グラウンドで躍動する選手たちだけではなく、陰で働く存在の力がなければペナントを勝ち抜くことはできない。プライドを持って職務を全うするチームスタッフ。ライオンズを支える各部門のプロフェッショナルを順次、紹介していく連載、今回は番外編として現在、埼玉武蔵ヒートベアーズに派遣されているトレーナーを紹介しよう。 真っ黒になったスケジュール表
埼玉西武からルートインBCリーグ・埼玉武蔵ヒートベアーズに派遣されているトレーナーの久保田治。今年2月からチームに帯同し、チームは新型コロナウイルスの影響を受けながらも、3月下旬までは稼働していた。しかしやがて事態は深刻化。緊急事態宣言の発出と時近くして、チームも活動休止となった。「やっぱり、キャンプ期間中からケアしてきた選手が、どう公式戦で活躍してくれるのか、ということを楽しみにしていましたから……」と開幕延期が決まったときは久保田も戸惑いは隠せなかった。しかし、このチーム活動停止期間中こそ、久保田が選手との距離をさらに縮めていくきっかけになったといっても過言ではない。
久保田がまずこの期間に考えたのは、各選手別のトレーニングメニューを、オンラインを通じて選手一人ひとりにレクチャーすること。久保田の専門分野は治療だが、選手にとっては関係ない。このとき、チームに加わり2カ月目。すでに“どうすれば選手たちがグラウンドで良いプレーをしてくれるか”ということが完全に久保田の“軸”になっていた。そうであれば、「この時期だからこそ必要なトレーニングを選手たちに実践させる」ことに迷いはない。すぐに電話を取り、選手たちにアポイントを取っていく。スケジュール表はすぐに真っ黒になった。
「選手たちには直接会えないので……。体の状態を把握して、今どんなトレーニングをすべきなのかを選手と対話しながら決めていきましたね」
BCリーグはNPBに比べて、決して選手の年俸が高いとは言えない。選手が自ら体にかけることができるケアにも限界がある。「しっかり体を動かせる状態にあるのかが心配で。自粛期間も毎日のように選手の状態を(オンラインや電話などで)チェックしていました」と当時を振り返った。

選手の体をケアする。選手からの信頼も厚い
そんな久保田の努力は、選手たちからの“粋な言葉”でかえってくる。
「久保田さんのおかげで投げ切ることができましたよ」
「久保田さんがいるから思い切ったプレーができます。でもケガしたときはすぐに駆け付けてくださいね!(笑)」
選手がグラウンドで精いっぱいにプレーし、そこで結果を出してくれる――。久保田にとってこんなうれしいことはない。選手たちの声に「みんな優しい子ばかりですから(笑)。まだまだ選手に気を遣わせちゃってる、ってことです」と久保田は謙遜した。
いま、ヒートベアーズは東地区グループB2位(8月9日現在)。久保田を含め、誰もが望むのはまだ見ぬ悲願だ。「このチームはまだ優勝の経験がないんです。1つでも多く勝ちを重ね、このみんなと優勝したいんですよね」。
シーズンも中盤に差し掛かり、これからの1戦1戦はさらに緊張感が増すものになってくる。10月末、ヒートベアーズにはどんな結末が待ち受け、久保田はそこでどんな表情を浮かべているのだろうか。ただ、激闘のシーズンを終えて久保田が手に入れるものは、他の何ものにも代え難い大きな財産であるに違いない。
<「完」>
文=田代裕大(西武ライオンズ) 写真提供=(株)埼玉武蔵ヒートベアーズ