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甲子園球場で行われた日本シリーズ第2戦。ソフトバンクの3年目右腕・武田翔太の投げた“魔球”に場内が沸いた。それは、ストンと大きく落ちるカーブ。ゴメスを始め阪神の強打者たちを苦しめた、その“魔球”に迫る――

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2種類のカーブで猛虎打線を幻惑




 甲子園球場で行われた日本シリーズ第2戦。21歳のプロ3年目右腕・武田翔太が緩急を織り交ぜたピッチングで猛虎打線をねじ伏せた。日本シリーズ初登板ながら、堂々たるピッチングで7回を投げ3安打1失点。初戦を落とし阪神に傾きかけていた流れを引き寄せる、見事なピッチングだった。この試合で、ゴメス、マートンを擁する強力猛虎打線をうならせた魔球。それこそが、独特の軌道を描くという、鋭くストンと落ちるカーブである。

 6回二死から狩野恵輔に初安打を許すまでは、完全試合ペースだった。140キロ台後半の直球に、この120キロ台のストンと落ちるカーブなど変化球を織り交ぜた。初戦で4打数2安打3打点だった四番・ゴメス、4打数2安打2打点だった五番・マートンの強力助っ人を計7打数無安打に封じた。圧巻だったのは、2回のゴメスの打席。1ストライクからの2球目に147キロの速球で追い込み、3球目は捕手の手前で大きくバウンドする124キロのカーブで空振り三振。今季のセ・リーグ打点王をして「速球も独特のカーブもすごくてやられた。いい投手だ」と言わしめた。

 ポイントはゆったりとした投球動作ながら鋭い腕の振りで放たれる直球とカーブ。そして、120キロ台の球速があったこと。直球と同じ初速からストンと落ちてきたら、打者はなかなか反応することができないだろう。5ミリほど伸ばしている右手親指の爪を、ボールに食い込ませることで回転をかけ、それが120キロという球速を生むという。

投げ続けたことで打者を欺いた


 思い起こせば、西武が優勝した2008年の日本シリーズ。2年目右腕・岸孝之が第4戦の先発としてシリーズ初のマウンドを踏み、巨人相手にシリーズ史上2人目となる毎回奪三振で完封勝利。第6戦では中2日ながら、4回途中から救援登板し優勝に貢献しているのだが、あのとき、岸の武器となったボールもカーブだった。

 その後、岸は「2年目の僕のことを相手がほとんど知らない状況と、そこにたまたまカーブという武器があって、だからうまくいったんじゃないですかね」と振り返っている。今シリーズは1度の登板機会のみで終わり、惜しくも優秀選手賞にとどまったが、武田がもたらしたこの1勝は、シリーズの勝敗を左右する大きな1勝となった。

 宮崎日大高時代は、一度も投球練習を休むことがなかった。徹底した投げ込みと走り込みで、1試合を完投できる体力をつけ、直球のキレと制球、カーブを含めた変化球を磨いた。そうして、しっかりとした地盤を作った。そういった背景も今回の好投を生んだのかもしれない。

 現在は、チェンジアップやツーシーム、スプリット、カットボールなど、微妙な変化でバットの芯を外す変化球が主流となっており、武田や岸が投げる縦カーブは打者も慣れていないのが現状だ。そういった背景の中で、カーブを狙われても投げ続けたことも大きかったのだろう。軸になるボールとして、徹底して投げ続けたことで、打者を欺くことができたのだ。

 猛虎打線を、そして甲子園の観客までもを幻惑させた武田の大きくストンと落ちるカーブ。見事だった。
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