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新ユニフォームの下、決意にじむ元F戦士

 

先週、今年まで日本ハムのユニフォームを着て北の大地を沸かせた2人の内野手がFA移籍での入団会見を行った。小谷野栄一大引啓次。それぞれプロフェッショナルとして、自らの野球人生を熟考しての新天地に飛び込む決断。そこには甘い気持ちなど微塵もない。2人が心にともす固い決意とは――。

小谷野栄一 〜あえて選んだ険しい道〜


文=柄谷雅紀(共同通信)、写真=佐藤真一

▲12年目で新たな活躍の場を求めてオリックスに移籍した小谷野。フォア・ザ・チームの精神でチームを優勝に導く



 固い決意を持って新天地に乗り込んだ。

「何でもやりますよ、本当に。代打でも、バントでも。外野もやっていたことがありますし」

 海外FA権を行使して日本ハムからオリックスに移籍した小谷野栄一は12月4日、入団会見ですがすがしい笑顔でこう話した。

 プロ入り12年目での決断だった。2010年の打点王。だが、今季は84試合の出場にとどまった。故障や若手の台頭……。「(来年)35歳になって、一選手としてチャレンジできるところがあるなら、話を聞いてみたい」。それがFA宣言した理由だった。「かなり勇気がいることでした」と率直に打ち明ける。愛娘が生まれたばかりで、守らなければならない家族がいる。34歳という年齢は、決して若くはない。

「必要としてくれるところがなかったらどうしようとも思いました。それでも、ラストチャンスだと思って、挑戦しようと決めたんです」

 選んだのは、険しい道だった。オリックスには三塁にヘルマン、一塁には今季ゴールデングラブ賞を獲得したT-岡田がいる。さらに中島裕之も加入。ゴールデングラブ賞を3度獲得した名手と言えど、レギュラーが確約されているわけではない。森脇浩司監督も「FAで来た選手に失礼かもしれないけど、ウチのチームに欠かせないものは競争。大いに競争してもらいたい」とあくまで競わせる方針だ。

 それを承知で一歩を踏み出した。「競争させてもらえるところを選んだ。横一線で見てくれるのがありがたい」。それは、競争することで己がもっと高まると考えているからだ。「高いレベルの選手が多い。そういうメンバーと高め合って、優勝することが目標ですから」と決意をにじませる。

 東京都出身の小谷野にとって、オリックスが本拠地とする関西は縁もゆかりもない。関西のファンからのヤジを怖いと感じたこともある。だが、今度はそれも味方だ。「大きな力になる。そういう場でプレーしたいとも思った」と笑う。家族とともに、関西に居を構える予定だ。

 若手の指導役としても期待される。「(オリックスは)チームがようやく向かうべき方向に向かいだしたところ。その中で選手はいろんな困難に向き合いながら打破しようとしている。いろんな困難を克服している小谷野の存在は大きい」と森脇監督。オリックスで優勝の味を知る選手が少ないだけに、日本ハム時代に優勝を経験しているのも心強い。

 タイトルを獲得したプライドも、レギュラーへの執着心も、北の大地に捨ててきた。

「出られなかったら悔しいけど、一つのプレーでも出られれば、どこでもいい。打順も何番でもいい」

 頭にあるのは「フォア・ザ・チーム」、それだけだ。

「監督が使ってくれるところで、その場その場で全力を出す。順応できることが僕のスタイルですから」

 今季は、わずか2厘差で届かなかった頂点。「勝ち星ではソフトバンクよりオリックスが上回っている。自分がプラスアルファで貢献できれば」。19シーズンぶりの悲願へ、チームを導く強い覚悟がある。「優勝するために来た。全力でプレーしたい」。そう語った小谷野の目には、力があった。

大引啓次 〜こだわったセンターライン〜


写真=中島奈津子

▲「チームの優勝のために精いっぱい頑張ります」と語った大引。神宮球場で、もう一度優勝してみせる



 険しい表情でのFA表明会見から一転、終始笑顔が絶えなかった。「うれしさを押し殺すのが難しいというか、思わず笑みがこぼれてしまいます」と記者に囲まれ晴れやかな表情を見せた。

 日本ハムからヤクルトにFA移籍した大引啓次が12月5日、球団事務所で入団会見を行った。

「スワローズの一員になれてうれしい。目先にとらわれず、5年後、10年後を見据えた姿勢に感銘を受けました。『優勝したいんだ』と強い気持ちを一人ひとりが持てば、必ず手の届くチーム。その一役になりたい」

 2007年大学生・社会人ドラフト3巡目で法大からオリックスに入団。1年目から126試合に出場し、正遊撃手としてチームの中心選手に。そして13年に選手会長に就任し、春季キャンプへ挑む準備をしていた1月25日、突然、日本ハムへのトレードが告げられた。この年最大のトレードと言われた大引、木佐貫洋赤田将吾糸井嘉男八木智哉との交換トレード。堅実な守備と、リーダーシップを高く評価され、新天地へと活躍の場を移すことになった。移籍2年目の今季はキャプテンとしてチームをクライマックスシリーズへと導く立役者に。しかし「フロントの方には引き留めていただいて感謝しています。でも野球をやるのはグラウンドなので。来年も一緒に野球をやろうと言っていただけなかったのが残念で、こういう結論になってしまった」とFA権を行使することを決断した。そして真っ先に手を挙げたのがヤクルトだった。

 本拠地の神宮球場は「大学時代にお世話になり、夢だった球場」と話す。大学時代、法大史上最高のキャプテンと言われるほど、そのキャプテンシーはもちろん、1年春からレギュラーとなりベストナイン5度、首位打者2度、最多打点と最多盗塁を1度ずつ獲得するなど、プレーでもチームをけん引した。そして3年秋に優勝、4年春には主将として2季連続優勝も果たしている。「大学時代に優勝を経験したので、今度はプロの舞台の神宮で監督を胴上げしたい」とヤクルトへの入団を決めた理由の1つに、神宮球場でプレーできることも挙げている。

 真中満監督はキャプテンを決めない方針を示しているが、オリックス、日本ハムでキャプテンを務めた大引には、たとえCマークをつけていなくてもその役割が求められる。「やるべきことをやって、その上で周りが自分の姿に気付いて、いい方向に行けば」と話す。球団からは背番号1を提示されたが、「個人的に恐れ多いですし、歴代の素晴らしい先輩方の背番号なので、若い選手が引き継いで、伝統を築いていってもらいたい」と固辞。かつてセンターを守った飯田哲也、正捕手として昨年までプレーした相川亮二が背負った「2」を選び「強いチームはセンターラインがしっかりしている。しっかりとグラウンドに立ってチームを引っ張っていきたい」とショートとして全試合に出場する強い決意を語った。

 30歳の節目で迎えた大きな決断。リーグが変わることに対しても、不安よりも楽しみの方が多いと話し、「成績で皆さんに認めてもらえるように頑張りたい」と輝く未来を見据えた。
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