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勝利のカギ握る最強リリーフ伝説

清川栄治〜リリーフ一筋という生き方〜

 

▲「ほかの人と違う投げ方を」と考え、模索し、サイドスローに


毎日ブルペンで準備し、仕事に備える。決して派手な役回りではない。スポットライトを浴びる機会は少ないが、そこにはプロフェッショナルの矜恃がある。リリーフ一筋のプロ野球人生を歩んだ清川栄治の生き方には、リリーフ投手の哲学がある。
取材・文=田辺由紀子 写真=BBM

 大人になれば、人生なかなかうまくいかないことが多いと気付かされるものだ。思っていたような仕事に就ける人など一握り。これは自分の望んでいた仕事じゃない、自分がいるべき場所はここじゃない……自分の力を棚に上げて、ついつい言い訳が口を突いて出る。しかし、そんな言い訳ばかりでは、どんな仕事もうまくいかないだろう。リリーフという生き方には、どこか、社会で普通に生きる私たちが共感すべき部分があるような気がしてならない。

 ピッチャーたるもの、華は先発――。今でこそ投手の分業が進み、中継ぎ投手にも相応の評価が与えられているが、1984年にドラフト外で広島に入団し98年の現役引退までリリーフ一筋のプロ生活を送った清川栄治が現役当時は、ホールドという記録もない時代だ。「最後を締める抑えは脚光を浴びるでしょう。でも、中継ぎは日の当たらないポジションだった」と自らが担った役割を、清川はそう振り返る。彼もまた、当初は当然、先発へのあこがれはあったという。それでも、「まず一軍に上がることが目標。どうすれば一軍に上がれるか」と自身が投手として生きる道を模索した。

「当時、広島には左に川口さん(和久、現巨人投手総合コーチ)、大野さん(豊)がいて、ちょうど脂の乗っているころ。抑えには外国人のレーシッチがいて、若手の高木宣宏、ベテランには山本和男さんもいた。同じ左で、どこなら一軍に上がれるかと考えたら、ショートイニング、ワンポイントでのリリーフというところでした」

 首脳陣の目を引くために、ほかの人がやっていない投げ方をする。腕を下げ、サイドスローにフォームを変えた。自身の生きていく道を探しあて、そのために技を磨いていったのだ。そして、先発への思いを残しながらも、いつしかそれを「天職」とする覚悟を決めていく。

「いつかは先発に……という思いも最初はありましたよ。実際、チャンスがないわけではなかった。谷間や連戦などで『今日、投げなかったら、明日は先発』と言われたこともありましたから。ただ、それがことごとく流れてしまう。抑え投手が打たれて緊急登板となって翌日の先発がなくなったこともありましたし、雨で流れたこともありました。そういうことが何度かある中で、これは最後まで天職としてリリーフでやり続けて、終わった方がいいんじゃないかと考えるようになったんです。同時にリリーフならではの“ピンチを断つ”ということの面白さ、気持ち良さも感じました。スポットライトは当たらないかもしれないけど、なくてはならない存在。いぶし銀と言われるような存在になろうと」

 実際、覚悟が必要な持ち場だ。例えば先発投手なら許されるだろう失敗も、僅差のゲームになればなるほど、それが許されなくなる。自分の失敗が前を投げた投手の勝利を消してしまう恐怖もある。それでもマウンドに向かわなくてはならない。清川が当時言われたのが「中継ぎに調子もクソもない。調子が悪かったから打たれましたは通用しない。悪くても行かなあかんのやから。悪かったら悪いなりに抑えろ」。

 リリーフとして大事な要素は、立ち上がりの第1打者をアウトにできるかどうかだという。

「最初の打者に対してアウトを取れるということは、ベンチがすぐに動かなくてもいい。最初に四球を出したり、長打を食らったりしたら、ベンチはすぐに動かなきゃあかんでしょ。先発ピッチャーだったら辛抱してもらえることも、リリーフには辛抱してもらえないんです」

▲1988年当時。先発の川口和久(右)を救援し、喜びの表情



 ここで生きると覚悟を決めた清川の支えとなったのが、自身のモチベーションとなる目標だ。先発投手が完全試合を目指すように、登板試合でひとつずつアウトを重ね、その数連続で29。それが途切れれば、また別な目標を探した。無四球を何イニング続けられるか、自責点なしをどれだけ続けられるか。そして、438試合救援登板という当時の記録も作った。「地味な記録でいいんです。でも、自分にとって、それを目標にして頑張れるでしょう」

 バッターに集中し、アウトを取る。たとえ走者を出したとしても、絶対にホームは踏ませない。「ここは自分の仕事だから」。なにより、その覚悟とプライドこそが、仕事を成す一番の原動力となるのだろう。
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