
9回二死からプリアムに同点弾を浴び、マウンド上でしゃがみ込んだ黒木
「みんな一生懸命なのに形にしてあげられない」
日本ハム・
栗山英樹監督が天を仰いだ。4月27日の
ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)に1対4で敗れ、昨年の日本一チームが泥沼の10連敗。明るい兆しが見えない中、球団記録の14連敗(1984年7月10日〜8月9日)にも迫っている。が、上には上がいる。プロ野球記録は98年の
ロッテがつくった18連敗だ(6月13日〜7月8日)。
約1カ月、ロッテが勝てなかった日々の中で最も野球ファンの記憶に残っているのは17連敗目を喫した試合だろう。7月7日、グリーンスタジアム神戸。先発は、ストッパーから再転向した
黒木知宏。4日間の調整期間を与えられ、満を持してのマウンドだ。
黒木は4回に1点を失うも、8回までわずか3安打の気迫のピッチング。これに打線も応え、3対1と2点のリードで9回裏を迎える。先頭の
イチローを三振、続く
ニールにはライト前ヒットを打たれるが、
谷佳知を一塁ファウルフライに打ち取り、2アウト。連敗脱出まであと一人とし、球場はどよめいた。
打席にはプリアム。捕手の
福澤洋一は、こんな局面だというのに自分はやけに落ち着いている、と思った。「今日はいける」という感触があった。9回になっても、黒木の球は切れている。プリアムを1ボール2ストライクと追い込んだところで、サインは「内角低めの速球」。黒木がうなずく。そこが、プリアムの弱点だった。
ただし、弱点の近くには必ず好きなコースがある。高さを間違えば、一発もある。パーセンテージにして半々の、危険な賭けではあった。内角低め。渾身の力を込めて放った速球は、福澤の構えるミットに向かって真っすぐ、真っすぐ――そして、ボールは消えた。白球が、レフトのポールを巻くようにスタンドに吸い込まれていった。
福澤はその打球をずっと、ずっと見つめていた。まるで、スローモーションビデオのようだった。ガックリとマウンド上にしゃがみ込む黒木。誰も、何も声をかけてやることはできなかった。みんなが真っ白になっていた。
「あれからしばらく、ポールを巻いてスタンドに入っていく白球の映像ばかり頭に浮かんできました。いくら追い払おうとしても、ダメでした。時間が経って、ようやく自分の中でも納得できたのでしょう。いつの間にか白球も見えなくなり、次のことを考えられるようになりました。今思えば、あのとき僕は自分が冷静だと思っていたけど、ジョニーが目いっぱいだったことに気が付かなかった。“冷静を装おう”というところに意識がいっていたため、相手のことを考えるまでに至っていなかったんですね」(福澤)
黒木が打たれたあと、
小宮山悟がふらりとベンチに現れ、「投げましょうか」と言った。
松沼博久コーチは「リードしたら」という条件つきで、小宮山をブルペンに向かわせた。
ロッテは延長12回、
近藤芳久が
広永益隆にサヨナラ満塁弾を浴び、ついに17連敗の日本記録を達成。翌7月8日の試合にも負け、あっさり記録を更新した。
写真=BBM