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春季キャンプレポート

最下位から逆襲を狙う新生“燕&犬鷲”に密着

 

昨年、最下位に沈んだヤクルト楽天が春季キャンプで激しいトレーニングに励んでいる。新たな指揮官を迎え入れ、「改革」を断行。既存戦力の確認、新戦力の発掘、底上げに向け、チーム力の強化を図っている。ここでは、巻き返しを誓う2球団の春季キャンプをレポートする。
写真=BBM


【東京ヤクルトスワローズ】

自主性に任せる大人の野球へ


 2年連続最下位からの巻き返しを託されたのは、現在12球団では中日・谷繁兼任監督と並んで最年少44歳の真中満監督だった。現役時代は4度の日本一に貢献。2013年には、二軍監督として6年ぶりイースタン・リーグ優勝に導き、一軍チーフ打撃コーチに就任した昨季は、規定打席に到達した3割打者が5人、チーム打率はリーグトップ(.279)という強打線を組み上げた。球団の黄金期だった現役時代を振り返り「強いチームの選手は、自分で考えて動くもの」と話す。

新指揮官は「プロなんだから」と自己責任を促している



 その新監督が、今キャンプのテーマにしているのは選手の自主性。

「チームとしての作戦があるとはいっても、試合中は何が起こるか分からない。その場その場で1人で判断して行動しないといけないのだから、練習のときから自分で考えて行動できるようになってほしい」

 昨年までは、夕食後にホテルのプールサイドで若手は素振りの夜間練習があったが、今季はそれを撤廃した。「夜間練習があると、それを逆算して、球場での自主練習を切り上げないといけない。それでは本末転倒というもの。自分が納得できるだけの練習を、自分で決めてやればいい」という方針のもと、球場から引き上げる時間が、昨年より1時間以上遅くなっている選手もいる。

夜間練習の撤廃、それぞれに任せている自主練習も新監督の方針



 この考え方は、現役時代の経験から来ているのだという。「誰にも見られず練習したいときだってある。自分で工夫している最中のぶざまな打撃フォームを見て、あれこれ言われたくないとか。コーチが練習を見守るのも責任だが、付きっきりになるのは過保護」と、真中監督は言う。

 かといって、長時間練習をすればいいというわけではない。「例えばサラリーマンが……」と例に挙げたのは、就業時間の午後5時までに仕事を終えている社員が、部長が帰らないからといって6時過ぎまで残業している――という仕事の仕方は、必要ないということ。会社員ならいろいろなしがらみで、そうせざるを得ないこともあるだろうが、プロ野球選手にそういう気遣いはいらないという。「今日は体に疲れが残っているので休養に充てた方がいいと思うなら、監督より先に宿舎に帰ってもいい。みんなプロなんだから、そこは自己責任」と話した。

 自主性を重視して、練習を強制しなければ、楽に流れる選手も出てくるかもしれない。だが、それで脱落していくような選手はいらない、と突き放したような厳しさがそこにはある。真中監督は「プロなんだから」という言葉をよく使う。プロは結果がすべて。結果が出なければ去らなければいけない世界で、結果を出すための準備をする責任は自分にあるということだろう。監督が決めるメニューを黙々とこなしてきた高校野球とは違う、大人のチームを目指している。

新たな風を吹き込む真中監督の懐刀


 真中監督以上に、チームに新風を吹き込んでいるのが三木肇作戦コーチ兼内野守備走塁コーチだ。ヤクルト、日本ハムでの現役を終えた後、日本ハムで5年間コーチを務め、昨年からヤクルトに戻ってきた。昨年は1年間二軍コーチで、今季一軍に昇格。37歳とコーチ陣で最も若いが、豊富な野球知識や理論を持つ真中監督の懐刀だ。監督は「三木はさまざまなアイデアを持っているので、それを実現してみたい」と全幅の信頼を寄せており、練習メニューやチームの方針に、三木コーチの考えが反映されている。

 キャンプ中の全体練習のメニュー自体は、例年と大きな違いはないが、細かいところで選手それぞれに意識改革を求めている。例えば、キャッチボールを始める前、シートノックの前、フリー打撃の前などに選手を集合させ、三木コーチが話をしてから次のメニューに取り掛かるのは、今までにないスタイルだ。そこでの話は決して難しいものではなく、「キャッチボールをしっかりしよう」「集中してやろう」などの基本的なことだという。それを毎日、毎回、同じように話をするのは意識付けだ。どういう練習なのか、どこが大事なのかを繰り返して話すことで、目的意識を持って練習に取り組み、練習のための練習にならないようにしているようだ。野手のキャッチボールでも「チームメートそれぞれの球筋を知っておくことも大事」と、今年から毎日パートナーを変えるようになった。

練習の間に三木コーチがミーティング。目的意識を持った練習を説く



 昨秋の松山キャンプで真中体制の新しい方針を打ち出し、例年は春季キャンプから始めるサインプレーや投内連係などのチームプレーを、秋季キャンプで始めていた。選手会長の森岡良介は「今までになく、各練習に選手たちが集中できていると思う。秋にチームプレーをやっていた分、若い選手たちもぎくしゃくせずにすごくよく動けている」と言い、マナカイズムは徐々に浸透し始めている。

