週刊ベースボールONLINE

2014プロ野球シーズン展望

星野仙一監督インタビュー 情熱の指揮官が描くV2へのシナリオとは

 



星野 正直……良い勝負はすると思っていたよ。実際にそうなったわけだけど。あとは俺自身が巨人ということで、ものすごくモチベーションが高かった。もしあれが巨人以外のチームだったら、あそこまで燃えるものはなかったのかなと。

武田 監督の闘志みたいなものが選手にも伝わっていたんでしょうね。

星野 あと、これは今だから話せることだけど、田中(将大)が「2戦目で投げたい」と言ってきてくれたことで、これで「いけるぞ」と思えたんだよね。

武田 あれって……田中の方から2戦目って言ってきたんですか。

星野 そうだよ。普通のセオリーなら仙台での第1戦に田中を投げさすわな。俺はそれでいいとも思っていた。それでもCSからの登板間隔もあったから、一応、ヨシ(佐藤義則投手コーチ)に田中へ「何戦目がいいんだ」と確認の意味で聞いてこいと言ったんだよ。

武田 そしたら2戦目がいいと。

星野 そうなんだよ。俺は田中の投げたいところで投げさせたいと思っていたから2戦目と聞いて「よっしゃー!」って。これで俺の中で巨人に勝つための計算が立ったんだよ。日本シリーズって第1戦で投げちゃうと、その後は日程的にどうしても起用法が先発に限られてしまうんだよね。

 その点、第2戦だと移動日を挟んで中2日空ければ、勝敗の展開によっては田中を今度はリリーフとしても使える。結果的に第1戦は則本(昂大)で負けはしたけど、アイツもすごく良いピッチングをしていたし、次は田中がいたから実際はそんなにダメージは感じていなかった。

武田 なるほど。実はそれをずっと聞きたかったんですよ。なぜ、田中が第1戦じゃなかったのかって。もう監督は好きなところで投げろという感じだったんですね。

星野 そう。それにアイツは「この日に投げたい」と言った試合は必ず良い仕事をしてくれていたから。逆にいや〜っていうときは、あんまり良くない(笑)。だから本人に選ばせることが一番良い結果を生むとずっと考えていたから。

武田 でも、2014年はそんな田中がいなくなりました。彼の24勝はどう埋めましょう?

星野 そんなの逆にこっちが聞きたいわ(笑)。どうすれば、いいのよ。

武田 あんまり24勝がどうとかは考えないですか。

星野 考えないね。だって、考えてもしょうがない。田中の代わりなんていないんだから。だからこそ24勝という大それた数字を追いかけるよりも、現実的な10勝から15勝を取り返すことを考えていくべきだと思う。それぐらいだったら他の先発ピッチャーが少しずつ勝ち星を上乗せしてくれれば可能な数字だからね。

武田 その中で監督が期待している選手は誰ですか。

星野 まだ開幕まで実戦が残っているからはっきりとした答えは出せないけど、塩見(貴洋)、辛島(航)にはやってもらわないと困る。昨年の前半はいなかった2人だし、彼らがシーズンを通して投げられればおのずと数字も付いてくるだろうからね。

武田 ゴールデンルーキーの松井裕樹はどう起用していくつもりですか。

星野 先発ローテの一角に入ってくるな。しかも上の方で。俺は高校生のルーキーを1年目からローテに入れるなんて恥ずかしいという考えだったんだけど、それを上回るものをここまで見せてくれているし、開幕から上で使うつもりだよ。

武田 中日監督時代も近藤真一とかをすぐに使って結果を出していますしね。

星野 そうやな。でも、近藤が出てきたのは夏前ぐらいだったから。その点、松井裕はもう開幕からいけるぐらいの投げっぷりだよ。

武田 その一方で新エース候補の則本はちょっとキャンプからスローペースのようですが。

星野 アイツは意図的に球数を抑えさせて調整させているだけ。昨年の疲労もあるだろうしね。だから調整に関しては周囲が言うほど俺は心配してないよ。

武田 ここまでの話を聞くと先発は頭数がそろってきていますし、ブルペンにもソフトバンクからファルケンボーグが加わってV2へ向けて層は厚くなってきていますね。

星野 そんな簡単なもんじゃないけど、なんとか現有戦力で戦えそうなメドはついてきたかなと……。ただ、先発はいい、クローザーにもファルケンボーグがいる中で一番のカギを握るのは中継ぎなんだよ。6回、7回、8回をきちんと抑えられるヤツがもう少し欲しい。

武田 現状だと斎藤隆小山伸一郎青山浩二とかが中心になりますか。

星野 そうだな。ただ、そのメンバーもみんな年齢も高くなってきているし、長いシーズンを戦うには適度に休みも与えながら表のローテと裏のローテを作りたいんだよ。

武田 それは中継ぎでの?

