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[高校生CLOSE UP]ブレーク寸前の“金の卵”たち

田口麗斗[投手・広島新庄高]&有銘昭晋[投手・興南高]

 

“横綱”に匹敵する実力備える好左腕
田口麗斗[投手/広島新庄高]
取材・文=菊池仁志
写真=松村真行



 初めてボールを投げたあの日から、夢に見てきたプロ野球の世界に手が届くところまで来た。高校入学時、130キロだった球速は段階を追って伸び、いまでは最速145キロを誇る。球速の伸びに比例するように、プロのスカウト陣からの視線も多く感じるようになった。軽いインステップから描く独特で角度ある白球の軌道は、スカウト陣が目を留めた特長の一つ。「とにかく、プロに行きたい」。左腕は夢に向かっていままさに、自らの価値を高める夏を戦っている。

     ◎

 今秋のドラフト、正横綱が桐光学園高の松井裕樹だとすれば、知名度の低さもあり、広島新庄高・田口麗斗は前頭何枚目かの地位にあると考えるのが現状では妥当か。しかし、全国的にも有名なドクターKとも球速、変化球の質ともに互角に渡り合える実力を持つ。それを証明するように、30イニング無失点で決勝まで進んだ春の広島大会では、14.70の奪三振率をマーク、練習試合では報徳学園高、土佐高など、春のセンバツにも出場した強豪校にも勝利し手応えを得た。

 同じサウスポーである松井の174センチ76キロに対し、170センチ74キロの似通った体型、松井は常に意識の中にある存在だ。「どっちが上かを見せてやりますよ」。熱望するのは甲子園での直接対決。そのためには、現在、開催中の広島大会を勝ち抜く必要がある。「甲子園、というか目標は全国制覇です」。現代の多くの若者が表に出さなくなった、負けん気の強さを示す言葉がすがすがしい。この夏の結果次第で、角界ではあり得ない、三役・大関を飛び越えて一気に横綱に昇進する可能性も十分にある。

 広島新庄高で指揮を執り6年目、かつては三菱重工広島の監督として都市対抗優勝、母校の広島商高監督時代は現広島の岩本貴裕を育てた迫田守昭監督は、中学時代の田口の投げっぷりに惚れ込んだ。「軟式でやっていたんだけど、この時代に珍しく、ストレートしか投げないピッチャーでね。それでも130キロくらいは出ていたから、簡単には打たれない。コントロールもあるし、テンポが良くて気持ちが良いピッチャーでしたよ」

 監督、選手として直に接するようになってからは、さらに投手・田口の資質に驚かされた。入学直後、高校ではストレート一本では通用しないと、変化球習得に取り組み始めたときのことだ。

「変化球が投げられないからストレートしか投げなかったのかなと思ったりもしていたんですけど、投げさせてみると、何でもすぐにできてしまう。フィールディングもけん制もそう。センスがあるというのは、こういう子のことだと思いました」

 本人が「自信がある」というのはスライダー。それにカーブがあり、ほかにも数種の変化球を操る。「夏があるから、監督に言うなって言われているんです」と、まだ開けていない引き出しの存在もほのめかす。

初めて「1」を背負う夏

 多くを吸収する力は田口本人も自覚する持ち味の一つ。昨夏、甲子園で躍動する松井を見て、ライバル心に火をつけるとともに、空振りを取れる秘訣を映像から探った。「フォームですよね。ストレートと変化球で変わらない腕の振り。やってみると、それまでより空振りが取れるようになりました」

 狙っているわけではなく、自然と増えた三振の数。投じるボールには手応えを得た。残る課題はメンタル面にある。

「広島の今村(猛)さんがセンバツで優勝したとき(09年)、どんな状況でもまったく表情を変えずに投げていました。僕の思うエースのイメージがそれです。夏の大会では初めて1番を着けますから、その責任を態度で示せればいいと思います」

 18を背負った1年夏は決勝で敗退、10で臨んだ2年夏はベスト4で散った。「2回とも負けたのは僕のせいですから、最後に借りを返したい」。熱くなって、マウンドで己を失った反省から、気持ちのコントロールの重要性にも気付いた。

 しかし、この気持ちの強さこそ田口の最大の武器。「出たことのない学校から甲子園に行きたかった」と選んだ広島新庄高を甲子園に導いたとき、さらに左腕の価値が高まるはずだ。

PERSONAL DATA
たぐち・かずと
170cm74kg/左投左打/1995.9.14生
選手のタイプ→江村将也(東京ヤクルト)
[新チーム結成以降の成績]
12秋広島大会→8強
13春広島大会→準優勝

▲昨夏の甲子園で見た桐光学園高・松井の腕の振りを参考に、ストレートと変化球で変わらない腕の振りを身に付けた



PROFILE
広島県出身。五日市観音西小3年時に野球を始め、直後から投手。広島カープジュニアのメンバーとしてNPBカップ出場もある。
五日市観音中時代は五日市観音シニア(軟式)に所属。
広島新庄高では1年夏から背番号18でベンチ入り。チームは決勝で敗れた。
2年夏は背番号10の主戦としてベスト4進出に貢献。
今夏、夏は初めて背番号1を背負い、広島新庄高初の甲子園出場を目指す。
最速は完全試合を達成した6月の土佐高との練習試合でマークした145キロ。
スライダー、カーブのほか、数種のキレのある変化球を操る。

     ◆


次のステージ目指す未完の大器
有銘昭晋[投手/興南高]
取材・文=松永多佳倫
写真=黒田史夫



 2010年に沖縄の興南高が史上6校目となる甲子園春夏連覇し世間の話題をさらったその翌年に、スーパー1年生が入学した。その名は有銘昭晋。181センチの長身から繰り出すストレートの最速は148キロ。ケガによる故障などで不調が続き、最終学年となった今夏も3回戦(対美里高、3対6)で敗れ、一度も甲子園出場を果たせずに終わったが、未完の大器は新たな手応えを感じ、次のステージへと目標を定めている。

     ◎

「今までの有銘は立ち上がりが良くなかったが、今日は低めに球が集まっていた」。興南高・我喜屋優監督が珍しく褒め讃えた。

 6月23日、全国で最も早く開幕した選手権沖縄大会の初日、1回戦で中部農林高と対戦した興南高の先発マウンドには、背番号10を着けた有銘の姿があった。右腕は4回を2安打無失点に抑え、試合は10対0の5回コールド勝ち。「ストレートが走っていなかったので、途中から変化球を多めにしました」(有銘)。

 初回、先頭打者に安打を許したが、気持ちを切り替えて後続を断つ。2回には3者三振、変化球主体だったが、完全に打者を圧倒した投球。2回戦・読谷高戦でも先発し、初回に2点を取られはしたものの、3回を投げて2安打7三振を奪った。「立ち上がりの悪いクセが出てしまいました」。いつもなら序盤から攻められ、KOされるパターンだったが、2回からはガラリと変身し、完璧に抑え込んだ。課題だった試合中での修正能力がここに来て発揮できるようになったのだ。ここまで来るのに多くの月日がかかった。

理想とする頂

 有銘たちの世代は、過去に類を見ないモチベーションで入学してきた世代でもある。有銘が中学3年生のときに島袋洋奨(現中大)を擁した興南高が甲子園春夏連覇、県内の優秀な選手はこぞって同校に集まった。

 入学後、球速は常時140キロ以上計測し、1年夏の大会にすぐさまベンチ入り。将来のエースとして期待された逸材だったが、1年秋に右ヒジ痛で4カ月間の投球禁止と突如ドクターストップ。このケガで大きく出遅れ、その間、同学年の右腕・花城凪都が台頭していく。

 新チームとなり、エースナンバーの「1」は花城、有銘は背番号13で2番手ピッチャーとなる。「1年秋のケガからなかなか調子が上がらなくて、武器であるストレートも走らず、コントロールもメチャクチャでした」

 復調の兆しが見え始めたのは、高校2年、秋季沖縄大会準々決勝・南風原高戦だった。8回から登板し、最速145キロの伸びのある剛速球で打者をねじ伏せる。プロのスカウトからも「力強い腕の振りからの直球が魅力」と評されるように、直球一本で押せる本来の力強い投球が戻ってきた。3年春の沖縄大会は、花城の不調もあって念願の背番号1を与えられる。今夏の大会前、仙台育英高との練習試合で自己最速となる148キロを計測し、未完の大器がいよいよ花開くかと思われたが、好不調の波が激しく、試合で投げてみなければ分からない状態。結局、エースナンバーは花城の手に渡った。

 そして迎えた美里高との3回戦では、登板機会がないまま、3対6で敗退。3年前に春夏連覇した王者はベスト16で姿を消した。「自分には何が足りないかはっきり分かりました。もう少しです」

 当然、将来のプロ入りを視野に入れているが、現段階では大学進学が濃厚だ。今は自分の理想とする姿がはっきりと見え、目指す頂に向かって走り出している。

PERSONAL DATA
ありめ・あきひろ
181cm70kg/右投右打/1995.4.24生
選手のタイプ→野上亮磨(埼玉西武)
[新チーム結成以降の成績]
12秋沖縄大会→4強
【13春沖縄大会】
2回戦 7‐0 南部商
3回戦 10‐4 那覇工
準々決勝 3‐4 八重山商工
【13夏沖縄大会】
1回戦 10‐0 中部農林
2回戦 12‐0 読谷
3回戦 3‐6 美里

▲背番号10を背負った高校最後の夏。登板のなかった3回戦で敗退し、甲子園出場はならなかったが、2試合の登板でポテンシャルの高さは見せ付けた



PROFILE
沖縄県出身。嘉数小2年時に野球を始め、嘉数中時代は宜野湾ポニーに所属し、エースとして活躍、ホークスカップではベスト4入り。
興南高では1年夏からベンチ入りし、最高成績は高校2年の春季大会凖優勝。
MAX148キロのストレートと、変化球はカーブ、スライダー、フォーク。
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