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変化球特集第1弾 魔球スプリットのすべて

上原浩治[レッドソックス]のスプリットの威力とは!?

 

昨年レッドソックスの世界一は、上原浩治なしには達成できなかったと言っても過言ではない。その上原は真っすぐとスプリットの2種類しか投げない。それでも打者は簡単に空振りをしてしまう。分かっていても打てない上原のスプリット。そのすごさとは何なのか、探ってみた。

空振りをとるためわざとカウントを悪くする


 レッドソックス・上原浩治のスプリットは、今やメジャーでもトップクラスの質の高さと評される。しかも今季、その武器はより磨きがかかり、さらに手がつけられなくなったと言われているほどだ。

 その磨き上げられたスプリットは、シーズンが開幕してわずか1試合で感触をつかんだ。ボルティモアでの開幕シリーズ2戦目、今季初登板したときはまだボールがうまく指にかからず「(開幕したばかりで)ボールに慣れていないということですね。この(低い)気温との兼ね合いで、やっぱり滑りますから」と話していたが、2連投した翌日の試合では「(前日の初登板で)試合カンも戻ったし、ボールの感覚をどうすればいいかというのも勉強できた」と話し、その2日後のブリュワーズ戦では1イニングをいずれもスプリットで3者連続三振に切って取る圧巻の投球を披露した。そのスプリットを空振りした打者はことごとく、まるで消える魔球でも投げられたかのようにボールの行方を見失い、捕手の方を振り返りながら首を傾げるのだ。

 スプリットと一口にいっても、上原の場合は3種類を使い分けている。それぞれ違う握りで投げ、変化の仕方やスピードも違う。その違いについて詳細は明かしていないが「基本的な違いは、縫い目を握るか握らないか」と言う。

 メジャーで24年間プレーし先発と抑えで活躍して通算197勝171敗390セーブをマークしたレッドソックスのOBデニス・エッカーズリーはかつて、上原のスプリットについて「彼は落差のあるスプリットを誰よりも安定して投げる能力がある。常に落差がある。もうひとつ浮き上がってくるようなスプリットもあるけれど、あれは速いナックルボールのような球だね。バットを振った瞬間に消えてしまうような球だ」と解説した。

 ジョン・ファレル監督は「コウジは相手にスプリットを振らせるため、わざとカウントを悪くすることがあるほど、あの球を効果的に使っている」と舌を巻く。

 チームメートたちもそろって、上原のスプリットに称賛の声を上げる。

 同じリリーフ仲間のブランドン・ウォークマンは、その使い方の巧みさに「彼がマウンドにいると、目の前でビデオゲームを見ているような感覚になる」と話し、バッテリーを組むこともあるデービッド・ロス捕手は「彼のスプリットは、相手打者にみっともないスイングをさせてしまう。ワンバウンドする球でも振ってしまうので、空振りをさせられることになる。これ以上の武器はない」と言う。

3種類のスプリットを投げ分け、今やメジャー屈指のクローザーとなっている上原



唯一無二の球種コウジ・ウエハラそのもの


 対戦する打者も、上原のスプリットを強く意識し、警戒している。昨年のワールド・シリーズでカージナルスの一員として上原と対戦し、今季はレッドソックスの伝統のライバルであるヤンキースに移籍し再びリーグ戦で上原と対戦するカルロス・ベルトラン外野手は「彼は非常に良いスプリットを持っているので、対戦するときはあらかじめプランを持って打席に入る。速球に的を絞るか、それともスプリットかのどちらかだ。どちらなのかは明かせないけれどね」と言う。

 また、3年連続20本塁打以上をマークする強打者でかつて上原とバッテリーを組んだこともあるオリオールズのマット・ウィータース捕手は「コウジはスプリットとファストボールのコンビネーションをメジャーで最も有効に使える投手だと思う」と話している。

 上原のスプリッターを覚えたいと、教えを乞う選手も出てくるようになった。昨季、同チームの後輩・田澤純一がスプリットを思うように投げられず苦労した時期があったが、そのときはファレル監督から「コウジに教えてもらってはどうか」とアドバイスを受け、握りをあらためて教わったことがあったという。今季は、キャンプ中に同僚のジェーク・ピービが、教えてほしいと上原に頼んだ。

メジャーの投手もスプリットを教わりに来るというが、その使い方は上原にしかできない唯一無二の球種なのだ



「あの球はコウジ・ウエハラそのものだ。もしコウジにあの球がなかったら、コウジはコウジではなかっただろう。そして自分のピッチングのことを考えたとき、こう思った。僕もあの球を使わない手はないんじゃないかとね。コウジのスプリットと同じものを投げられるようになるとは思わないけれど、この球種を加えることで確実に投球の幅が広がる」

 ピービはそう話し、オープン戦が始まった当初からそれを試し、今季レパートリーの一つとして使っていくつもりだと明かした。

 だがレッドソックスのフアン・ニーブス投手コーチは、上原のスプリットには、たとえ教わってもほかの投手にはなかなかマネできない点があるという。

「それは、コウジがどんな状況でも、どんなカウントでも、スプリットを使うことができるということだ。これだけは、誰にでもできるというものではないと思う。コウジも含め、メジャーで活躍している日本人投手の多くはスプリットを投げるが、彼らのスプリット自体にそれほど大きな違いはない。ただコウジの使い方は独特だ」

 そういう意味で、上原のスプリッターは唯一無二の武器といえるかもしれない。
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