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特集・日本一へ!再飛翔する燕戦士
秋季キャンプレポート・真中ヤクルトの「改革」に迫る

 

今季、真中満新監督の下、下馬評を覆して14年ぶりのセ・リーグ制覇を果たしたヤクルト。しかし、日本シリーズはソフトバンクに1勝4敗と完敗を喫した。日本一を勝ち取れなかった悔しさを胸に現在、愛媛県松山で課題克服に汗を流す燕戦士たち。「つばめ改革」を、さらに推し進める真中ヤクルトの秋季キャンプに迫る。

一軍未経験投手のレベルアップがチーム力向上へ


 11月6日。日本シリーズの激闘を終えてからわずか8日後、愛媛県松山市内で真中ヤクルトは再スタートを切っていた。

 就任1年目で2年連続最下位だったチームを14年ぶりの優勝へと導いた真中満監督だが、日本一への道のりは遠かった。来季こそ頂点へ――。その戦いはすでに始まっている。



 日本シリーズでソフトバンクに1勝しかできずに敗れた。真中監督は素直な思いを口にした。

「本当に圧倒された。投手も打線も守備も、いろんな部分で劣っていた」

 選手層の差は明らかだった。まずは投手陣だ。先発投手は日本シリーズ5試合で5回を投げ切った投手がいなかった。レギュラーシーズンでは昨季、両リーグワーストの防御率4.62から、リーグ4位の同3.31に改善したとはいえ、課題は明確だ。若手中心で一軍未経験の選手も多い秋季キャンプメンバーには「この層のレベルが上がってこないと、チーム力は上がらない」とハッパを掛けた。テーマは投げるスタミナ強化と、新球習得。アピールに燃える若手投手陣は連日、投げ込みを敢行した。

日本シリーズではソフトバンクに1勝4敗と圧倒された



 若手だけではない。昨オフ、ロッテからFAで獲得しながら3勝8敗に終わった成瀬善久とは「個人面談」も行った。「30歳。みんな研究してくるし、ここで自分が変わらないと先には進めない。せっかくの秋だからいろいろなことを試してほしい」と語りかけると、左腕は「新しい球種を含めて、いろいろなことにチャレンジしたい」と答えたという。

 鉄壁を誇った救援陣もさらなるレベルアップが求められる。41セーブで最多セーブのタイトルを獲得したバーネットは、ポスティングシステムでメジャー・リーグ移籍を目指して退団が濃厚。今季はロマン、オンドルセク、バーネットと3人の外国人投手を起用する真中流の「勝利の方程式」がズバリとはまったが、再考が強いられる。中でも、指揮官が「ウチは左(投手)が少ないし、使えるようにならないかな」と話したのが竹下真吾岩橋慶侍中元勇作らの存在。久古健太郎中澤雅人に頼りっぱなしだった左投手の出現が待たれる。

最多セーブのバーネットはポスティングで退団が濃厚



白熱する一番打者のレギュラー争い


 野手陣にも求めることは「個々のレベルアップ」だ。秋季キャンプでは午後は個人練習に充てられ、大引啓次上田剛史は打撃練習に時間を割くなど自身の課題と向き合う。

大引らは打撃練習に力を入れている



 二番に首位打者と最多安打のタイトルを獲得した川端慎吾を据えた打線は機能し、本塁打王の山田哲人、打点王の畠山和洋と続く最強トリオを生み出した。一方で、山田が中軸に座ってからは一番打者を固定することができなかった。後半戦開幕からリードオフマンを任されながら定着できなかった比屋根渉は「スイングが遅いので、とにかく振ること」と素振りに励む。

 ポストシーズンでは一番に座り勝負強さを見せた上田は、シーズンは故障に苦しんだだけに「ケガをしない体づくりと、簡単に三振しない打撃をより自分のものにすること」と感覚維持に務める。真中監督が「誰もレギュラーを獲り切れなかった。自分が獲る気持ちで取り組んでほしい」と話した「強化ポイント」の外野。オリックスを自由契約となった坂口智隆を獲得するなど、レギュラー争いは白熱しそうだ。

力を入れる、不振に陥った雄平の再生


 もう1人、指揮官が気に掛けるのが雄平の存在だ。昨季141試合に出場し、打率.316、23本塁打、90打点で初のベストナイン獲得と大ブレークを果たしたが、今季は同.270、8本塁打、60打点にとどまった。チームのさらなる上昇には、この男の爆発は欠かせない。

真中監督は今季不振の雄平の再生にも力を入れる



 秋季キャンプ初日には「自分の精神状態を把握したらもっとうまく試合に入っていける。難しいが、冷静になったときは絶対にいい結果が出る」とメンタル面のアドバイスを送った。結果にとらわれない秋だけに、さらに一皮むけることを望む。

「つばめ改革」をスローガンに掲げた就任1年目。選手の意識は着実に進化を遂げた。1点を取られても切り替えて最少失点に抑える気持ちは浸透。勝てる試合を落としていた昨季と比べ、粘り強い戦いが目立った。走塁面でも、2月の春季キャンプで「走塁」のメニューを組み込んだ成果は実り、一つ先の塁を狙う意識が見られた。それでもまだ、改革は道半ばだ。今季、大混戦だったセ・リーグを、来季は王者として迎える。各球団の挑戦をはね返す力をつけなくてはならない。

「(日本一へ)やることはたくさんあります」

 そう言って表情を引き締める指揮官に導かれる真中ヤクルトの2年目は、どんな顔を見せてくれるのだろうか。

徐々に進歩を見せるドライチ左腕・竹下真吾投手





 真中満監督が特に来季の活躍を期待するのは、今季のルーキーたちだ。一軍を経験したのは投手の風張蓮寺田哲也の2人のみでともに1試合ずつの登板と、ドラフトの成果はなかったと言っていい。だからこそ、特に1位指名の竹下真吾と2位指名の風張には「頑張ってもらわないと困る」とハッパをかけた。ルーキー全員を秋季キャンプに呼んだのも、「一軍のコーチや一軍で活躍する選手に話を聞いていろいろ学んでほしい」との考えからだ。

 最速150キロの直球と強気の投球で中継ぎ、抑えとして期待されながらケガの影響もあり、一軍登板ゼロに終わった竹下は「今年はいい球を投げようとして力みにつながり、コントロールが定まらなくなってしまった。今は一からフォームを見直しています」と話す。

 直接指導も行っている高津臣吾投手コーチは「このキャンプでは、直球を強く投げられるような体の使い方、感覚を磨いている」と話し、さらに「ドライチで入ってきたプレッシャーもあったんだと思う」と今季の竹下について評した。「良いときと悪いときの差が激しいけど、初日に比べればやろうとしていることはできてきているし、表情も明るくなってきた」と高津コーチが言えば竹下も「とても充実しています」。来季の飛躍へ向け研鑚の日々を送っている。
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