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2012年U-18世界選手権総括 ルール、強行日程…日本が浴びた世界の「洗礼」

 

取材・文=岡本朋祐[本誌特派]


第25回IBAF18U世界選手権(韓国・ソウル)はアメリカの優勝をもって全日程を終了した。第2ラウンドのアメリカ戦で、日本は相手のラフプレーにより思わぬ落とし穴に突き落とされた。また、雨天による強行日程も、選手たちの体力を確実に目減りさせていた。今回の6位という結果は、今後の高校ジャパン強化へ向けて、どんな指針を示しているのだろうか。

必勝パターンも思わぬ落とし穴に


 全日本アマチュア野球連盟(BFJ)は9月8日、重要書類を国際野球連盟(IBAF)へ提出している。その内容は前日7日、アメリカとの予選第2ラウンドの7回裏のプレーに関する案件だ。結果的に高校日本代表が金メダルを逸する形となった“騒動”をおさらいしておこう。

 勝った方が予選第2ラウンド1位で、銀メダル以上が確定する。一方、負ければ同5位。つまり、日米決戦は天王山であった。シーソーゲームとなったこの試合、日本は同点の6回表に田村龍弘の犠飛で勝ち越しに成功すると、さらに大谷翔平の適時打でその差を2点に広げる。その裏にアメリカは1点を返して5対4。日本は7回裏から前日の韓国戦で完投した藤浪晋太郎を3連投で投入する“必勝パターン”へ持ち込んだものの、落とし穴が待ち受けていた。

 先頭のイージーな遊ゴロを北條史也がはじいて無死一塁。続く遊ゴロも、北條は二塁転送をしないばかりか、一塁送球が悪送球。2つのミスが重なり無死二、三塁のピンチを迎えた。騒動が起こる伏線として、一塁走者が三進を狙った後、走路にいなかった三塁手・田村に故意に衝突している。

 治療のため約3分間中断の後、アメリカの六番はボテボテの一ゴロ。一塁手・金子凌也は捕手・森友哉に本塁送球する。完全にアウトのタイミングであったが、三走がヒジを出し、体ごと森の顔面へ突っ込んだ。森はボールを手放さなかったが、そのままうずくまった。治療を経た8分後、一死一、三塁から七番に同点適時打を浴びる。なおも一、二塁から次打者の右前打で、二走が森に体当たりして生還し、勝ち越しを許す。本塁を死守する森は、2度目の猛烈タックルでまたも負傷。さらに二、三塁から暴投で1失点し、九番の二ゴロで中間守備の伊與田は本塁へ送球しない。

捕手の森は走者の体当たりを受けて負傷してしまう


 つまり、1点を献上してでも危険を回避したプレーだが、小倉全由監督は責めなかった。

「野球じゃないですよ、あれは。最後はアウトに取れるのに、伊與田はホームに投げなかったのですが『あれはよし』としました。あれでもう1回ぶつけられたら、死んじゃいますよ。ルールを作ってくれないと」

 痛恨の4失点。予選第1ラウンドから8連戦目。心身とも疲弊し切った日本に、反撃する力は残っていなかった。5対10で決勝進出を逃し、翌日の韓国戦も完封負け(0対3)で、6位で全日程を終えている。

小倉監督は抗議するが受け入れられなかった


日本式のマナーと異なる文化


 18U世界選手権(旧名称・AAA世界選手権)に高校日本代表を派遣するのは、東北高・ダルビッシュ有(現レンジャーズ)を擁して準優勝した2004年以来2度目のことである。ほかの2度(1982、99年)は地区選抜を派遣。81年に産声を上げてから25回目にして、日本は4度目の出場。過去には夏の甲子園がメーンであり、同大会と日程が重複するケースが多く、また、使用バット(木製)の問題もあり不参加に至った大会もある。今大会は開催国の韓国が早い段階から日本をエントリーさせるため、8月下旬からの開幕に日程を調整。8年ぶりに世界舞台で、真剣勝負する機会が訪れた。

 日本の常識は世界基準では通用しない。18歳以下という今回のカテゴリーに限らず、過去の五輪やW杯ら、国際試合のたびに直面する厳しい現実を突き付けられた。アメリカのスタイルは、決して許される行為ではない。しかし、国と国の威信をかけた一発勝負では日常茶飯事。今大会は参加していないが、キューバら中南米諸国のチャージはさらに激しい。日本の感覚でプレーした日には、大ケガにつながる。異なる文化を事前情報として準備しておくのは、国際試合で戦う上では必須。スマートな日本高校野球とは、まさしく対極だ。

