7月24日のメッツ戦でショートのリンドーア[左]と話すソト[右]。今オフにプロスポーツ史上最高額で契約し、来季からメッツのユニフォームに袖を通すことになった。ここ最近の有望な若手は早期に巨額の契約を結ぶため、ソトの記録はしばらく破られそうにない
球界の盟主ヤンキースの看板が揺らいでいる。フアン・ソト争奪戦で16年総額7億6000万ドルを提示しながら、メッツの15年総額7億6500万ドルに敗れた。平均年俸で年に450万ドル分少なかった。
加えてメッツがソトの家族のために本拠地シティー・フィールドのスイートルームを提供したのに対し、ヤンキースはそれを拒んだ。ブライアン・キャッシュマンGMは「一部の高収入の選手たちは、スイートルームが欲しければ自分で購入した。C.C.サバシア、アーロン・ジャッジ、ゲリット・
コールなどだ。以前の取り決めを尊重することが重要だと感じている。そこに後悔はない」と説明している。
ヤンキースは2009年以降、ワールド・シリーズから遠ざかっていたが、24年はソトの加入で檜舞台に返り咲いた。1年前、マイケル・キング投手ら5人の選手をパドレスにトレードして獲得したソト。アーロン・ジャッジとのコンビはベーブ・ルースとルー・ゲーリッグを彷ふつとさせ、ファンを熱狂させたが、この関係がわずか1年で終わった。
ヤンキースのハル・スタインブレナーオーナーの下では24年、初めてチームのサラリー総額が3億ドルを超えたが、「正直に言うと、現在の給与水準では、財政的に持続可能ではない。ぜいたく税を支払わなければならないことを考えると、ほとんどのオーナーグループにとって難しい」と5月に話した。
しかしながら、ヤンキースは23年も6億7900万ドルとMLB30球団で別格の収益をあげていた。メッツのスティーブ・コーエンオーナーが莫大な個人資産を持っているからとはいえ、スタインブレナーには長年球界の盟主だったチームのオーナーとしてプライドはないのかと思う。
そもそも1年前の
大谷翔平争奪戦のときも、もっと熱心に動くべきだったと感じる。ソトについてもシーズン中にもっと人間同士の絆を深められていれば良かったのだが、「プレーの邪魔にならないよう距離を保った」とスタインブレナーは言い訳をしている。
それにしても7億6500万ドルとは驚いた。言うまでもない、大谷翔平の10年総額7億ドルという目標があったため、それを飛び越える形になった。感心するのはソトが22年にナショナルズから15年総額4億4000万ドルのオファーを受けながら、それを断り、今回のFAに賭けたことだ。
ダイヤモンドバックスのコービン・キャロル、ロイヤルズのボビー・ウィット・ジュニア、マリナーズのフリオ・
ロドリゲスは早期に巨額の契約を結び、FAを回避した。20代前半で人生を変えるような金額を提示されれば、それに手を出してしまうのは仕方がない。パドレスの
フェルナンド・タティース・ジュニアも21年、20歳でパドレスと14年総額3億4000万ドルの契約にサインした。
だがソトはケガのリスクを恐れず、歴史的な契約にたどり着いた。今後しばらくはこの数字は塗り替えられないだろう。ブルージェイズのブラディミール・
ゲレーロ・ジュニアは25歳で1年後にFAだが、ソトほど成績が安定していない。ちなみに01年にアレックス・ロドリゲスがレンジャーズと10年総額2億5200万ドルでサインしたときは、それを超える選手が現れるまで10年以上がかかっている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images