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パ・リーグの上位争いを繰り広げている西武にあって、サイドスロー右腕が先発として十二分に役割を果たしている。プロ4年目の十亀剣。結果を残せなかった昨年の悔しい思いを糧にして果たした成長。安定感を手にした背番号21が、チームを栄光に導く可能性は高い。
取材・構成=小林光男 写真=大泉謙也

クオリティースタートで満足してはいけない


「ただ勝つではいけない。勝ち方が重要です」と語る十亀



──5月12日の日本ハム戦(札幌ドーム)で9回途中2失点、19日のロッテ戦(西武プリンス)で6回1失点とクオリティースタート(6回自責点3以下)を軽くクリアしながら、いずれも試合後のコメントで「情けない」という言葉が出てきたのが非常に印象的でした。

十亀 先発投手は勝利を目指すのは当然ですが各々、求められるモノは違います。僕は年齢的(27歳)にも、クオリティースタートをクリアするだけで終わってはいけない立場。それに、岸(孝之)さん不在の投手陣で完投できる投手は少ないですから。僕はそこそこスタミナがありますし、完投を視野に入れながら投げるのは当然のことでしょう。日本ハム戦は完投目前で、ロッテ戦に至っては相手投手より先に6回で降板してしまいました。完投できるときに、きっちりとそれを成し遂げないといけません。また、それを果たさないと投手として、もう1段階上に上がることはできません。だから、「情けない」という言葉が出てきたんです。

──昨年はシーズン当初クローザーを務めながら、途中で先発へ。さらに7月に股関節痛で離脱し、そのままシーズンを棒に振ってしまいました。その悔しさが、自覚を促すきっかけになったのでしょうか。

十亀 そうですね。3年目の昨シーズンでしっかり結果を残して、ファンからも、チームからも「十亀は必要な存在だ」と思われるようにならなければいけないと考えていましたから。そこでつまずいてしまって、今年ダメだったら今後の野球人生に大きく響くだろう、と。シーズンに懸ける気持ちは、プロに入って4年目の今季が最も強いです。

──マウンドではとにかく必死という感覚でしょうか。

十亀 特に勝つことに執着しています。そのためには長いイニングを投げないといけないでしょう。それに、ただ勝つだけではいけないと思っています。やっぱり、勝ち方が重要。例えばできるだけ長くマウンドにいて、中継ぎを休ませることができればチームにとってもプラス。そういうことを頭に入れながら、ピッチングができるようにならないといけません。

──高い志にあふれていますね。

十亀 やっぱりプロ野球選手になったからには、チームを代表する投手になりたいですから。特に今は岸さんがいない状況で、僕が勝手に思っていることですが、「エースがいなくても十亀がいれば大丈夫」と思ってもらえれば、と。きっと同学年の野上(亮磨)も同じことを思っているでしょう。とにかく大きなカベですけど、1日でも、一歩でも早く岸さんに追いつけるように頑張りたいです。

5月5日のオリックス戦(西武プリンス)では今季初完投勝利で3勝目。森(左)とともにヒーローとなった(写真=小山真司)



ピッチングで生きるしっかりと抜けたカーブ


──5月25日現在、7試合に登板して4勝1敗、防御率2.02と、その固い決意が結果となって表れています。

十亀 まだ探り探りの部分もあるんですが、昨年ケガをして投球すらできない状況のときに自分の体と向き合う時間が取れたのが良かったです。僕はそれまで調子の浮き沈みが激しかった。状態が悪いなりにもしっかりと投げることなどを、突き詰めて考えることができましたから。

──投球に粘り強さも感じられます。19日のロッテ戦も8安打されながら6回1失点でした。

十亀 今年は打線も点を取ってくれます。普通に投げていれば得点を重ねてくれる、と。昨年は1点を取られたらまずい、と思って投げていましたから。マウンド上で余裕があり、落ち着いていられます。ピンチに陥っても慌てない。それに昨年、クローザーを経験したことも糧になっています。そういったことが粘りのピッチングにつながっているのではないでしょうか。

