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ホームベース上の攻防
クロスプレーのルール変更 その現状に迫る

 

今年から捕手の本塁でのブロックが禁止されることになった。本塁での危険なクロスプレーの排除を徹底することが目的で、走者の本塁突入時のタックルなど事故につながるプレーを徹底排除。それに伴い、走者の本塁への進路妨害を認めないというのが、今回のルール変更につながった。果たして、これによって野球は変わるのか?今特集で徹底解剖。まずは現状を見ていく。

主なルール改正
・捕手は走者に対して本塁を空けることが義務
・捕手はアウトにするためにタッチのみで対応
※違反した場合は走塁妨害
・走者は危険なタックル禁止
※違反した場合は守備妨害

昨年5月13日のヤクルト戦[神宮]で阪神マートンが危険な本塁突入を行い、物議をかもしたが、今年からそういったプレーは禁止される/写真=川口洋邦



 今回のルール変更により、捕手は本塁に駆け込んでくる走者に対し、接触を避けるために塁上を空けることが義務となる。アウトにするには、タッチのみで対応。審判員が「走路妨害」と判断した場合は走者が生還したとみなされ、得点が認められる。「危険な衝突」ならば選手に警告を与え、目に余るプレーに対しては退場も宣告できるようになった。

 微妙なプレーのジャッジに万全を期すため、ビデオ判定の導入も決定。昨年まではポール際や外野フェンス付近の本塁打性の打球についてのみビデオ判定が採用されていたが、本塁クロスプレーでも拡大して適用。これまで通り両軍ベンチの要求により行われるのではなく、あくまでも審判団の意向で適用可能となる。

 12球団は、春季キャンプでそれぞれ新しく導入するルールへの対応に追われた。巨人では阿部慎之助を中心とした捕手陣が、ノック時に三塁から本塁へ走り込む走者へのタッチのタイミングを繰り返し練習。その他のチームでもコーチ陣や選手が本塁上での捕手の立ち位置を審判に確認するなど、各チームのキャンプで昨年まではなかった光景が見られた。

 実戦で格好のケースが飛び出したのが阪神だ。2月14日の紅白戦、一死二塁から中谷将大の左前打で走者の荒木郁也が本塁へ。左翼手ネルソン・ペレスの絶妙な送球を捕手の小宮山慎二が捕球し、タッチアウトかと思われた。しかし、審判団が集まり協議をした結果、補殺ではなく「ホームイン」のコール。「捕手が本塁への走路をまたいで捕球していた」と判断され、新ルールの適用となった。

 阪神のケースから見れば公式戦でも同様の局面が多数出てくるだろう。本塁に少し足がかかっただけでも、走塁妨害とされる可能性が高い。走者の突入を防ごうと本塁手前の進路に体ごともっていった場合は、新ルール適用もやむを得ない。だが、捕手がそれた送球を捕球し、本塁上でタッチしようとして衝突するなど、不可抗力ともいえるプレーの場合はどうするのか。判定の基準は難しい。

 NPBが年明けに12球団を対象に行った新ルールに関する講習会に出席した阪神の高代延博ヘッドコーチは、「メジャーの試合のホームベース付近のクロスプレーのビデオを見たが、ほとんどがセーフ。日本でも走者への『ゴー』のサインが増えるはず。選手もそうだが、(本塁への走塁指示をする)三塁コーチの認識も変えてもらわないとダメ」としている。今回のルールの変更が、野球の概念を変えることになりそうだ。

 本塁付近での捕手のブロック禁止は、MLBが先駆けて2014年から実践。捕手のブロック禁止は、国際的な流れとなっている。13年から日本高野連でも取り決めたように、プロだけではなくアマを含めた球界の危険なプレーへの徹底したチェック体制を敷く動きとなっている。五輪復帰やグローバル化を目指す野球にとっては、これも仕方のないことだろう。昨秋に初開催された「プレミア12」では、いち早く本塁上のクロスプレーを取り締まる“コリジョン(衝突)プレー”が採用。五輪を含めた今後の国際大会でも、これらの取り決めを踏襲する見込みだ。

 この流れは欧米人などに比べると体格的に劣るとされる日本人にとって悪いことではない。侍ジャパンの守備走塁コーチを務めた仁志敏久氏は「外国人がブロックできなくなるのは大きい。日本はスライディングの技術も高いからメリットになる」と解説。機動力をお家芸とする「侍」のアドバンテージは増える。

 今後必要となってくるのは、捕手が本塁で走者をアウトにする技術だ。走路を空けなければならないなどの規制を背負う中、最も効果的な新たなポジショニングを模索し、磨かなければならない。本塁への走塁は“点取りゲーム”である野球の勝負の分かれ目となるだけに、捕手の負担はこれまで以上に大きくなってくる。

 何よりも急がなければならないのが、新ルールの確固たる統一見解を出すことだ。3月25日の開幕まであと少し。審判サイドをはじめさまざまなケースを洗い出し、現場やファンが納得できる適用にこぎつけてほしい。本番からはシーズンの興味をそぐ混乱が起きないことを祈りたい。
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