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広島優勝へ カギを握る4人の選手

 

24年ぶりVへ向けて機運は最高潮。注目選手は多々いるものの、ここでは特に活躍が必須な4選手を取り上げる。彼らが期待どおりのプレーを見せれば、悲願達成は現実味を増してくる。
写真=小山真司、佐藤真一

前田健太・リベンジ期す鯉のエース




「去年の悔しさは誰よりも強い」。前田健太が今年に入り折に触れて発している言葉だ。昨季は11勝を挙げたものの、夏以降は勝負どころの登板でことごとく敗戦投手となり首位を走っていたチームは最終的に3位転落。エースとしての責任を一身に感じていた。それだけにリベンジを期す今年は昨年果たせなかった「エースとしての役割」を全うできるかに尽きるといえる。

 メジャーから黒田復帰が決まっても緒方監督は「お前がエースだ」とキャンプイン前日に開幕投手を通告し全面的な信頼を寄せた。常に勝利を求められるエースでもチームの連敗中や上位チームとの対決などシーズン中に「ここぞ!」という登板が何試合かある。そこでいかに勝てるかが今年の前田には求められ、チーム浮沈のカギを握ることになるだろう。昨年はそうした場面で完ぺきな投球を求めるあまり力みにつながり、マウンド上でイライラを露わにするなど初めての優勝争いを前にして“らしくない”ところが目立った。しかし、決して勝負弱いタイプというわけではない。

「中学のときに緊張して自分の投球をすることができずに負けてすごく後悔した。それからどんな状況でも緊張しないようにと心掛けている」との教訓からプロ入り後は数々の大舞台で力を発揮してきた。WBCでは世界を相手にベストナインに選出される快投を見せ、オールスターではMVPに輝いたこともある。もともと注目されればされるほど燃えるタイプだけに、今年の“カープブーム”を力に変えるタフな精神力は持ち合わせているはずだ。

 それと同時に真のリーダーを全うできるかも重要になる。これまでの前田は後輩に対して「よき兄貴」という存在だった。ただ今年で27歳を迎えることでチーム内ではさらなる存在感が求められるところ。それを本人も自覚しているようでオフには中田、大瀬良、中崎、そして阪神の藤浪を呼び寄せ都内で合同自主トレを行い新たな境地に立った。

 かつては「あまり下の人に言える方ではない」と後輩に遠慮する面もあったが“チーム・マエケン”の長として投球術や練習姿勢などを伝授。シーズン中も自ら結果を出しながらエースとしての模範を示すことで投手陣のレベルアップにつなげられるか、グラウンド外での“仕事ぶり”も注目の一つとなる。

 もちろん、自身のピッチングの質の向上には余念がない。変化球に頼り過ぎた昨季の反省から直球磨きに務め、縦に落ちるスライダーの習得も目指した。何よりメジャーから8年ぶりに復帰した黒田に積極的に話し掛け新たな調整法を学ぶなど、何かを吸収しようという意識は例年以上に高い。13年ぶりの本拠地開幕戦では不調の中7回2失点と粘りの投球。チームを勝利には導けず「球数が多くいい流れを持ってくることができなかった。もっとイニングをいければよかったが……」と反省の弁を口にしたが、124球を投じてエースの意地を見せた。すでに「日本球界のエース」といわれる前田だが、心技体においてさらにレベルアップをし「スーパーエース」に進化すればカープの優勝は現実味を帯びてくるだろう。

鈴木誠也・勢いをもたらす若武者




 新斬り込み隊長が打線を引っ張る。高卒3年目の鈴木誠也は緒方監督から開幕戦の「一番・右翼」に指名された。高卒2年目だった昨季は36試合に出場し打率.344をマーク。CSファーストステージ第2戦でも「七番・右翼」で出場した。結果は出なかったが、大器の予感を漂わせていた。緒方監督はレギュラーに育て上げる方針を固めた。

 攻守走で圧倒的なスケールを持つ若武者は、新生・緒方カープを象徴する存在だ。この男の躍動なくして、広島の優勝はないと言っていいだろう。指揮官も「何かミスをするが、それ以上に大きなことをやってくれそうな選手」と、少々のミスには目をつぶる覚悟で起用する。それだけの魅力が詰まっているのだ。

 体を大きくすることに重点を置き、オフは肉体改造に着手した。黙々とバットを振り、「開幕スタメンしか見えていない」とはっきり口にしてきた。春季キャンプではドラフト1位の野間とポジションを争う形になったが、オープン戦で結果を残し、信頼を勝ち取った。3月14日のオリックス戦(福山)では豪快な先頭打者本塁打。次打席ではヘッドスライディングで内野安打を勝ち取った。片りんを見せつつある。

 打撃練習ではたとえサク越えであろうと満足いく打撃ができないと、叫び声を上げることもある。その姿はまるで求道者だ。「理想は反応で打った打球。でもシーズンに入れば打球は関係ない。とにかく安打なら何でもいいです」。鈴木誠の成長はチームの成績に直結する。この男の一挙手一投足から目が離せない。

グスマン・打の中心となる最高額助っ人




 長距離砲が相次いで離脱する中、新四番にかかる期待は大きい。新外国人・グスマンだ。球団史上初めて契約金100万ドル(約1億円、金額は推定)で入団。本塁打を量産するタイプではないが、外国人にしては珍しい選球眼が良いタイプで、シュアな打撃をする。オープン戦では計11試合に打率.242で2本塁打、2打点を記録した。グスマンは言う。

「プレシーズンは準備期間だから、成績は気にしていないよ。開幕に向けてとてもいい準備ができたと思っている。長いシーズンが始まる。エキサイティングな気持ちだね」

 昨年の本塁打王・エルドレッドはキャンプ終盤に右ヒザ内側半月板損傷で離脱。帰国して手術を受けた。同じく昨年活躍したロサリオも急性虫垂炎で調整が遅れた。四番候補だった新井も右ヒジの不調で一時戦列を離れた。開幕一軍は外国人野手ではグスマン1人だけとなった。

 緒方監督は「彼に四番を任せるつもりでいる」と宣言。対応力と、確実性の高い打撃に期待を寄せた。

 オープン戦では投手が投げるボールの軌道と、内角に広いとされるゾーンを確認しようと、徹底的に見た。追い込まれるまでバットを出さない。見逃し三振も多く11三振を喫した。しかしそれも計算の上だ。

 3月20 日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)ではカウント2ボール2ストライクから一振りで左翼ポール際に運んだ。打席で考えて配球を読み、「自分のプランどおりに進めば、うまくいく」と悠然と答えてみせた。この男がどっしり四番に座れば、敵は脅威で震え上がるだろう。

ヒース・新天地でさらに才能開花




 今季、広島を優勝に推す声がよく聞かれる。前田や大瀬良などがそろう先発陣に黒田が8年ぶりに復帰した。12球団でも屈指の陣容がそろった先発陣が、今年の広島の最大の強みだろう。充実の先発陣を擁すことで、安定した戦いが期待できる。それだけにブルペン陣の働きが、今季の広島の浮沈を左右すると言っても過言ではない。いかに勝ち試合を落とさずに白星を積み重ねていくかが、優勝へのカギとなる。

 その点でのキーマンは、今年、抑えを務めるヒースだろう。昨季途中に広島に加入したヒースは、7試合に先発し、3勝をマーク。手薄な先発ローテーションの穴を埋める働きを見せた。2年連続で出場したCSでは、阪神と戦ったファーストステージで欠場したミコライオの代わりに抑え役を任された。セーブシチュエーションでの登板はなかったものの、2戦ともに中継ぎ登板して、無失点に抑えてリリーフへの適性を示した。

 今季から指揮を執る緒方監督はストッパーにヒースを指名した。

「上位球団の抑え投手の成績を見ても、クローザーの重要性は高い。ヒースは真っすぐに力があり、ファウルでカウントを稼げる。今年の抑えはヒースでいく」

 150キロ超えの直球が最大の武器。そこにスライダーとツーシームに加え、新球フォークを操る。来日2年目の右腕は、日本球界への順応には問題ない。クイックからの投球も無難で、アメリカで中継ぎを主戦場としてきただけに真価が試される。

 昨季チームメートだったバリントン(現オリックス)やミコライオ(現楽天)から助言をもらい、初の日本での春季キャンプを過ごした。2月上旬にインフルエンザで出遅れたものの、開幕にしっかり合わせた。ただ、気がかりなのはウイニングショットがない点。オープン戦でも追い込みながら空振りを取れない場面が見られた。新たに習得したフォークの完成度をどれだけ高められるか。そしていかに真っすぐで抑えられるかが重要になってくる。

 充実した先発陣とは対照的に、中継ぎ陣の整備ができたとは言い難い。昨季チーム最多登板の中田が右肩違和感で出遅れ、開幕に間に合ったものの新助っ人・ザガースキーもまだ本調子ではない。セットアッパー候補は若い一岡と中崎、そしてベテランの永川となる。

 一岡はオープン戦終盤に登板機会を減らすなど不安を残したまま開幕を迎え、永川も結果を残せない登板もあった。中崎がヒースにつなぐセットアッパーに落ち着きそうだ。中継ぎのコマが不足しているだけに、大黒柱のヒースにかかる負担が大きい。力のある先発に完投を求める声もあるが、長いシーズンを見据えると、春先から無理をさせることはできない。ブルペン陣の安定がチームの成績につながる。

 昨年の両リーグ優勝チームを見ても、抑えの重要性は見て取れる。巨人マシソンが30セーブ、ソフトバンクはサファテが37セーブ。カープも例に漏れず、Aクラス入りした昨年までの2年間はミコライオが27、25セーブを挙げている。新クローザーのヒースがセーブ数を積み重ねることで、広島は24年ぶりの悲願に近づいていく。
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