──今年はカーブも効果的ですね。そのロッテ戦でも2回に連打で無死一、二塁のピンチとなってデスパイネを迎えましたが、カーブの連投で見逃しストライクを奪って2ストライクと追い込み、最後もカーブで空振り三振に切って取りました。

十亀 握りや腕の振り方を変えたわけではないんですけどね。オープン戦でも特にカーブのキレがいいとも感じていなかったんですけど、今年初登板の日本ハム戦(4月7日、東京ドーム)で5回7三振を記録して。僕はあまり三振を取るタイプではなかったんですけど、その試合ではカーブが効いてストレートも生きて三振を奪うことができました。もともとカーブは緩急をつけるためには効果的だったんですけど、今年は特にスピードが抜けていると思います。本当に、腕をしっかりと振ることくらいしか意識はしていないんですけどね。

──しかし、本当に相手打者がカーブを嫌がっているように感じます。さらに磨けば魔球へと昇華しそうですね。

十亀 100何キロの球を投げるわけですから、昔は不安もありました。ストレートを打たれたら力不足と素直に思えますけど、遅いボールを打たれたら一番、悔いが残ります。でも、今はカーブで打者の態勢を崩したらこっちのもんだと思いますし、空振りを奪ったりすると“してやったり”という感じがすごくします。いい投手には代名詞がありますけど、僕にとってカーブがそういった存在になってくれればいいですね。

優勝するために力を尽くすだけ


──サイドから140キロ台後半の直球を投げ込み、カーブで翻ろう。以前、「あんな投手はほかにいないと言われる存在になりたい」という発言がありましたが、それに近付きつつあるようにも感じます。

十亀 サイドスローと言ったら、「十亀」という名前が出てくるようになりたい気持ちはあります。僕はあまり野球少年の手本になるような投げ方ではないですけど、唯一無二の存在になれれば。

──「結果は何でもいいから、僕の球を苦労して打ってほしい」とも言っていました。

十亀 僕の投げ方だと特に右打者は威圧感を覚えるでしょうし、僕はコントロールが良くないので、相手からしたらどこに来るのか分からない。それも苦労の一つでしょう。僕の投球の残像が翌日の試合でも打者の目に焼きついている可能性もありますし、それがその日の先発投手の助けになるかもしれない。特にそういったことを意識しているわけではないんですが、ただの荒れ球で終わらないように、しっかりとそれを生かすピッチングを心掛けたいと思います。(炭谷)銀仁朗もそういった点をうまくリードしてくれますから。

──今後はどういった点が課題となってくるでしょうか。

十亀 今のところできていますけど、安定感でしょう。これをシーズン通して出せればいいですけど、絶対に体調的にも崩れるときが来ると思うので。そのときに、きちんと対応して安定感を発揮できるか。そこが重要になってくると思います。

──今年は、ぜひチームとして頂点に立ちたいですね。

十亀 そのために野球をやっていますし、僕はまだ味わったことがないので当然、優勝したいと思っています。でも、シーズンは長いので、目の前の試合に集中して。チームがいい位置につけていれば、そのチャンスは大きくなるわけですから。そのためにも、これから尽力していきたいです。

──優勝するために、十亀投手の力は絶対に必要です。

十亀 僕は大学、社会人経由とプロ入りが遅かったですし、タイプ的にスピードが落ちたら厳しい投手でしょう。太く短い野球人生になる─と現時点では思っています。とにかく、まずは“太く”ならないことには始まりません。そのために力をつけて、チームのためになるピッチングができるように頑張りたいと思います。

PROFILE

とがめ・けん●1987年11月7日生まれ。愛知県出身。183cm88kg。右投右打。愛工大名電高から日大、JR東日本を経て2012年ドラフト1位で西武入団。サイドから投げ込む剛球を武器に先発、リリーフで活躍。今季は先発としてローテーションに入り、上位争いを演じるチームを支えている。今季の成績は8試合登板、4勝2敗0セーブ、防御率3.00(6月1日現在)。

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当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。※ご応募いただいた個人情報は、当選者への発送、確認事項の連絡、企画の参考とさせていただく以外の目的には使用いたしません。
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