日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。 松坂、ダルビッシュ、田中将クラスの完成度

星稜・奥川恭伸は旭川大高との1回戦で完封勝利を飾り、2回戦へ進出している(写真=宮原和也)
なぜ、星稜・奥川恭伸(3年)がNPBスカウトから高い評価を受けるのか?
旭川大高との1回戦で3安打完封(1対0)。94球という省エネ投球で、まさしく規格外のピッチングを披露している。
複数のNPB球団幹部の話を総合すれば、今年10月17日に開催されるドラフト会議における1位競合は間違いないと言われる。
この第1回目の入札でクジ引きになるのは、奥川と大船渡の163キロ右腕・
佐々木朗希、153キロ右腕の明大・
森下暢仁(4年・大分商高)の3人が有力だという。
重複を回避して、単独指名に切り替える球団があるかもしれないが、ある球団幹部は「縁があって獲得できれば、何十年もローテーションの先発投手として任せられる。逃げずにいくことがベスト」と語る。
奥川の良さは何か? NPBスカウトの視点から5つの魅力を引き出していく。
まずは「完成度」。
「松坂(大輔=横浜高)、ダルビッシュ(有=東北高)、マー君(
田中将大=駒大苫小牧高)クラスと完成度は一緒。佐々木投手(大船渡)も抜けていますが、甲子園で奥川投手のコントロール、キレ、変化球、球威を見せられると、どの球団も迷うのでは?」(
ヤクルト・橿渕聡スカウトグループデスク)
さらに、どの注目球児よりも上回る「経験値」。ヤクルト・橿渕聡スカウトグループデスクは「賛辞しかない」と、言葉を続ける。
「(全国優勝を遂げた)中学時代を含めて、実績が図抜けている。勝ち切れる投手。来年にすぐ先発ローテーションに入れるかどうかは、獲得球団による現場の声、育成法を含め、さまざまな角度からの検証が必要になってきますが、そのクラス(即戦力)であることは間違いありません」
奥川は2年春から4季連続甲子園出場。今春のセンバツ1回戦では履正社を完封しているが、この日の完封とは意味が違う。
ロッテ・
松本尚樹球団本部長は「進化」を語る。
「春の時点では力み倒していたが、今日はそれがなくなっていた。9イニングの中でゲームを作れる。つまり、打者を見ながら強弱をつけて投球できる。奥川投手と佐々木投手は別格です。これまで高卒で二ケタ勝利を挙げた投手がいますが、その中に入ってくる」
ルーキーイヤーの1999年に
西武・
松坂大輔は16勝、2007年に
楽天・田中将大は11勝を挙げているが、奥川もその域の実力が備わっているとプロは分析する。
十分にある伸びしろ
投手としての「潜在能力」に着目したのが、
巨人・長谷川国利スカウト部長だ。
「腕の振りの柔らかさ、下半身の柔軟性。ウチのスピードガンでは最速154キロ(球場表示は153キロ)。アベレージが148キロですよ。マウンド上での落ち着いた立ち居振る舞い、プレートさばき。ピッチャーらしいピッチャーです。甲子園で一人だけ、社会人やプロがやっているような感覚に襲われました。奥川投手と佐々木投手と双璧です」
最後に「人間性」にまで言及したのが
オリックス・
古屋英夫編成部副部長だ。
「試合後のインタビューを聞いたんですが、受け答えがしっかりしている。現状に満足せず、次戦へ向けての課題も自己分析。高校生とは思えない人間力があると思いました」
完成度、経験値、進化、潜在能力、人間性。18歳にして野球選手としての必要なパーツが備わっている奥川。さらに、付け加えておくと、すべてのスカウトに共通していたのが「伸びしろもある」ということ。
喧騒の中でも奥川は冷静。ドラフト戦線において大船渡・佐々木、横浜・
及川雅貴、創志学園・
西純矢による「高校生BIG4」で騒がれていることにも、慎重に言葉を選ぶ。
「そう言っていただけるのはありがたいこと。でも、そんなに気にはしていません。仲間と野球をやれる喜びを何より感じている」
星稜野球部のモットーは「必笑(ひっしょう)」。石川県勢初の全国制覇を遂げるまで、笑顔でナインを引っ張っていくことしか考えていない。その献身的な姿が全国の多くのファンの支持を得て、感動を送り届けるのだ。
文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)