大物選手がFA権を行使して移籍してくる代償として、その大物選手の旧所属球団が自分を指名する――。それは、チームが28人のプロテクトリストから自分を外したから。しかし、それで出場機会が飛躍的に増えるケースもある。人的補償で移籍した印象深い選手を取り上げていく。 3連覇の力となった右腕
強大な戦力の中でくすぶっていた選手が、新天地でチャンスを得て大ブレーク――。そのいい例が、2013年オフにFAで巨人入りした
大竹寛の人的補償として、広島に移籍した
一岡竜司だ。
一岡は大分・藤蔭高を卒業後、大学や社会人から声がかからず、専修学校の沖データコンピュータ教育学院を経て、ドラフト3位で12年に巨人入団。1年目にファームで46試合に投げて7勝1敗14セーブ、防御率0.55の好成績を残しても一軍での登板機会には恵まれず、わずか4試合。2年目の13年も二軍では35試合で15セーブ、防御率1.10と好投したが、一軍登板は9試合に過ぎなかった。
その一岡を、大竹をFAで失った広島が人的補償に指名。実はシーズン中から調査をしており、獲得が決まった際に球団幹部は「トレードでは取れない選手」と、してやったりの表情を浮かべたという。
プロ入りから2年目のシーズンを終えたばかりの選手をプロテクトから外したことには、賛否もあった。一岡本人は「(広島に)行けばチャンスがあるかな」と思っていたというが、いざその立場になってみると頭が真っ白になり、現実を受け止めきれずに涙を流したこともあったという。
それでも新天地1年目から、一岡は与えられたチャンスをモノにした。3月29日の
中日戦(ナゴヤドーム)でプロ初ホールドをマークすると、4月27日の巨人戦(マツダ広島)では延長11回の1イニングを無失点に抑え、
エルドレッドのサヨナラ3ランで初勝利。
5月25日の
西武戦(マツダ広島)では帰国中の
ミコライオの代役として初セーブを挙げ、「初勝利のときよりうれしいです。巨人時代の2年間は二軍で後ろをやらせてもらっていたので、この日が来るのを夢見ていました」と、喜びをあらわにしてみせた。
右肩痛もあってこの年は31試合の登板にとどまったが、2勝0敗2セーブ、16ホールド、防御率0.58という抜群の成績でオールスターにも出場した。
翌15年はやや精彩を欠き、16年も右腕の負傷で出遅れたものの、交流戦から復帰。抹消と登録を繰り返しながらも、広島にとって25年ぶりの優勝に貢献した。昨年も59試合に登板して19ホールドと連覇の力になり、今年も59試合に登板して18ホールドと3連覇に欠かせない戦力となった。
11月30日の契約更改では2400万円アップの推定7700万円でサイン。広島移籍時の1050万円から実に7倍以上になった。まだ、来年の1月で28歳。今後もますますの成長が期待される。
写真=BBM