降、村田監督は左翼に入っていた奥村頼を再登板させている。

「(10回の奥村頼へのスイッチは、関東大会決勝で)健大高崎のときに(タイブレークで)投げているので、経験に勝るものはない。スパッと代えました。(ストレートばかり)思っていたよりも刺されていたので、小手先で投げるな、と、自信を持っていけ、と」

 横浜高は11回表一死二、三塁から内野ゴロの間に1点を勝ち越すと、奥村頼の左前適時打で貴重な1点を加えた。11回裏は奥村頼が無死満塁のピンチも後続3人を抑えた。横浜高がスリリングな強豪校対決を勝ち切った。

「アウトの仕方はたくさんある」


この試合の観衆は1万5000人。内野席は埋まり、外野席も開放された[写真=田中慎一郎]


 なぜ、村田監督は内野5人を決断できたか。

「選手は勝負している。自分も勝負しないと。負けたら自分の責任なので。数々の負けを経験してきたので、割り切ることも大事です」

 さらには、2つの背景があった。まずは、横浜高伝統のスキのない野球の継承である。2020年4月から指揮する村田監督は言う。

「私の恩師である渡辺(元智)監督、小倉(清一郎)部長から学んできました。良いことは残す。変えていくところは、変えていく。シフトは相手打者、状況にもよるチームの力量など、見てできることで、すべての手を打っています。今日に限って言えば、長打は仕方ない、と。後ろに下げて、ポテンヒットだけは避けたかったので……。(シフトに)答えはないです。全員野球、総力戦です」

 そして、こう続ける。

「横浜高校は守りからのリズムを大切にしています。守れない選手は使いたくない。打つよりも、守りのほうがミスを防げる。やれることをやり、アウトにする。アウトの仕方はたくさんあります。(ボールを)持っていない選手がどれだけ(プレーに)入っていけるか。バスケットボールをよく見に行くんですが『バスケ野球だ』と言っています」

 準優勝だった2007年以来の決勝進出。平成の怪物・松坂大輔(元西武ほか)を擁した1997年以来の優勝まで、あと1勝である。レジェンド・松坂は、今でも横浜高のシンボルだ。後輩にあたる村田監督も背筋を伸ばす。

「松坂さん? 皆、あこがれています。ただ、私たちは今回、そこではなくて、勝ち続けたい。完全優勝しよう、と。(今秋の新チーム結成から)15連勝。そこしか見えていない。(今日は)あくでも14勝目。たくさん成長させていただいて、その先に優勝があると思っています。『横浜1強』と決めている。(出場が有力視される来春の)センバツもそう、春の県大会、関東大会、夏の県大会と続いていきますので、納得したらそこで終わりです。我々は成長し続けるしかない。すごい舞台で、この多くの観衆の中で、素晴らしい相手と試合をさせていただき、成長しないわけがない」

 目の前の1プレーに執着し、勝利を追求する。「一戦必勝」。どの学校も使うフレーズだが、横浜高には勝負に向かうまでの確固たる裏付けと、実際にプレーする高い精度がある。

文=岡本朋祐
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