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特集・ストーブリーグ追跡 岐路に立つ男たち
元阪神・藪恵壹が語るマエケンのMLB挑戦 成功の4条件

 

もし、前田健太のメジャー行きが実現した場合、実際にどれくらいのパフォーマンスを見せるのか。元メジャー・リーガーの藪氏が答えてくれた。



 前田健太投手は、マリナーズで活躍しFAになった岩隈久志投手のようにゴロで打たせて取る投手としてアメリカに渡ったほうが活躍できると思います。その前田投手がメジャーで活躍するためには4つの条件が必要になってきます。

 1つ目は「硬いマウンドとMLB球への対応」です。いまだにこの課題が指摘されますが、非常に重要なことです。メジャーのマウンドはコンクリートの上で投げている感覚。ですから、そこに耐えられる下半身を渡米前にしっかり作ることが重要です。そこを疎かにすると徐々にヒジに負担がかかってきます。それとともに、MLB球にどれだけ早くなじむかです。実際に重く大きい。そのため肩への負担が大きいのです。私はなじむまでに4カ月かかりました。前田投手はWBC公認球について「操りやすかった」と言っており、そのボールに近いMLB球への早い対応に期待したいです。

 2つ目は、「勝負球に何を選択するか?」です。メジャーの主流変化球は今でもツーシームシンカー。理由は中4日で登板するので、1球でアウトを取れる速くて鋭く曲がるボールが必要になってくるからです。現在、前田選手はツーシームも投げていますが、WBCでは「ボールが面白いように変化した」と言っていました。MLB球が日本の球以上に変化するのは確かです。このボールでツーシームを完全にマスターすると、もともと素晴らしいスライダーを持っているだけに、2つの組み合わせなどで、内外角で揺さぶれる勝負球になると思います。

 3つ目は、入団するチームの「キャンプ地がフロリダか、アリゾナか?」です。入団したら開幕前にオープン戦などで実力を見せなければいけません。特にアリゾナだと、乾燥していて変化球が曲がらず、打球はすごく飛びます。ここで打たれても、気にしないことが重要。打たれて焦りが出てしまうと、まだ慣れていないメジャーのマウンドとボールによって肩や体への負担をかけることになり、悪循環になりますから、本来の実力を見せられなくなります。本番はあくまでもシーズンです。



 4つ目は、「中4日登板にいち早く慣れることができるか?」。最初は体力的にきついと思います。しかし、このルーティンに慣れてしまうと、そこまで体はきつくないんです。なぜか?1年間同じリズムでマウンドに上がることができるからです。前田投手は今年も、中4日を経験していますよね。これは大きいと思います。経験があるとないとでは感覚が違います。「経験」という意味では、メジャーで素晴らしい成績を残した黒田博樹投手が、チームメートにいることは大きいです。黒田投手から私がここまで述べたようなメジャーでの「経験」を聞いているのではと思います。メジャーのキャンプに行ったときに、予備知識があるだけでまったく違うモノになります。

 これらの4つを前田投手が早い段階で自分のモノにできたら……3、4番手の先発ローテを1年間投げ切って15勝はできると思います。それだけのポテンシャルを持った投手です。そのためにも岩隈投手のような低めを突く「ゴロピッチャー」に徹するべきでしょう。繰り返しになりますが、キャンプでMLB球に慣れないからと焦って投げ過ぎないことです。そこは注意してほしいですね。

解説者プロフィール
やぶ・けいいち●1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。1年目に9勝を挙げて新人王に。05年にアスレチックス移籍後は06年、08年とメジャーでプレーした。
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