星野 そう。今シーズンの俺の最大の仕事はこの中継ぎ陣の整備かなと実は思っている。先発はもう投手コーチに任せて、いかに中継ぎを充実させてうまく回していけるか。現状ではまだそこに関してはコマが足りないから、なんとか若い選手に出てきてもらいたいね。

14年のキーマンは嶋


武田 ここまで投手陣の話を中心に聞かせていただいたので、打撃陣についてはいかがですか。メジャーからユーキリスが加わりましたが。

星野 ユーキリスが普通にやってくれればマギーの穴は埋められる。逆に埋めてもらわないと。

武田 打順はA・ジョーンズの後の五番を打つことになりそうですか。

星野 五番を任せるよ。守備はファーストかな。その点だけはちょっと課題でもあるんだけど。

武田 銀次がファーストからサードにコンバートされますしね。

星野 そうなんだよ。せっかく昨年ファーストで3割打ったわけだからね。やっぱりファーストとサードでは守備の負担も違うし、守りを気にして成績が落ちてしまうのだけはちょっと心配なんだよな。

武田 それでもここまでの実戦を見る限りは銀次のサードもソツなくこなしている印象はあります。

星野 アイツは練習をとにかくするし、なんとか自分のポジションにしてもらいたいけどね。

武田 そう考えるとキーマンは銀次あたりになりますか。

星野 銀次もそうだけど、一番は嶋(基宏)かな。田中もいない中で若いピッチャーを引っ張るのは嶋しかいないから。若い選手はアイツのリードに首なんてなかなか振れないだろうし、だったらお前のサインが的確なものでないといけない。それは本人にもずっと言っているしね。

武田 嶋ですか。ちょっと意外でしたけど、確かに彼のリードが勝敗を左右するのは間違いないですね。

星野 それに田中のときだけ防御率が良くてもしょうがないんだよ。誰だってアイツのときは良くなるに決まっているんだから。問題はそれ以外のピッチャーのときに、いかに失点を抑えられるか。

 それをどうにかするのはやっぱりキャッチャーなんだから、嶋には今まで以上の責任感と覚悟を持ってやってもらいたい。

武田 他に新戦力だとオリックスから後藤光尊が入りました。

星野 本当に後藤が入ったことでチーム内に競争が生まれたよな。後藤には外野の練習もさせているんだけど、そうすることによって安泰だと思われていた外野のヤツらも目の色が変わってきた。やっぱり、かつてのウチは競争がなかった。それがないとチームは強くならないよ。

武田 本当にそうですね。急に競争が激しくなりましたね。昨年の今ごろは「選手がおらん、おらん」が監督の口ぐせでしたけど(笑)。

星野 本当におらんかったもん(笑)。良くここまでになってきたよ。

▲オープン戦でも好調を維持する星野イーグルス。球団創設10年目の日本一連覇に向けて、闘将の挑戦の日々に終わりはない



武田 最後に今シーズンへ向けての意気込みを聞かせてください。

星野 意気込みは……そうだな、昨年のような不思議なことがまた起きるように頑張るよ(笑)。

武田 でも、今年も優勝したら本当の意味で常勝軍団というか、さらに強いチームになるんじゃないですか。

星野 いや、毎年CS圏内に入るようなチームになるには、あと3年はかかるかなとは思っているよ。今の若いピッチャーたちがさらに頭角を現してきてくれたときにね。

 それでも今シーズンに関しては、戦力的には大型補強をしたソフトバンクがちょっと抜けているかもしれないけど、また分からんよ。

 いまのパ・リーグは力が拮抗(きっこう)して優勝もあれば、最下位もあるから。だからウチも、粘り強く1戦1戦を大切に戦っていきたい。そうすればまた秋には、良いことが待っているかもしれないしな。

武田 大いに期待しています。楽天の日本一連覇を。

星野 そんなに簡単なものじゃないし、勝負は甘いもんじゃないんだよ。

武田 そこはなんとか2014年シーズンも「監督の力」で(笑)。

星野 もう、ええわ(笑)。

PROFILE
ほしの・せんいち●1947年1月22日生まれ。岡山県出身。倉敷商高から明大を経て、69年ドラフト1位で中日に入団。74年には最多セーブと沢村賞を受賞。通算146勝121敗34セーブの成績を残して82年に引退し、87年〜91年、96年〜2001年に中日監督を務め、2度のリーグ優勝。01年オフに阪神監督就任し、03年にはチームを18年ぶりのリーグ優勝へと導く。08年には北京五輪の日本代表監督。04年からオーナー付シニア・ディレクターとして阪神に在籍していたが、11年より楽天の監督に就任。指揮を執って3年目の昨年は球団創設9年目でチームをパ・リーグ優勝、日本一へと導いた。

たけだ・かずひろ●1965年6月22日生まれ。東京都出身。明大中野高から明大を経て、88年にドラフト1位で日本ハムに入団。91年に最優秀救援投手を獲得。96年にダイエーに移籍し、98年には13勝を挙げて最多勝。中日に移籍した99年はリーグ優勝に貢献。02年に巨人に移籍し、この年限りで現役引退。06年にはWBC日本代表の投手コーチ。現在は野球評論家として活躍中。現役通算成績は341試合89勝99敗31セーブ、防御率3.92。
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング