いよいよ、正捕手獲りのシーズンが始まる。昨季は65試合の出場で10本塁打を放ち、その足場を築いた。それでも、黒田博樹の復帰、新外国人の加入で昨年以上に充実した投手陣を引っ張るにあたり、最も必要なのは捕手としての向上。新たに背負う「27」に見合った働きが、チームを24年ぶりのリーグの頂点へと導く。 取材・構成=菊池仁志
写真=川口洋邦、BBM 真の正捕手とは
――今季はレギュラーとして本塁を守るのが目標となります。
會澤 昨年、後半戦からスタメンマスクが増えましたが、一番大事な9月戦線をケガで離脱したことが悔しさとして強く残っています。スタメンで出続けるつらさ、きつさも分かりました。それを経験できたので今年はどうすればずっと出続けられるかを考えて昨年の秋からやってきたつもりです。しっかりアピールしてレギュラーをつかみたいと思います。
――昨年、8月31日の
中日戦(ナゴヤドーム)で、右太ももを肉離れしました。シーズン中に復帰しましたが、万全ではありませんでしたね。
會澤 正直、そこまで良い状態ではありませんでしたけど、戦力と考えてもらって、「早めに戻ってきてくれ」と言われたことは、僕としてはうれしいことでしたね。
――現在の患部の状態は?
會澤 完治しています。再発を防ぐためのトレーニングもしていて、不安はありません。プロ野球選手ですから試合に出ないと話にならないので、出ることであらためて野球の面白さが分かったシーズンでした。
――捕手として一軍でプレーする自信も出てきたのではないですか。
會澤 自信があると言えるまで行くのは難しいことですけど、裏付けとしてしっかり練習することが大事です。今季をレギュラーを獲るシーズンにしたいので、いかにこのキャンプとオープン戦が大事かということだと思っています。
――経験豊富な
石原慶幸選手、
倉義和選手を上回るために何が必要だと考えますか。
會澤 配球というところが大きいですよね。キャッチャーはどれだけ勉強するかだと思うんです。相手チームのこと、味方の投手陣のことをいかに理解するか。それに必要なのが経験になるんですけど、2人とはそこに差があるわけで、補わないといけない。ピッチャーとしっかりとしたコミュニケーションを取って、一人ひとりの性格をつかむこと。あらゆるシチュエーションで、それぞれやりたい投球も異なりますが、そこまでつかめるようにしたいです。
――今年は黒田博樹投手が復帰し、2人の新外国人投手が加入。投手陣の強化が進んだ印象です。
會澤 先発の枠でもいい競争になりますし、バッテリーとして組んだとき、そのピッチャーがいい投球ができるようにカバーできればいいと思います。共同作業をしながらやっていければ、おのずと上を目指せるのではないでしょうか。
――昨季は
前田健太投手が先発する試合で、石原選手にスタメンマスクを譲ることがありました。
會澤 ウチのエースですからね。エースと組めるのがチームのレギュラーキャッチャーだと思うので、エースと組むのは僕の目標です。今年はそうなれるように、マエケン、黒田さん、ほかの投手ともコミュニケーションを取っていきたいです。
――エースと組んでこそ、正捕手。
會澤 正捕手は全試合出なくちゃいけないものです。どのピッチャーだろうが、若かろうがベテランだろうが。それが真のレギュラーです。
捕手の喜び
――シーズンに入るとキャッチャーはやることがたくさんあります。それこそ、1日24時間で足りないのではないですか。
會澤 それはキャッチャーの宿命ですよ。まず、試合に臨むにあたって予備知識をしっかり持たないといけません。勉強と同じですが、復習より予習が大事なんです。復習は結果論になってしまうものですが、予習した上での結果であればしっかりした反省ができます。そうすれば抑えても打たれても、それが実りになります。軸を持って攻める、そのための予習ですね。
――それがないと反省する意味がなくなる。
會澤 行き当たりばったりの配球からは、何も生まれません。予備知識を持ってチャレンジして、どういう結果になったかを反省する。その経過を整理できていれば、ピッチャーとのコミュニケーションが取れますし。
――打力に勝る會澤選手ですから、それを生かすためにほかのポジションを守ることも一考に値すると思うのですが。
會澤 何年か前、外野とかファーストを守りましたけど、キャッチャーが一番いいですね。キャッチャーが好きですし。きついけど面白いですから。
――面白いと思えるところを教えてください。
會澤 一番は1試合を0点で守り切って勝ったとき。そういう試合は誰よりもうれしいと思います、たぶん。
――タイムリーを打つ、ホームランを打つよりも?
會澤 レベルが違いますね。やはり失点を限りなく少なくするのがキャッチャーの仕事。ゼロに抑えたときの喜びはものすごいですよ。半面、ボコボコに打たれたときの悔しさは尋常ではないですけど。そういうところがキャッチャーの面白さじゃないでしょうか。
――責任感の大きさ、でしょうか。
會澤 いろんな面で目配り、気配りをすること。グラウンドを離れて、ロッカーなどでも常にいろんなところを気をつけて見るようにしています。そういうところに選手の性格は出ますので。ロッカーの整理の仕方にしても、大雑把だったり几帳面さがあったりして面白いですよ。それを見た上で投球を受けるとまた気づきがあるんです。
――それが生きるわけですか。
會澤 “ここぞ”のときにこそですね。僕はピッチャーを信頼はしても、信用はしていません。常にどこかで疑ってかかりながら、万が一のことを考えておく。そのときに役立ったりするんです。
捕手・會澤と打者・會澤

昨年10本塁打の長打力も武器だが、今年、意識するのは打率。キャンプでも右方向への打球を意識し、バットを振る
――レギュラーを奪おうという今の状況。8年かかったことをどう思いますか。
會澤 難しいですけど、時間がかかったとは思わないです。見えてきたものもあって、遠回りしたとは思わないですし、一番、最短の道なんじゃないですか。マイナスになっているものは一つもないですね。
――やることはやってきた8年間だった、と。
會澤 ハイ。
――昨年は試合後に
野村謙二郎監督の部屋で話し込むこともありました。
會澤 ありましたね。試合を振り返りながら、その状況での考え方や試合の反省点とか、ですね。いろいろと勉強したシーズンでした。
――
緒方孝市新監督とシーズンに向けて話をしたことはありませんか。
會澤 監督になられることが決まったとき、僕はフェ
ニックス・リーグに行っていたんですけど、宮崎で顔を合わせたときに「しっかり若い投手を見ておけ」と言われました。そのために宮崎に行かせてもらったんだと思います。昨年はCS(ファーストステージ)の第2戦(10月12日対
阪神、甲子園)に先発して、結果は引き分けでしたけど、そういう経験もあるんだからそれを財産にしなさい、と。それと、7回の二死満塁で見逃し三振したのも財産にしなさい、と言われて、それをプラスに考えられるようになりました。緒方さんの言葉に救われた感じがします。だから緒方さんを1年目から胴上げしたいと思うんです。

昨年のCSファースト第2戦は大瀬良とバッテリーを組み、7回無失点の好投を引き出したことを「自信になった」と語る

一方で7回二死満塁で喫した見逃し三振に天を仰いだことも「財産」とする
――その試合は10回に代打で退くことになりました。
會澤 最後まで出たかったですけど、
呉昇桓はシーズンで3打数ノーヒットだったので。シーズンで1本でも打っておけば最後まで守れたと思うんで、そういうところが悔しいです。
――試合に出続けるためにも打撃は重要です。
會澤 リードは一番大事ですけど、それに打つことをプラスできれば超一流のキャッチャーになれます。それができたのが阿部(慎之助)さん、城島(健司)さん、谷繁(元信)さん。守備だけというのは僕が目指すキャッチャーではないので。
――打てる捕手になるために必要なものはありますか。
會澤 野村監督からは常に攻守の切り替えを大事にしなさいと言われていました。その言葉は僕がキャッチャーをやっていく中で、常に心に置いておかないといけない言葉です。それも僕の財産ですね。
――切り替わる瞬間がある?
會澤 僕はレガースを着けて、バッティング手袋を着けたときに切り替えるようにしています。そこからは相手のピッチャーのことに集中して。打席が回ってくるイニングはガラッと切り替われるようにしています。
――打者と捕手で別人格だったり?
會澤 その言い方が正しいかもしれないですね。違う人になっていると思います。打者・會澤はガンガン行くタイプでキャッチャー・會澤は冷静沈着、みたいな(笑)。
――それでは打者・會澤の今年の目標を教えてください。
會澤 とにかく打率を意識します。たとえ八番にいても、2割9分から3割打てるバッターはキャッチャーから見るとイヤなんです。二死で打席が回ってきたとき、そこで終わるのではなく、ピッチャーに回して、次のイニングを一番から攻撃できるようにするのも仕事。緒方さんから�
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――昨年は10本塁打を放ちました。
會澤 そこにはこだわりません。
――背番号も27に変わり、飛躍のシーズンとしたいですね。
會澤 球団に提案されたとき、一つは自分にプレッシャーをかけるつもりもあって、返事をさせてもらいました。背番号に見合った成績を残したいです。
――24年ぶりのリーグ優勝を目指すシーズンになります。
會澤 優勝、日本一しか頭にありません。僕の中ではレギュラーで1年間戦って、12球団で一番の防御率にしたいという目標があります。悔いのない1年にしたいですね。
――優勝、日本一、はっきりと見えていそうですね。
會澤 僕は一、二軍を行ったり来たりする選手でしたし、“優勝”って正直、意識するものではなかったんです。自分のことで精いっぱいで、一軍に定着するために、自分の成績を上げるためにどうしたらいいかばかりを考えていました。それが、一昨年は3位に入って、昨年はCSの舞台にも立てました。ああいうしびれるところで試合をしたいですよね。いま思い出しても吐き気がしますけど、負けたら終わりのシーズンでは味わえない試合でした。そういうところでやれば、またキャッチャーとして成長できるものだと思っています。
担当のここがKEY POINT!
決して選手層が厚いとは言えない
広島で、代打を送らなくてもいい捕手は貴重な存在。その打力が得点力アップにつながることはもちろん、1試合を任せられることで試合終盤の攻撃プランに幅が広がる。また、ベンチ入り捕手が2名で事足りるのも大きなプラス。會澤の正捕手奪取はプラスワン以上の効果をチームにもたらす。
PROFILE あいざわ・つばさ●1988年4月13日生まれ。茨城県出身。177cm91kg。右投右打。水戸短大付高から07年高校生ドラフト3巡目で広島に入団。パワフルな打撃で頭角を現し、3年目の09年に一軍デビューした。14年は65試合に出場、60試合にマスクをかぶる中で10本塁打をマーク。捕手の2ケタ本塁打はチームで4人目だった。今季、正捕手獲りに期待が高まる。14年成績は65試合、打率.307、10本塁打、30打点、0盗塁。