今季はともにリーグ2位の成績に終わった阪神とオリックス。阪神は日本シリーズで、オリックスはCSファーストステージで敗退したが、その熱き戦いで関西を盛り上げた。来季、頂点に立つために両チームの選手は高知で汗を流しているが、ここでは阪神のキャンプの模様をリポートする。 写真=佐藤真一 指揮官が説いた秋季キャンプの重要性
澄みきった青空が広がる高知・安芸市営球場に、
和田豊監督の力強い声が響いた。一軍首脳陣が秋季キャンプに合流した11月13日。ナイン、スタッフを集めた練習前の円陣でいきなりゲキを飛ばした。
「勇気、根気、本気とか『気』の付く言葉は100個ぐらいあるらしいわ。その根本にあるのはやっぱり元気だと思う。やっぱり俺も元気のある選手を(試合で)使いたい。ここにいる選手は来季の一軍戦力となり得る選手。1週間しかないけど、しっかりやっていこう」。
▲「気」という言葉をキーワードにして選手にゲキを飛ばした和田監督
野球界にも実りの秋、収穫の秋という言葉が存在する――。これが和田監督の持論だ。
日本シリーズ進出が決まり、全日程終了が10月下旬までずれ込むことが確定したときも、指揮官は秋季キャンプの重要性を説いていた。
「どれだけ期間が短くなっても、秋のキャンプは絶対にやるよ。春になると、どうしても実戦が多く入ってくる。ポジションを争うライバル、数字、相手投手など、外的な要素が入った競争になる。でも、秋は自分のことに没頭できる。選手が一番力をつけたり、うまくなったりするのが秋季キャンプなんだよ」
和田監督の考えは、いきなり初日のメニューに表れていた。
外野手としてゴールデングラブ賞に輝きながら、打率.264、日本シリーズでも16打数1安打に終わった
大和が約1時間半の居残り特打に励んだ。
「上半身が前(投手寄り)に突っ込むクセがあるので、そこを意識しています。今のところはいい感じです」
打撃改造に取り組む大和は充実の表情を浮かべた。シートノックでも遊撃に入り、軽快な動きを見せた。海外FA権を行使し、メジャー・リーグ挑戦を視野に入れる
鳥谷敬の代役として、自覚が生まれている。
▲遊撃の守備練習を行う大和。しっかりと自覚が生まれてきている
打撃が課題の大和に対し、
上本博紀は守備力の向上に取り組んでいる。初日の全体練習後はマウンドに立ち、いきなり投球練習を始めた。二塁のレギュラーとして自己最多の131試合に出場したが、失策はリーグワーストの17を数えた。
「上本は特にスローイングが課題になる。捕る前から投げることばかり考えているから」と高代内野守備走塁コーチも選手会長のさらなる成長に期待を寄せている。
パンチ力に賛辞
大卒2年目の右の大砲
ブルペンに目を移せば、
広島、日本代表などで手腕を振るった
大野豊氏が臨時投手コーチとして、投手陣に熱視線を注いでいた。
昨年のドラフト1位・
岩貞祐太、同6位・
岩崎優らがローテに定着すれば、盤石の投手王国が完成する。来季5年目を迎える
榎田大樹は中継ぎとして再出発を切る。サウスポーが豊富なチーム事情だけに、大野氏の実績、経験から学ぶことは多い。
「自分のやってきたことを少しでも選手に伝えられればと。思ったよりいい選手が多いし、あとはいろんな意味において『気』が必要ですね」
現役時代に148勝、138Sを挙げた快速左腕も投手陣のレベルアップに一役買っている。
もちろんレギュラークラスの強化だけが、キャンプの目的ではない。指揮官の目に留まったのは、来季で大卒2年目の
陽川尚将だった。
キャンプ初日には推定140メートル弾を含む12発を放り込んだ。右打席だが、背番号は55。1年目は二軍でチーム2位タイの6本塁打を放ったゴジラが、本領を発揮し始めた。
「打球の質であり、飛距離は一軍クラスというか、一軍でもなかなか見ないような打球を飛ばしていた」
和田監督もパンチ力のある打撃には素直に賛辞を送った。
新井貴浩が自由契約となり、広島移籍が決定。右の和製大砲は、貴重な存在だ。
今季は9年ぶりの日本シリーズ出場を果たすなど、チームの成長を実感する1年となった。ただ、和田監督はペナント争いで7ゲーム差を離された
巨人との差を痛感している。
「ベンチも含めた層の厚さという点で、まだまだ強化していかないといけないと感じた。レギュラーと控えの差を埋めていかないと」
宿命のライバルには
鈴木尚広、
矢野謙次の両ベテランが控え、未完の大器の
大田泰示もレギュラーを狙える位置まではい上がってきた。投手陣も
宮国椋丞、
今村信貴、
笠原将生ら20代前半の若武者が虎視眈々と一軍定着を狙っている。
「もう日本シリーズに負けた時点で気持ちは切り替えた。もちろん悔しさはあるけど、振り替えるんじゃなくて、前を向いていかないといけない」
指揮官の思いは勝負の2015年に向かっている。球団創設80周年の目標は、10年ぶりのリーグ制覇、30年ぶりの日本一。安芸で芽生えつつある新たな息吹が、4年目の和田政権を支えていく。