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新境地に挑む男

日本ハム・金子弌大 オープナー起用がもたらす新たなムーブメント 「先発にこだわりはない。オープナーの先駆けの存在になれたら――」

 

「新境地に挑む男たち」をクローズアップ。まずはオリックスから日本ハムに新加入した金子弌大にスポットを当てる。3年ぶりの覇権奪回に向けて栗山英樹監督は昨シーズン、メジャーで話題になった「オープナー」の導入も示唆しており、その戦術のキーマンに金子の名を挙げた。本来はリリーフ投手である投手が、先発として序盤の短いイニングを投げる起用法──。もし実現すれば、日本球界に新たなムーブメントを巻き起こすかもしれない。
文=井上陽介(スポーツライター) 写真=山口高明、高原由佳


既成概念にとらわれない栗山マジックの新たな一手


 真新しいユニフォームを着た金子弌大が初めてブルペンに入ったアリゾナキャンプ2日目。ただ1人、試合用の正装スタイルで投球練習に臨んだ。ただでさえ目立つ、伸び上がるストレートも、より輝いて見えた。「まだホームとビジターのユニフォームを着ていないのに、練習用を着るのもなぁと思って」。自身の節目を見た目からプロデュースし、強烈な印象を周囲に与えた。

 このオフの言動も大きな注目を集めていた。オリックスから大幅減俸の提示を受け、自由契約となって他球団移籍を決断した。「希望ではないですけど、先発にこだわりはないっていうことを分かっていただけたら」と移籍先でのポジションについて、新天地が決まる前から発言していた。念頭にあったのは「オープナー」だ。昨シーズンにメジャーで話題となった投手起用法。本来は救援である投手がまずは先発し、初回の上位打線を抑えて試合の流れを引き寄せる作戦だ。「先発にこだわりはありませんし、オープナーの先駆けの存在になれたら」。通算120勝右腕は本気だ。

 栗山英樹監督も、金子のオープナー起用の可能性を示唆している。昨年12月には「例えばだけど、開幕3連戦で3戦連続で金子が先発とかね」と温め始めたばかりの秘策の一端を明かしている。投打二刀流の大谷翔平を「一番・投手」で起用したように、現代野球の常識にとらわれない発想で新機軸をどんどん打ち出すのが栗山スタイルだ。批判されても信じた道を突き進める強さもある。指揮官が熱望して獲得した新戦力の思いとも一致する構想は、今シーズン中にも実現する可能性は高い。

 それではオープナーを導入する一番のメリットは何なのか。栗山監督が話すように、例えば1カード3連戦すべてで金子を先発させると仮定すると予告先発は次の日も金子となる。日本ハムは2番手以降の本来の先発投手を、自由自在に試合直前まで選択の幅を広げることが可能になる。それこそ相手のラインアップを見てから決めることも可能。1〜2回で降板と思わせておいて、普通の先発投手として投げることもあるだろう。長いシーズンを見据えればローテーションが組まれるため、奇策となるような投手起用は少ないだろう。ただ、ここ一番の大勝負を仕掛ける際には、オープナーが有効策となる可能性は大いに秘められている。

 相手チームにとっては、2番手以降に投げるであろう本来の先発投手を事前にしっかりリサーチしなくてはならなくなる。予告先発が意味を成さなくなるからだ。オープナー・金子、2番手が左腕の場合はさらに厄介だ。打線が固定されているならば関係ないが、左右の投手によって打線を組み替えているチームは1〜2回投げるオープナーに合わせるのか、2番手以降に合わせるのかという大きな選択を迫られることにもなる。まるで予告先発がなかった時代のように、情報戦を後手に回った段階で苦しい試合展開を強いられるケースも増えるだろう。この起用法がもし成功すれば他球団も導入を検討し、日本プロ野球に新たなムーブメントを起こすかもしれない。

 金子本人はキャンプでもオープナーに限らず、ブルペンの一員になってもいいように準備している。このオフは少ない球数で肩を温められるようなトレーニングを積んできた。先発なのか、中継ぎなのか、抑えなのか、それともオープナーなのか。変幻自在に状況に応じて違う役割を全うするだけの経験値もある。新天地でさらに一旗揚げるために、モチベーションは高く、道を切り開く先駆者となる意欲すら感じる。

アリゾナキャンプでも精力的に調整を続けている金子。豊富な経験値でチームに新風を吹き込む


 チームが勝つための最善策は何なのか。過去の数々の成功例、失敗例が今のプロ野球界で生きる者すべての教科書だ。その中でオープナーも試合に勝つことができる作戦の1つであることは間違いない。野球をとことん研究し尽くそうとしている栗山監督、そして金子が体現してくれるかもしれないオープナー起用がもたらす新たな形とは──。その答えはシーズンで明らかになる。

【Question】MLBで広まったオープナーとは?


 2018年にMLBタンパベイ・レイズが初めて採用した投手の起用法。一般的に点が入りやすいと言われている初回を無失点でしのぐ確率を上げるため、リリーフ投手を先発させて1、2回の短いイニングだけ投げさせた後、本来の先発投手をロングリリーフとして投げさせるという新たな戦術。先発投手はペース配分を考えて最初から全力投球はしにくく、なおかつ近代野球は一、二番に強打者を置くチームが増えているという背景も関係している。

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