優勝が決まった瞬間、マウンドの中崎を中心に歓喜の輪ができ、そのままみんなが重なり合うように一つの塊になった。これもまた、今季の広島を象徴するかのようだ
マジック1で迎えた9月9日、広島の選手は都内の宿舎の特設会場に集い、スクリーンに映し出された
ヤクルト対
巨人を見守っていた。この日、チームは移動日。もし巨人が敗れれば、その瞬間に25年ぶりのリーグ優勝が決まる。試合は巨人が4点リードで最終回へ。一死から
バレンティンがソロ本塁打を放ち点差は3点に。だが、選手たちは冷静だった。
結局、そのまま巨人が勝利。ゲームセットの瞬間、最前列で試合を見守っていた
緒方孝市監督は背後を振り返り、「明日や。明日。明日いくぞ」とゲキ。選手らは「よっしゃー」とそれに返した。
「優勝は25年ぶりだし、しかも相手が巨人でわくわくする」
そう口にしたのは
鈴木誠也。高卒4年目にして大ブレークを果たしたニュースターの視線は、翌日の東京ドームでの巨人戦に向けられていた。
16年ぶりのAクラス入りを果たした2013年、広島は東京ドームの巨人戦(9月22日)に敗れ、目前でのリーグ優勝達成と胴上げを見せ付けられた。
誰もが雪辱を誓ったはずだ。しかし14年はシーズン最終戦に敗れて3位に終わり、マツダ広島での初のCS出場を逃した。15年も同じく最終戦を落とし、3年ぶりBクラスとなる4位に終わった。
直近3年間で嫌というほど味わってきた悔しさ。あと1勝の重みをかみ締めた選手たちは、それぞれが万全を期し、16年シーズンに臨んだ。
野村祐輔は自主トレから下半身を徹底的に鍛え、
丸佳浩は新しい打撃フォームを一から作り上げた。
菊池涼介は両ヒザの故障から回復し、鈴木は以前にも増してバットを振り込んだ。
そして何より、
黒田博樹、
新井貴浩という投打のベテランがチームを鼓舞した。日米通算200勝、通算2000安打というそれぞれの大記録に向かい、チームは一丸。ドラマのような劇的な逆転勝利を何度もつかんできた。
9月10日の巨人戦[東京ドーム]でついに待ち焦がれたその瞬間は訪れた。7対4の9回裏二死、巨人・
亀井善行の打球はショートへ。
田中広輔からの送球が一塁の新井のミットに収まった瞬間、ドームは割れんばかりの歓声に包まれた。初回に2点を先制されながらも、相手のミスにつけ込む好走塁や、ここぞの場面での本塁打で今季42度目の逆転勝利。「ずっと戦ってきた形」と指揮官が胸を張る快勝で、3年前の借りを返した。
まずは緒方監督の胴上げ。V7ということで、7回宙を舞った
新井と長い抱擁を交わした黒田が涙を拭う。自身の勝利にも「チームが勝てばそれでいい」と言い続けてきた男が、ようやく心の底から喜ぶことができた瞬間だった。
「本当に選手が頑張ってくれた。悔しい思いから、厳しい練習を乗り越えて頑張ってきてくれた」
緒方監督は優勝会見で、何よりも選手を労った。そしてもちろんファンへの感謝も忘れなかった。
「広島の皆さん、そして全国の皆さん、本当に長い間お待たせしました。おめでとうございます!」
広島から全国へと広がった夢はこの日、最高の結末を迎えた。(本誌・吉見淳司)