週刊ベースボールONLINE

男の生き様〜去り際の美学〜

中村紀洋ついに戦力外通告!現役続行を希望するノリの心中

 

中村紀洋の身辺が揺れている。5月7日に登録抹消後は二軍で調整する日々。ついには一軍から声がかからず、9月23日に高田繁GMと今後に関しての話し合いを行った。本人は現役続行を希望しているが、10月3日に戦力外通告を受けた。通算404本塁打をマークしているスラッガーの去就は果たして。
※文=楊枝秀基(スポーツライター) 写真=高塩 隆

5月6日の巨人戦(東京ドーム)が今季一軍で最後の出場だった。果たして来季は?



シーズン終盤になっても解かれない“懲罰”


 自ら引き際を決められる人間は限られている。チームを代表するタイトルホルダー、2000安打達成者、200勝達成者……。実績あるものにだけ許された権利といっていい。

 ただ例外も存在する。近鉄球団消滅からメジャー・リーグのドジャース、オリックス中日楽天、横浜(現DeNA)と渡り歩いた苦労人が窮地に立たされている。中村紀洋だ。余りある実績を持ちながら“究極の外様”となってしまったスラッガーの去就は横浜球団に委ねられている状況といっていい。

 5月7日の出来事だった。球団の方針に従わない行動があったとして、突然の登録抹消。これを受け、中村がSNSのフェイスブックで経緯などを掲載し、世間にその是非を問うた。

 同6日の巨人戦(東京ドーム)での出来事だ。中村が打席に入った際、一塁走者には「グリーンライト」点灯中の梶谷隆幸が出塁していた。バッテリーをかく乱しようと、激しく動き回る状況に中村が疑問を感じコーチに相談。「走者を場面によっては動かさず、打撃に集中させてほしい」と申し入れたことがきっかけだ。

 これが相談とは取られず、監督批判と受け取られた。そして、中畑清監督から「チーム方針に従わない言動があった。(抹消は)懲罰的な部分がある」ということで、直接ではなく、マネジャーから連絡が入り抹消が申し渡された。「必要な戦力である」という説明があったものの、青天のへきれきだった。本人からすれば、相談するという行為が「批判」と取られたのだから戸惑いは隠せない。

 この投稿には何と一晩で24万ものアクセスが集中した。それほど注目度が高かったのだ。コメントの書き込みも2000件超という驚異的な数字に上った。これまでトラブルが少なかったとはいえない中村に対し、批判的なコメントも目立ったが、賛否両論が飛び交った。中には高田繁GMや中畑監督への批判もあるという状況を受け、球団側は慌てて火消しに動いた。

 翌日になってようやく、高田GMが中村と会談。「あらためて必要な戦力だ」と本人に伝えた。ただ、抹消期間については期限を設けない方針をマスコミ各社に示した。その後はキューバからグリエルの獲得を発表などをする一方で、中村に関する問題を放置。シーズン終盤になっても“懲罰”が解かれない状況に、中村も不安を募らせた。

「大事な時期になってもお呼びがかからない。自分は本当に必要な戦力なのだろうか。普通、そうは思えない」と危惧。そうした中、一部スポーツ紙から「中村退団へ3度目のFA宣言」や「中村、現役続行宣言」などの見出しが躍ることとなった。

 この直後の中村の心境はこうだった。「正直、周りが僕のことでごちゃごちゃ騒いでも、チームが(CSの)可能性を信じて戦っているときに、自分のことを話すのは失礼だと思う。自分のやることは、いつ呼ばれてもいいように準備を続けること」。

 これは紛れもない本心であり、DeNA担当記者に対応した際にも同じ内容のことを話している。事実、イースタン・リーグでは遠征にも帯同せず、1試合2打席ほどと出場機会が限られる中で42試合、打率.286、1本塁打、9打点の数字を残しているのは腐っていない証拠だ。

