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野球浪漫2016
ヤクルト・鵜久森淳志「やることはやった気だったけれど、やっぱり…野球が好きなんだなって」

 

報恩謝徳
済美高3年時にセンバツ初出場優勝を果たし、夏の甲子園準優勝に貢献した長身スラッガーが、プロ入り後は伸び悩んだ。日本ハム時代の通算は146試合で打率.219。15年オフに、戦力外通告を受けた。トライアウトを経てヤクルトに入団。どん底を味わった男は、新天地で輝きを取り戻すことになる。再び動き出したプロ野球人生はただ貪欲に、「恩返し」の思いを胸に歩んでいる。
文=小林陽彦(共同通信社)、写真=神山陽平、BBM

1年前とは対照的な10月1日


 マツダ広島での今季最終戦を終えた鵜久森淳志はその夜、広島市内の飲食店で早くもシーズンオフの取り組みに思いを巡らせていた。

「もう一回体をつくり直さないとあかん。やらなきゃいけないことがいっぱいあるよ」

 課題が明確にイメージできるのも、一軍に定着した終盤戦の充実があってのことだろう。46試合出場で35安打、4本塁打、19打点はプロ12年目のキャリアハイとなった。元々はなかったはずの球歴の一ページ。10月1日、この秋で4歳になった双子の愛娘の誕生日でもあるこの日は、ちょうど1年前とは対照的な希望を感じられた。

 2015年10月1日――。夕刻6時ころ、マネジャーから鳴った電話に覚悟はできていた。愛媛・済美高の四番として春のセンバツで優勝、夏も準優勝に導いた世代屈指のスラッガーも、近年は若手起用のチーム方針に押され出番が減少。日本ハム入団から11年目はファームで10本塁打と健在ぶりを示した一方、一軍ではわずか3打席のみ。6年ぶりの無安打に終わっていた。

「電話が来るなら今日かなって。でも、そのときはすごいスッキリしていた。やることは、やったよなって」

 05年、ドラフト8位で入団。チームはそこから8年間でリーグ優勝4度の黄金期にあり新庄剛志稲葉篤紀糸井嘉男(現オリックス)、陽岱鋼中田翔と球界を代表するプレーヤーたちが同じ外野のポジションを固めてきた。

「本当に、馬鹿じゃないかと思うほど練習したよ。大村巌コーチ(現ロッテ)に『足が遅い、打撃が悪い、守備できない。三拍子ともないじゃないか』と言われて。じゃあ周りに勝つには人よりやるしかないだろう、と」

 レギュラー陣の壁は厚かった。7年目の11年にプロ初本塁打。12年7月26日のソフトバンク戦では2打席連続アーチを放ったが、終盤に代打を送られ、その後2試合は出番なし。「八番・指名打者」で先発復帰した同29日オリックス戦の第一打席で“4日またぎ”での3打席連続本塁打をマークしても、やはり代打を送られて出番から遠ざかった。

 出番に恵まれない選手――。周囲から同情の目を向けられても、本人はそれを強く否定する・・・

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