【東北楽天ゴールデンイーグルス】

足を絡めた機動力野球への変貌


「一致団結」を旗印に最下位からの浮上を目指す楽天。1月31日。キャンプ地・久米島に降り立った大久保博元監督は「鍛えるというより、仕上げの場。(自主トレで)これまでどうやってきたのかというのを見せてほしい」とメッセージを送った。到着直後のミーティングでは主将に嶋基宏が、脇を固める副主将に松井稼頭央小山伸一郎の両ベテランが任命された。重厚な布陣で2015年のスタートを切った。「仕上げの場」という姿勢は第1クールから表れた。2日、メーン球場で投内連係の練習を終えた野手陣は、駆け足で室内練習場へと移動。約40分間の非公開練習を行った。キャンプ序盤では異例ともいえる非公開練習は3日にも行われ、さらにバントエンドランや走者一、三塁からの重盗阻止など、実戦に近い細やかな練習をいきなり導入。個々の鍛錬ではなく、チーム力の熟成に力を注いでいる。

効率よく練習するため投内連係は内野、右翼、左翼の3カ所で行っている



 6日には、日本ハムと並び12球団最速で紅白戦を実施した。一昨年、昨年の初紅白戦は9日。実施を早めた理由を指揮官は「レギュラー争いのためには投手は投げさせた方がいいし、打者は打席が多い方がいい。ゲームに入れば目の色も変わる」と話す。新外国人のサンチェス、ウィーラーも志願の出場。実戦を積みチーム力を上げていく方針は全体に浸透していることを印象づけた。

 その紅白戦では「機動力野球」という明確なメッセージを込めた。6、7日の2試合で計8盗塁。6日は両軍とも初回にエンドランを絡めて得点し、7日は重盗での得点にも成功している。「方針は去年の秋から伝えてあった」と指揮官は涼しい顔で話し、橋上秀樹ヘッドコーチも「足を使わざるを得ないでしょ」とニヤリ。昨季の盗塁数はリーグワーストタイの64個。長距離砲がサンチェス1人という状況下で、走れるチームへの変貌を図っている。

結束を強める大久保流改革


大久保新監督のよる結束と強める方針は、浸透を見せている



「一致団結」という方針はキャンプ休日の行動にも表れた。今キャンプ初の休日となった5日。寒風吹きすさぶ海岸に全選手が集結。6チームに分かれて運動会が行われた。新人からベテランまで「パン食い競争リレー」や「借り物競走リレー」など6種目に参加。大久保監督は「結束を固めること。新任のコーチが多いので選手の性格も知ってもらいたかった。体を軽く動かしておくことで、明日以降の練習にスムーズに入れるということもある」と意図を説明した。

 笑いの絶えない空気に「こんなバカバカしいことを真剣にやってくれる。こういうチームはなかなかない」と満足気だった。

今春キャンプ初めての休日には「結束を強めるため」運動会が行われた



 結束を重視する指揮官は、意外な行動にも出た。6日の紅白戦終了後、サブグラウンドにいる岡島豪郎の元に出向き謝罪。理由をこう明かす。「オレは今日はグリーンライト(走者が自分の判断で盗塁できる)で、ドンドン走っていこうと思っていた。でも、それがちゃんと伝わってなくて、コーチ陣は(エンドランなど)実戦的なサインを出していた。それを知らなくて(岡島を)怒っちゃったから……」。ちょっとした行き違いが結束にヒビが入る可能性もある。問題は即座に解決する姿勢を示した。

 恒例となっていた早朝の散歩、声出しも廃止した。「自由な時間に起きて、ゆっくり朝飯を食べればいい。慌てて食べると血流が悪くなり、練習中に眠くなって故障につながる」。現役引退後から栄養学や運動生理学を学んできた指揮官。裏付けがあってこその改革だった。また、投内連係ではメジャー流を導入。内野1面だけでなく、右翼、左翼を入れた計3カ所で行った。投手の待ち時間を減らし、練習の効率化を求めての変化だった。

 ここまで、キャンプは順調に推移している。久米島での12日間のキャンプを終えた指揮官は「100点」という評価をした。注目ルーキー・安樂智大が14日から二軍に合流することになったのも想定内。遊撃のレギュラー候補だった西田哲朗が左足甲を骨折。全治6〜8週間と長期離脱となったことは誤算だったが、遊撃を巡る競争は激化。新外国人のウィーラー、ベテランの後藤光尊岩崎達郎らがその座を争う。その後藤は6日の紅白戦で一発を放つなど、猛アピール。指揮官は「非常に良い動きをしている」とキャンプのMVPに、その名を挙げた。

「(野球をやっている以上)負けることは全然怖くない。しかし、僕が一番恐れているのは一致団結しなくなること。そうなると持てる力を発揮できなくなる」

 就任後、指揮官が常々口にする言葉だ。巨大戦力を持つソフトバンクオリックスに対抗するチーム作りへ。個の力ではなく、団結力でシーズンへと向かう楽天。現時点では、指揮官の意図する方向に進んでいるようだ。
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