“ミスター”が当たりクジを引くか否かに注目

松井をクジで引き当てた長嶋監督は“サムアップ”
“持っている”男は、どんなときでも“持っている”ものなのかもしれない。週刊ベースボールでドラフトを特集する際、特に注目度の高い選手がいる場合は、そんな選手たちが表紙を飾る場合が多い。それ以前には、法大の
江川卓(
巨人)、東海大の
原辰徳(巨人)。その後もPL学園高の
福留孝介(
中日。現・
阪神)や慶大の
高橋由伸(巨人)、そして横浜高の
松坂大輔(
西武。現・中日)の姿が表紙に踊った。
この平成4年のドラフトも、彼らに匹敵する怪物スラッガーがいたのだが、表紙を飾ったのは彼ではない。巨人の監督に復帰することが決まったばかりの
長嶋茂雄だった。これには、ドラフトの注目選手が希望する球団を公言して、それが指名にも影響を与える傾向が出てきており、それまでのドラフトにあった“無情さ”のようなものが薄れてきていたことも影響しているかもしれない。
さて、前述の怪物スラッガーとは、星稜高の
松井秀喜だ。その夏の甲子園では5打席連続で敬遠される前代未聞の“事件”があったばかり。そんな松井は意中の球団として、「気持ちは阪神1本。あとは巨人、中日、ダイエー」と明言していた。この時点で、松井が挙げた4球団が競合することは、ほぼ確実視されていた。これでは予想も盛り上がらず、注目は“ミスター”長嶋監督が、松井という当たりクジを引くか否かに注目が集まるもの、やむを得ないというものだろう。そして、やはり長嶋は“持っていた”のだ。
【1992年・12球団ドラフト1位指名】
中日 松井秀喜→
佐藤秀樹 ロッテ 武藤潤一郎 横浜
小桧山雅仁 日本ハム 山原和敏 広島 伊藤智仁→
佐藤剛 ダイエー 松井秀喜→
大越基 阪神 松井秀喜→安達智次郎
オリックス 伊藤智仁→
小林宏 巨人 松井秀喜
近鉄
小池秀郎 ヤクルト 伊藤智仁
西武
杉山賢人 小池の夢も静かに実現

ドラフト時の松井
最後にクジを引いた長嶋監督が松井の交渉権を引き当てて、小さくガッツポーズ。このときは一瞬、顔をこわばらせたかに見えた松井だったが、その後は長嶋と深い師弟関係を築いていくことになる。
松井に続く3球団が競合したのが三菱自動車京都の伊藤智仁。週刊ベースボールは、この即戦力右腕に4球団の競合を予想しており、唯一、予想を外した日本ハムは、阪神と広島の外れ1位と予想していた川崎製鉄水島の山原和敏を単独で指名した。ちなみに、伊藤の交渉権を引き当てたのはヤクルトの
野村克也監督。“月見草”を自称するが、やはり野村も“持っている”。
ダークホースは東芝の杉山賢人と、2年前のドラフトでは8球団が競合しながら、社会人の松下電器では結果を残せていない小池秀郎だった。杉山の名前は近鉄、ロッテの外れ1位に予想されているのみで、小池は西武と中日の外れ1位。結局、近鉄とロッテの2球団が競合すると予想していたプリンスホテルの武藤潤一郎はロッテの単独指名にとどまり、近鉄が小池を1位で指名。杉山は、NTT四国の
山部太と予想していた西武が単独1位で指名した。
また、日本石油の小桧山雅仁を横浜が単独1位で指名する予想はズバリ。巨人の外れ1位に挙がっていたNTT四国の
西山一宇は、巨人が3位で指名している。
写真=BBM