 フェアプレーとマナー、そしてスピードアップが、高校野球界の基本理念である。全国の代表校が結集する甲子園は「模範試合」を求められる大舞台。小倉監督は言う。

「われわれは甲子園での野球を教わってきた。甲子園を目指す野球を、変えるわけにはいかない。『野球とベースボールの違い』と言われても、あのプレーを許してはいけない」

 騒動を回避する方法はあった。明らかにアウトだった一つ目の衝突に対して、小倉監督は韓国の球審に抗議したが「本塁を取りにきているから」と受け入れてもらえなかった。ロンドン五輪における柔道、体操競技でも話題となったが、野球においても審判員以外に、競技場外に審査を担当するテクニカルコミッション(TC)が控える。不服な判定に対して10分以内に200ドルを支払えば、TCが最終裁定を下してくれるのだ。担当試合ではなかった麻生紘二TCは、周囲の反応を見ていた。

「出せば『提訴』が認められ、当該選手を退場としていたはずです」

 翌日、アメリカはカナダとの決勝で同様の危険なプレーを犯した。ベネズエラの球審はすぐに「退場」をコール。残念ながら、審判員によって判断基準が異なる不徹底もあった。

 皮肉なことに、今大会から「コリジョン(衝突)ルール」が外されたのも、日本にとっては不運であった。かつては12U、15U、女子W杯とともに18Uでも設定されていた規定も、今回から「シニア」として扱われるようになったのだ。

「18歳を大人として扱ったわけですが、日本人と外国人は体格差がある。将来もある選手のケガは、避けなければならない」(麻生TC)。

 アメリカ戦を受けて、全日本アマチュア野球連盟・田和一浩専務理事(IBAF第一副会長)はすぐさま動いた。プレーの状況書類とビデオを添付してIBAFへ提出。コリジョンルールの復活と、現場での徹底を要請している。

「甲子園」と「世界大会」の両立は?


 精神的にも大きなダメージを受け、アメリカに屈した日本だが、敗因はこれだけではない。大会初日が雨天中止。当初は予選第1ラウンドを5試合消化した後、1日の休養日を挟んで第2ラウンド3試合、順位決定戦という日程だったが、9連戦を強いられた。折り返しを過ぎた6試合目のコロンビア戦以降は、パフォーマンスが落ちた。不慣れな人工芝での連戦で下半身に疲労が溜まり、内野手は足が動かない。守りの破綻に加え、木製バットも振れない。

大会終盤、選手の疲労度はピークに達していた。遊撃の名手・北條も大事な場面でまさかのミスを犯してしまう


 開幕戦(対カナダ)のつまずきが響いた。日本は2点リードの最終回、二死一塁から大塚尚仁が九番に悪夢の同点2ラン。10回表からは無死一、二塁からのタイブレーク。表の日本はバント失敗と走塁ミスで無得点に終わる。その裏はカナダに犠打を決められ、最後は二死満塁から神原友の暴投で大事な初戦を落とした。大野康哉コーチは回顧する。

「カナダに負けたことが、最後まで尾を引きました。常にベストメンバーで臨むしかなかったですから」

 試す場を奪われた。野手の先発はほぼ固定され、投手も岡野、濱田、佐藤はそれぞれ1試合のみと、藤浪らにしわ寄せがきた。タイブレークに戸惑ったのも否めない。国内直前合宿で練習したとはいえ、実戦での緊張感は違う。これも「経験不足」から来る洗礼。小倉監督は総括する。

「監督が初めてのこと。国際試合を知らないといけないなと思った」

 情報共有の欠如こそ、日本の長年の課題だ。今年11月のアジア選手権で日本代表を率いる小島啓民監督も「各年代の代表者らが集まって、協議する場が必要」と訴える。藤浪とともに、オールスター捕手に選ばれた森は唯一の2年生。幸い衝突のケガは大事に至らず、5、6位決定戦も代打出場。試合後にこう言った。

「国際試合の要領は分かったので、来年は自分が引っ張っていきたい」

 来夏からは「U18WBC」と名称を変え、IBAFとMLBの共催で隔年開催される。日本高校野球の最高峰は甲子園。頂点に達したモチベーションを、再び「世界一」へ向けるのは難しい。指導者も現役監督では負担が大き過ぎる。本気で金メダルを目指すならば、夏の地方大会前に選考合宿、木製バットに対応する機会を作るべき。しかし「甲子園出場」の妨げになる行事は不可能だろう。大会の位置付けを含めて、反省点を洗い直さなければ、同じ過ちを繰り返すことになる。
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