近年は出場機会が減少

今季は代打がメインの役どころだった茂木
楽天から国内FA権を行使した
茂木栄五郎が
ヤクルトに入団することが決まった。
新人の2016年から117試合出場と主力になり、2年目に打率.296、17本塁打、47打点をマーク。19年は打率.282、13本塁打、55打点で自己最多の160安打をマークしている。思い切りよいスイングで広角に長打を飛ばし、コンタクト能力が高い。守備も内野は全ポジションこなすユーテリティーで起用法の幅が広い。
だが、近年は出場機会を減らしていた。22年は73試合、昨年は8試合出場に終わり、今季は46試合出場で打率.265、1本塁打、8打点。主に代打での出場が多かった。6月4日の
阪神戦(甲子園)では、同点の延長10回二死二塁で、代打で登場すると156キロの直球を強振し、右中間に決勝の適時三塁打。「ほぼほぼ阪神ファンの中で、こういうふうに自分の仕事を全うできたのはすごく価値があるのかなと思います」と納得の表情を浮かべ、
今江敏晃前監督も「ここ最近、代打の神様のような存在になってくれて、非常にいい仕事をしてくれていると思います」と称賛していた。
代打の成績は驚異的だ。25打数12安打で打率.480、1本塁打、5打点。出塁率.519、得点圏打率.385と圧巻の数字が並ぶが、目指すのは「代打の切り札」ではない。もう一度レギュラーで勝負したい――。楽天への愛着は強かったが、新天地で勝負することを決断した。
選手層が薄いヤクルト
2年連続5位に低迷したヤクルトは選手層が薄いことが不安要素だった。今季はリードオフマンの
塩見泰隆がケガで長期離脱し、一番を固定できず。二塁のレギュラーを務める
山田哲人も度重なる故障やコンディション不良で、思い描いたパフォーマンスが発揮できないシーズンが続いている。三塁の
村上宗隆は来オフにポスティングシステムを利用してメジャーに挑戦することが確実視されている。複数のポジションを守り、強打が魅力の茂木に掛かる期待は大きい。
スポーツ紙記者は「
坂口智隆のように環境が変わって、輝きを取り戻すケースがある。早大出身の茂木は六大学野球で使用していた神宮球場には愛着があるでしょうし、もう一花咲かせてほしいですね」と期待を込める。
ヤクルト移籍で再飛躍

オリックスからヤクルトへ移籍したことが転機となった坂口
FA移籍ではないが、坂口智隆と茂木の野球人生は重なる部分がある。坂口はオリックスで11年に最多安打のタイトルを獲得し、中堅の守備でもゴールデン・グラブ賞を4度受賞と主力選手として活躍していたが、故障や若返りのチーム方針もありスタメンから外れる機会が増えるようになり、15年は36試合出場で打率.262、1本塁打、5打点、1盗塁。同年オフに自由契約を申し入れて退団した。
ヤクルトで外野の定位置を確約された立場ではなかったが、16年から3年連続150安打以上をマーク。18年は
青木宣親がメジャーから復帰したため、野球人生初の一塁に挑戦した。不慣れな守備位置だったが試合前に特守を繰り返すなどひたむきに努力し、打率.317、3本塁打、37打点、9盗塁の好成績をマーク。出塁率.406は自己最高の数字だった。
22年に現役引退するまでヤクルトで7年間プレー。近鉄、オリックスを含めた3球団で20年間のプロ野球人生を駆け抜け、通算1526安打を積み上げた。坂口は週刊ベースボールのインタビューでこう振り返っている。
「僕自身はプロ野球の世界で、ベテラン、若手で括られるのが嫌だったので、抗ってやろうというのをモチベーションにしていました。例えば二軍にいて、若い選手の前で、ベテランっぽいプレー、わかりやすい例で言えば走らなくても大目に見られるというのは嫌で、見られていると意識することで動ける部分がありました。あとは、『これくらいやっていれば、あのくらいの数字を残せるんや』と思われたくない、そこにはしっかり差を見せたいというのもあって、そういう意味では、まだまだ進歩しないといけないと思えたのは、若い選手たちのおかげでもあったと思います」
茂木も坂口と同様に30代前半で新天地に移籍した。新しい仲間から得られる刺激は多いだろう。どんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。
写真=BBM