東大を率いる浜田一志監督は「HOSEI」とデザインされた特注の手袋をはめて、早くも今春のリーグ戦へ対抗意識を燃やしている
2019年の練習始動日となった1月12日、東大・浜田一志監督は80人以上の野球部員全員にノックを打った。
手袋の甲にはなぜか「HOSEI」の刺繍。昨秋のリーグ戦で優勝したのは法大で、最下位は東大。慣例ならば、今春の開幕カードで、東大は法大と対戦する。「打倒・法大」を込めた、気合の練習スタートであったのだ。
浜田監督は「対戦する5校(慶大、早大、明大、立大)、すべて持っています」と、特注の手袋を手にしてニッコリ。リーグワーストの連敗を94で止めた2015年春の法大1回戦。実は試合前にオレンジの手袋を使用していた。以来、縁起の良さから、各校カラーの手袋を愛用するようになったという。
2019年、東大は創部100年の節目である。1925年秋に発足から東京六大学リーグ戦での優勝経験はない。浜田監督は「夢は優勝……。目標は最下位脱出」と1998年秋から42シーズン続く、定位置から抜け出すことを固く誓う。
浜田監督は2012年11月の就任以来、「食事、ランニング、トレーニング、守備、打撃」を優先順位として指導を続けてきた。中でも「勝ちたければ食え」と食トレに積極的。今春は「2トン打線」を掲げ、単純計算でベンチ入りメンバー25人の平均体重80キロを目指している。「体を強くするということは、才能がなくても、努力で到達できる」が浜田監督の持論だ。2017年秋はチーム本塁打8本。主力野手が卒業した昨年も春、秋とも3本塁打と、かつてのような非力のイメージはない。
「東大でも一つ、間違えればやられる……というイメージを相手バッテリーに植え付けたい」と言いながらも「そこで相手バッテリーにプレッシャーがかかって、暴投で1点を取る。それが、野球です」と指揮官は真顔だ。
浜田監督は最下位脱出のためには「4勝」が必要だと語る。「5対4が2試合、1対0、2対1が各1試合」とスコアも明確。また、創部100年にあやかり、チームとして「シーズン100安打」を具体的な目標に掲げた。
チームスローガンは「旋風」。東大球場の左翼フェンスには横断幕を貼るが、部員とともに書き初めでこの二文字を書き込んだ主将・
辻居新平(4年・栄光学園高)は言う。
「東大が勝つことにより、東京六大学野球全体が盛り上がる。自分たちが風になりたい」
取材を終えると、浜田監督は「よし、辻居行くぞ!」と、白い手袋を装着してグラウンドへと颯爽と飛び出した。熱血指揮官の熱き思いは全員ノックで、学生たちに届いたはずだ。
文=岡本朋祐 写真=BBM