わずか3分間だけのトップとの会談


 とはいえ、問題は心の中に生じたわだかまりだ。6日の巨人戦でのプレーひとつが、中村の心を波立たせたわけではない。昨年10月下旬の球団との年俸下交渉では、日本シリーズ終了までに球団提示金額で合意しなければ契約しないと通告を受けた。FA権を持つノリに対し、戦力外をちらつかせる強引な“肩たたき契約”を迫ったことは記憶に新しい。これにはDeNA選手会も異議を唱えたほどだ。

 その直後に球団はオリックスからバルディリス獲得の方針を決定。当初は中畑監督も「四番・ブランコ、五番・ノリは不動」と公言していただけに、高田GMとの意思統一がなかったことが確かだといって間違いない。さらに、春季キャンプは二軍スタート。「CSに出場するために近鉄、中日での優勝経験を若手に伝えたい」と張り切っていたノリだが、不信感は増すばかりだった。故障でも調整遅れでもない中で、疎外感を感じ、若手と泥にまみれた。

 キャンプ宿舎での夕食で食あたりを起こした際は、高田GMから「いつも、ええもんばっかり食うとるからや」と、とんでもない言葉も浴びせられたという情報もある。こんな状況でこの言葉を冗談だと受け流せる人間の方が異常だといえる。

 それでも中村は耐え続けた。チームのためにとポジションがかぶる選手が二軍調整に来たとしても、積極的にアドバイスを送った。後藤武敏の復調ぶりが好例でもある。ブランコも中村の技術に信頼を寄せており、自ら助言を求めることもあったほどだ。球団内部にも「いてもマイナスになる存在ではない。あそこまでの立場でなくては、自分の商売道具である技術を若い選手に惜しげもなく教えるなんてできない」との声もあるほどだ。

 この期に及んでも、中村の去就を「まだ決めていない」と話す高田GMを見るにつけ、世論を恐れていると感じずにはいられない。戦力外通告を行うにせよ、ファンからの批判が球団に向かうことを恐れているとしか思えない。

 どのファンが、中村に対して行儀よく、まじめな姿を求めているのだろうか。そんな中村を見たいDeNAファンはいないだろう。優等生だろうが不良だろうが、2000安打、400本塁打という数字だけは嘘をつかない。だとすれば、生意気な若造に対してもリスペクトがあっても当然ではないだろうか。「必要な戦力なんだ」と口にしておいての飼い殺し。そこに追い打ちをかけるように大補強となれば、立派な“パワハラ”だと言っていいだろう。陰湿な演出の末にどんな結論を出すのか。

 9月23日、高田GMと会談し、現役続行の意思を伝えたというが、会話した時間は「たったの3分」という。しかも、ほとんど中村が話すだけだった。そして10月3日、DeNA球団は中村と来季の契約を結ばないことを発表した。球界の歴史に名前を刻んできた中村獲得のオファーを出す球団はあるのか? 今後の中村の去就から目が離せない。

中村紀洋 2014打撃成績
試合13 打数49 得点5 安打12 二塁打2 三塁打0 本塁打0 打点10 盗塁0 犠打0 犠飛1 四死球6 三振3 打率.245 長打率.286 出塁率.321

中村紀洋 通算打撃成績(22年)
試合2267 打数7890 得点1076 安打2101 二塁打363 三塁打13 本塁打404 打点1348 盗塁22 犠打26 犠飛53 四死球1077 三振1691 打率.266 長打率.469 出塁率.352

PROFILE
なかむら・のりひろ●1973年7月24日生まれ。大阪府出身。180cm93kg。右投右打。渋谷高から92年ドラフト4位で近鉄入団。中心打者としてチームを引っ張り2001年のリーグ優勝に貢献した。05年ドジャース、06年オリックス、07〜08年中日、09〜11年楽天に在籍。11年途中から横浜(現DeNA)の一員となった。主なタイトルは本塁打王(00年)、打点王(00、01年)、ベストナイン(96、99〜02年)、ゴールデングラブ(99〜02、04、07、08年)。
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング