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事実上の“最終試験”!?

NPBスカウトは「プロの卵たち」をどう判断したのか

 



第26回18UIBAFワールドカップ(台湾・台中)には、2年生2人を含む2013年の高校生オールスター20人が集結した。3年生にとっては夏が終わり、高校野球は区切り。しかし、卒業後にプロを目指す球児にとっては最終アピールの場となった。今大会は6球団のスカウトが訪れたが、10月24日のドラフト会議を約2カ月後に控えた、視察目的を探ってみた。

取材・文=岡本朋祐(本誌特派) 写真=荒川ユウジ

世界舞台で見る選手の可能性

 8月下旬。ほとんどの球団が、高校生の最終評価の段階を迎えている。プロ志望届提出の有無によっても変わるが、ドラフト当日の「10・24」のリストに残すか、瀬戸際の時期だ。6月中旬から全国各地で開催された夏の地方大会を皮切りにし、8月の甲子園を経て、有力選手の見極めは一つのクライマックス。

 ただ一方では、甲子園でのプレーを見届けて“ファイナルアンサー”を下せないチームもある。台湾・台中に足を運んだ事実がすべてではないが、今大視察の6球団は「結論」を、先延ばしにした可能性は高い。

 国際大会を見る意義が大きいと語るのは、韓国・ソウルで開催された昨年も、山田正雄GMと遠藤良平ベースボールオペレーションディレクターを派遣した北海道日本ハムだ。今回、最終確認の任務を託された、大渕隆スカウトディレクターは言う。

「日本という狭い枠では見えなかった技術が、世界舞台へ来たら大きな差として出ることがある。今回与えられた、新たな上のレベルの課題に対し、どんな答えを出していくのか。逆に言えば、甲子園では圧倒していても、それが限界値ではなく、もっと大きな可能性を秘めているかもしれない。そんな期待感もあるんです」

 福岡ソフトバンクは昨年、宮田善久スカウト部長補佐が韓国へ視察したが、今年は永山勝スカウト部長。トップ自ら台湾へ足を伸ばした。異国の地、さらに外国人相手に戦うのが、プロにおける指標になるという。

「メンバーの中でも、本物か本物ではないかが、見えてくるんです」

 かつて大学生と社会人の有力選手に認められていた逆指名(自由獲得枠、希望入団枠)が存在した時代、各球団は“恋人”を求め、国際大会のたびにスカウトを派遣していた。同制度での「勝ち組」と言えるホークスは、当時から「プロで使えるか使えないか」を厳選。大学生では第1回世界大学選手権開催時早大4年の和田毅、亜大1年の松田宣浩、早大3年の鳥谷敬(阪神)らは、超越した実力を持っていたという。今回も将来性を見越した評価を下すには、格好のステージだったわけだ。

▲昨年、大谷を一本釣りした北海道日本ハムからは大渕ディレクターが視察に訪れた。その動向が注目される



 昨年に引き続いて姿を見せたのが、阪神・佐野仙好スカウト部長と、DeNA高田繁GMと吉田孝司編成部長の3人。埼玉西武は第2ラウンドから視察。昨年と同様、2人が視線を送った。

 阪神・佐野部長は言う。「皆、良い選手が選ばれていて、しかも国際試合。ここでどれだけの実力を発揮するかが、能力基準になる」 阪神は大阪桐蔭・森友哉に“虎の恋人”として高い評価を下しているが、担当の畑山俊二スカウトも台湾へ派遣する熱の入れようだった。

 対照的に6球団の中で昨年、姿を見せなかったのは巨人である。浪人した菅野智之(当時東海大在学)の「1位指名」を早くから公言。常識的に考えても、1位候補の花巻東・大谷翔平(北海道日本ハム)、大阪桐蔭・藤浪晋太郎(阪神)を改めて確認する必要もないのは明らか。しかし、今年は目の色が違う。山下哲治スカウト部長に加え、桐光学園・松井裕樹の担当である、長谷川国利スカウトも同行する本気度を見せている。

▲NPB からは6球団が台湾に“ 参戦”。スカウトの目にとまった選手はいたのだろうか



あえて確認したい“超目玉左腕”の出来

 さて、最大のお目当ては、言うまでもなく桐光学園・松井だ。今夏の甲子園は不出場も関係ない。「1位重複確実」という2013年ドラフトの超目玉左腕を、あえて見る必要性はどこにあったのか。北海道日本ハム・大渕ディレクターは言う。「試合における勝ち負けは別として、日本の高校生では敵なし。スライダーはどの国・地域を相手にしても通用すると思いますが、それは真っすぐがあってのこと。甲子園にも出られなかった(神奈川大会準々決勝敗退)わけですから、松井君本人も、この舞台でどれだけ通用するか、楽しみな部分が多かったはずです」

 もう一つの見どころは、木製バットへの対応だ。昨年も2年生で唯一経験している大阪桐蔭・森は別格として、常総学院・内田靖人の長距離砲タイプに、東海大甲府・渡邉諒、北照・吉田雄人、仙台育英・上林誠知の中距離ヒッターと、好打者が顔をそろえた。

 高校球児ならば、だれもが直面する金属バットからの移行問題。北海道日本ハム・大渕ディレクターは、3つポイントを挙げる。

「アメリカやキューバのスピード、パワー、角度にどう対応するか。ボールが強くなっただけで打てなくなる高校生もかつては見てきました」

 開幕から2日の雨天中止により、1試合のみ観戦(対台湾)となったDeNA・高田GMではあったが、確かな手応えを口にしている。

「昨年は木製になって苦労した選手を見てきたが、今年はずっと木製で打ってきたように見受けられる。皆、良いスイングをしていますよ」

 確かに当てにいく打者はいなかった。不慣れな木製でも金属同様、自身のスイングを貫く。パワーボールには、それだけの強い振りが必要。つまり、ヘッドがうまく使えていた。今大会の3年生18人は何人がプロからの“お墨付き”を得られたか、10月24日にすべてが明らかになる。

◆第26回18U IBAFワールドカップ派遣NPBスカウト関係者一覧
▼巨人
山下哲治スカウト部長
長谷川国利スカウト
▼阪神
佐野仙好スカウト部長
畑山俊二スカウト
▼DeNA
高田繁GM
吉田孝司編成部長
▼北海道日本ハム
大渕隆アマスカウトディレクター
▼福岡ソフトバンク
永山勝スカウト部長
▼埼玉西武
前田俊郎育成アマ担当チーフ
野田浩輔育成アマ担当
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