週刊ベースボールONLINE


 


巨人広島中日と激しい優勝争いを繰り広げている阪神。交流戦で低迷したが、6月後半から7月にかけて再浮上してきた。その原動力は新人捕手の梅野隆太郎の存在なしには考えられないだろう。マスクをかぶれば勝ちに導く、持っている男でもある。残り50試合を切り、これからが本番。逆転優勝のためには、梅野の若いパワーが必要になってくるはずだ。
取材・構成=椎屋博幸 写真=松村真行、早浪章弘、毛受亮介

1試合で3、4度対戦する難しさ


──打撃では、八番・捕手ながら打力で大きな期待をされています。

梅野 キャッチャーだからと言って、バッティングはおろそかにはしていません。それぞれ別な部門だと思っていますので、両方で結果を出したいです。

──今も思い切りがいいスイングは変わっていませんね。

梅野 それが良いと周りに評価されていますが、個人的にはまずしっかり結果を残したいです。結果はまだまだ残せていませんから。ただ、自分の良い部分は残しながら確率、確実性を上げていきたい。確率的な部分で少しずつは成長しているとは思います。ワンバウンドを追いかけることは少なくなりましたので。

──ペナントレースは残り50試合を切り、阪神は首位争いを繰り広げています。ご自身は初めての経験ですから……。

梅野 残りの試合感覚が分からないので、何とも言えないです。とにかく1日を必死にやっていくだけです。

──必死にやってきて、8月に入りました。アッという間ですか?

梅野 思い返せばアッという間でしたけど、1日でやることが多く、勉強することがたくさんあり……1日が終わるのは遅く感じるのですが、次の日が来るのは早い(笑)。でも、幸せなことだと思っています。大変ですが、やりがいを感じています。

──現在、スタメンマスクが続いています。正捕手だ、という感覚でプレーしている。

梅野 いやいや。出場できる試合は勝てるキャッチャーでいたい、という思いしかないです。学ぶことが多過ぎるので、いつ正捕手という言葉をもらえるのか……それは自分の頑張り次第だと思っています。

──その中で同じチーム、選手と1試合で3回ほど、3連戦で9回の対戦が少なくともありますよね。

梅野 そうですね。特に試合の中での3巡目、4巡目が一番大事になりますし、チャンスを作られることが多いです。先発投手がそこまで投げていたらタイミングや軌道が合ってくることもあります。投手が代わると先発が頑張っていた分、きっちり抑えないといけないです。そこでそれぞれ違う緊張感がありますし、それぞれの難しさがあります。そして、1個のアウトを取る厳しさというか……だから試合の中で、終盤での難しさは出てきます。

──4月は、ベンチにいて学ぶことがたくさんあると言っていましたが、今はそれを生かせていますか?

梅野 ベンチからは、客観的に見て判断ができるのですが、実際にマスクをかぶって当事者になると打者の考えなどを観察できる余裕ができていないです。そういう状況の中で、低めに、ワンバウンドを投げてくることも想定します。正解のない配球で、いろいろと冷静に考えるのは難しいなあと、あらためて感じています。

──しかし、成長している部分はあるのではないですか。

梅野 「学ぶこと」が一番だと思っていますので、成長はしているとは思っています。今振り返って「あのときはこうしておけば良かった」と思うことももちろんあります。ただ次の試合がある分だけ、失敗しても取り返しはつくはずだ、と思ってプレーしています。

思い切りのいいバッティングは続けながら、今は結果も追い求めている



失敗を引きずりながらも気持ちを強く前を向く


──今年19勝10敗(8月9日現在)で1点差勝ちが多いです。

梅野 勝った試合は1点差でもうれしいですし、チームの勝利にもなりますよね。また、本拠地の試合などはサヨナラもありますので、その辺りも考えながら配球を組み立てることもあります。粘って勝つとチームの雰囲気も違いますので。一方で、打者に3、4巡目の打席で決勝打を打たれるとダメージが大きい。さらに1点取った後すぐに2点取られる場合などは、すごく印象に残りますので、気を付けています。

──やはり、3、4巡目の勝負所を考えて1、2巡目の配球を組み立てるんですよね。

梅野 そうですね。3、4巡目でいかに簡単に攻めてアウトを取れるかということを考えながら、配球を組み立てています。

──それはやはりアマチュア時代とは違う難しさでしょうか。

梅野 3連戦の中で、特に1戦目を勝つことがかなり重要になり、それが3連戦を勝ち越せることにもつながります。だからこそ、初戦の相手打線の1、2打席目は重要だと考えています。

──配球での失敗、打たれたときなどは引きずらないですか?

梅野 ベッドで思い返して寝られないときも実際にはあります。まだまだ、すぐには切り替えられるようにはなっていないですね(笑)。不意に思い出したりして。でも次の日は、次の日と思いながらも……気持ちの部分がしっかりしていれば、何とかなるとは思っています。

──毎日、何か考えながら少しずつ前進している感じですね。

梅野 いやあ、毎日必死にやっているだけです。しっかり準備して試合に臨んでいますので「考えながら必死」です。

1日で捕手として勉強することは数限りないが、それでもしっかり試合前に準備し、試合では考えながら必死にプレーしている



──「必死」という言葉は、周りが見えなくなるという意味もあります。

梅野 まだまだそういう場面もあります。走者二、三塁で、後ろにそらしたらいけないと思ったりしますので、点を取られないための準備をしながら必死にプレーしているというのが本音です。僅差で無死満塁になったときは0点に抑えなといけないと思っているので、終わって振り返ると記憶になかったりするときがあります。それくらい必死で、まだ冷静になれていないんだ、と思います。

──7月23日の巨人戦(甲子園)で能見(篤史)投手のボールをそらして決勝点を与えてしまうという試合もありました。

梅野 あの場面は試合が終わった後、まったく記憶がなかったんです。それくらい必死でした。あのときは10球以上ワンバウンドが来て、止めていたんですが、最後にそらしてしまいました。本当に周りがまったく見えていない状況でした。今、冷静に思い返せば、腹をくくってどこかで真っすぐを真ん中でもいいから要求しておけば良かったと思います。それで打たれてもしょうがない。後ろにそらして1点取られるよりもよかったかな、と。だから、すべて変化球という配球でなくてもよかったと。ただそれだけ必死だったんですよね。困ったときは何を投げさせるか、というのも決めておくべきだということも勉強になりましたね。一瞬で配球を決めるための、根拠などを導きださないといけないですし、それを答えられるキャッチャーでないといけないです。でもまだまだ必死にやっていることが多いです。

──どういうときに梅野捕手が必死になっているのか、今後見ていくと成長度合いが見られますね。

梅野 そういうふうに見てもらえると、皆さん、楽しいかもしれないですね(笑)。まあ、チームとしては、勝たないと上に行けません。巨人に勝ち越したから優勝できるとは思っていません。すべてのチームに勝たないと、そこは見えてこないと思います。これからも今日の1試合が大事だと思いながら必死にプレーしていきます。



PROFILE
うめの・りゅうたろう●1991年6月17日生まれ。福岡県出身。173cm80kg。右投右打。福岡工大城東高から福岡大を経て14年ドラフト4位で阪神入団。1年目の春季キャンプから一軍に抜てきされ、そのまま開幕一軍入りを果たした。開幕戦での新人捕手デビューは田淵幸一氏以来45年ぶりの快挙だった。開幕3戦目でプロ初安打を左前に放った。その後5月に入り先発マスクが増え、現在では正捕手としてマスクをかぶっている。
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング