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元巨人・星野真澄のトレーナーとして生きる第二の人生

 

股関節の手術後、誰しもが一軍での復活登板を願っていた巨人星野真澄だが、14年オフに戦力外となりトライアウトを受けた。しかし、手を挙げる球団はなく現役引退。一方で、12年に手術した股関節は悲鳴を上げていた。そこへ「GOLD'S GYM」の社長が声をかけ、投手コーチ兼投手兼トレーナーとして採用が決まった。入社して6カ月。大きな2つの目標を成し遂げるため、寝る間を惜しんで前に進んでいる。
取材・文=椎屋博幸 写真=BBM

育成ドラ1で巨人に入団


 生きがいを見つけた男の「目」は充実感にあふれている。星野真澄はまさに今その状況にいる。フィットネスクラブ・スポーツクラブ「ゴールドジム」に2015年1月7日入社した星野。現在は5月31日にオープンした神奈川県川崎市の溝の口店でトレーナーとして働いている。

 通常は午後3時から24時までの勤務で、体を鍛える人、ダイエットに励む人などさまざまな理由でジムを訪れるお客に笑顔で対応している。1月から約6カ月間は研修を兼ね、東京都内にあるゴールドジム サウス東京アネックス(大森)で働いた。接客業や商品の説明など多くのことに対応しながら、トレーニングを行うお客と身近に接し、信頼関係を築いていった。

「現役時代にトレーニングや食事などについていろいろ自分で勉強していました。ゴールドジムにも通い、トレーナーの方々といろいろな話をしていたことが今、また生かされている感じですね」

 高校、大学と大きな実績を残せないでいた。社会人となった23歳くらいのとき、自分のトレーニング方法が間違っていたり、合っていないのではないかと思い始める。そこからトレーニングに関する勉強を始め、自分なりの方法で取り組んだ。その成果は球速になって表れ始め、間違っていないことを確信。その後、2010年に育成ドラフト1位で巨人に入団。3月には支配下登録され、4月には一軍のマウンドも経験。この年34試合に登板する活躍を見せる。



 成功を実感すると、一軍で活躍するにはどうしたらいいかという探究心がさらに生まれた。150キロ近い速球を投げられるようになったが、打たれることもしばしばで、どうしたら打たれないかという研究も始まった。一軍で活躍する投手や、投手コーチ陣にさまざまな話を聞き、心の持ち方、ワンポイントなどで相手打者を抑えるにはどういう心理が必要かなど、投球に関するあらゆる質問を行い、身に付けていった。

 だが12年に左股関節唇の手術を受けまたもや育成選手に戻ることになる。辛いリハビリを経て13年に復帰し、再び支配下登録もされた。だが14年オフに二軍で45試合に投げ防御率1.25ながら戦力外通告を受けた。もちろん、現役続行の意向でトライアウトを受けたが、獲得表明をする球団はなく現役引退を決めた。

2つの目指す道


 しかし、このトライアウトに新しい運命へと導く道が待っていた。ゴールドジムの社長が星野に声をかけたのだ。野球のクラブチームを持つこの会社が、星野を投手コーチ兼投手兼トレーナーとして必要としたのだ。いまだに社会人野球レベルなら打者を抑えられるという確信がある。

「多くの方から、どうやって抑えられるかということを教わりましたし、競争の激しい巨人一軍で自分の仕事場をどうやって全うでき、結果を残せるか、そして勝つためのアプローチは何が必要かということを学び、経験しましたから」

 実際に社会人チームとの試合で投げ実感した。だが、故障した股関節は野球をするには限界がきている。14年もその激痛との闘いだった。

 現在は、朝6時に起き千葉県内、江戸川区の球場で練習を行い、午後3時に出社する毎日。目標はチームの都市対抗野球大会出場だ。そのためには究極の場面でマウンドに上がるつもりで体を鍛えている。そして、自分が培った経験をチームの投手たちに伝え続けている。

 結果に直接結びつくために何が必要か――星野の今のテーマである。それは現役時代と同じ作業だが、今の職業でもまったく変わらない。お客が求める体づくりで、素早く結果に結びつくトレーニングとは何か……。チームが夢の舞台に立つために、その結果を残すために何が必要か……。プロ野球というファーストキャリアで培った経験を今、セカンドキャリアで生かせる場所がある。

5月31日にオープンしたばかりの溝の口店で働いている星野。お客さんのニーズに合わせながらアドバイスを送り、笑顔で対応している



 ジムの中では、自分の経験を生かしつつ、お客のニーズに合った方法を、お客とともに見つける。それが自分の経験に蓄積され、次のお客へ素早い結果を与えられることにつながっている。球場では、いかに抑えられるかという方法論と心理的な部分を教えられる。やみくもに投げるだけではなく、考えながら投げることで、結果に早くつながっていく。

 野球部が社会人の強豪になれば、トレーニングも技術も教えられるチームとして認識される。それが野球界への新しい風になるかもしれない。

「股関節のことを考えると、僕が投手として手助けできるとしたら来年までかもしれません」

 だが今は大きな目標がある。お客の体つきが変わり成果を挙げることとチームの勝利。2つの目指す道。大きな生きがい、目の輝きは必然のことなのである。(文中一部敬称略)

PROFILE
1984年4月4日生まれ。埼玉県出身。埼玉栄高から愛工大へ進み、社会人野球バイタルネット、BC信濃から10年育成ドラフト1位で巨人に入団。1年目の3月に支配下登録になり一軍で34試合に登板。12年に左股関節唇の修復手術を受けたが、オフに再び育成選手となった。復帰した13年7月に再び支配下登録されたが14年は一軍登板なく戦力外通告を受けた。その後現役引退し15年1月にゴールドジムに就職。現在はトレーナー兼ゴールドジム野球チームの選手兼投手コーチ。一軍での通算成績は43試合に登板し1勝0敗0セーブ、47回 1/3、25失点、防御率4.37。
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