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特集・最強「四番打者」列伝

四番、サード、長嶋――。 川上哲治監督率いるV9ジャイアンツから“四番打者の本質”を読み解く

 

球史に残る9連覇を果たした巨人には、最強の四番打者がいた。川上哲治監督率いるV9ジャイアンツから“四番打者の本質”を読み解く。
文=石田雄太[ベースボールライター]

川上哲治監督[写真中央]は自身も1658試合(歴代最多)で巨人の四番を張った。“四番の本質“を誰よりも理解していた


 四番、サード、長嶋――。

 昭和の野球好きをくすぐる美しいこのフレーズを、野球に興味のない平成生まれの若者に読んでもらったら、こうなってしまうだろう。

「よんばん、サード、ながしま」

 いやいや、野球における四番は決して「よんばん」ではない。四番を「よばん」と読むのは野球の打順だけだ。それは、今は亡き務台鶴さんの影響だと想像する。務台さんはON全盛期、後楽園球場でウグイス嬢を務めていた。抑揚を抑えた声質と球場の盛り上がりを演出するリズムは、昭和の野球好きの耳に残る。その務台さんが「よばん、サード、ながしま」とアナウンスしていたのである。そのころから日本における“四番打者”は、決して四番目(よんばんめ)のバッターではなく、“四番(よばん)バッター”という特別な存在になったのではないだろうか。

 さて、昭和40年代に野球と出合えば四番は「サード、長嶋」だが、長嶋が引退した昭和50年代に野球と出合えば、四番は「ファースト、王」だったろう。記録の神様と呼ばれた宇佐美徹也さんの編著『ON記録の世界』によれば、二人が現役で並び立っていた16年間、“三番・王、四番・長嶋”は1061試合、“三番・長嶋、四番・王”は502試合あったのだという。

 長嶋は三番として578試合に先発、打率.291、ホームラン112本だったが、四番としては1460試合に先発、.314、314本と、その数字は跳ね上がった。一方の王は1259試合あった三番のときに打率.299、ホームラン428本、四番に座った1231試合では.315、392本と、ほぼ同じ数字を残している。王は三、四番ともに1000試合以上に出場し、いずれの打順でも1000打点以上を挙げるというとんでもない記録を残しており、つまりV9時代のジャイアンツはどちらを四番に据えても遜色ない二人を抱えていたことになる。当時の川上哲治監督はずいぶん贅沢な悩みを抱えていたものだ。

 それでも敢えて、四番にはどちらがふさわしいかと考えたくなる。四番打者の条件といえば・・・

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