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巨人・賭博問題 事件の概要とポイント 黒い霧事件を忘れるな!

 

球界に衝撃が走った。福田聡志が野球賭ばくを行っていたとして、巨人が熊崎勝彦コミッショナーに告発――。なぜ、このような事態が起こってしまったのか。黒い霧事件は忘却の彼方へ消え去ってしまったのだろうか。
文=岡江昇三郎、写真=BBM

今回の事件の概要


 実に困ったことが起きてしまった。巨人は10月5日、福田聡志投手(32歳)が、プロ野球の試合など(ほかに高校野球、大リーグ)を対象とした賭ばくを行っていたとして、熊崎勝彦プロ野球コミッショナーに告発することを発表したのだ。

 球団によると福田は8月から9月にかけて、チームメートの笠原将生投手(24歳)に紹介された男性(税理士法人勤務という)に賭けを持ちかけられた。この友人とは賭けマージャンなどで親しくなり、福田はその誘いに応じた。

野球賭ばくにかかわっていることが発覚した巨人・福田聡志



 賭けの方法は、ハンディをつけた一覧表がメールで送られてきて、その中から試合を選び、勝ち負けと賭ける点数(1点1万円)を伝えるというもので、福田は、毎回5〜10点を賭けていた。これは主に夏の全国高校野球選手権を対象にしたもので、福田はここで大きな損を出したが、誘った男性が「プロ野球で取り返せばいい」と日本のプロ野球と大リーグでそれぞれ10試合を対象に賭けを行ったという(巨人戦が3〜4試合含まれていた)。

 しかし、ここでも取り返すことはできず、最終的に百数十万円の損をした。福田は、9月に子どもが生まれることもあり、賭けをやめることにして、男性との連絡を断った。

 しかし、9月30日に、川崎市の読売ジャイアンツ球場に男性が取り立てに現れたことで、野球賭ばく行為が発覚した。賭けは1回ごとの精算ではなく、「遊びだからどんどんやってくれ」とお金の請求はなく、その間、どんどん負け額がふくらんでいった。この男性は、笠原にも賭けを持ちかけていたが、笠原は断ったという。

 巨人からの告発を受けて、熊崎コミッショナーは、5日付で常設の調査委員会(委員長・大鶴基成弁護士)に調査を依頼した。

 巨人は福田と笠原を謹慎処分としたが、福田は、今季、1度も一軍では登板しておらず、賭ばくのみで八百長行為(敗退行為)はなかったとしている。また、巨人は、男性が暴力団関係者であるという認識はないという。福田については刑法の賭ばく罪に該当する疑いもあり、警察への届け出も検討している。

 熊崎コミッショナーは「野球界にとって大変悔やまれることで、残念至極。だれもが納得できるような厳正な対処をしなければならない。これが裁決者(コミッショナー)としての権限であり役割だと認識している」と徹底解明の強い意志を表明、巨人・久保博球団社長は「プロ野球への信頼を失墜させる行為で、ファンの皆様に深くおわびします」と謝罪した。

10月5日に会見を開いた巨人。久保博球団社長[左]と森田清司法務部長が謝罪した



 福田は06年に希望枠で東北福祉大から巨人に入団。9年で151試合に登板、22勝15敗、防御率4.15の成績を残している。

あの“黒い霧事件”を忘れてしまったのだろうか?


 これが今回の事件の概要(もちろん、事態は動いているが)だが、読者は、福田の行為がどうしてこれほどの問題になるのか、新聞報道などでは、あまりよく分からなかったのではないだろうか。

 プロ野球の「憲法」である「野球協約」の第177条(不正行為)または180条(賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止)に該当する可能性がある、というのが今回の事案だ。177条は、八百長、すなわち敗退行為に関する処罰規定で、これに該当すれば、永久失格(永久追放)となる。

 180条は、プロ野球の試合について賭けをすること、野球賭ばく常習者、暴力団員など反社会的勢力との交際、金品の授受、その他の利益を収受することの禁止で、これに該当すれば、1年間、または無期の失格処分とする。

 福田の場合、今季の一軍登板がなかったことで、敗退行為はなかったと見られるので(これはまだ調査の要あり)、177条には該当せず、180条に該当する可能性が高い。従って、賭ばくをすすめた男性が、野球賭ばく常習者または、反社会的勢力であるかどうかが大きなポイントになる。

 これは調査の進展によって明らかになるだろうが、もし、この男性がそうであるならば、福田は無期の失格処分となる恐れがある。野球賭ばくのみなら1年間の失格処分となりそうだ。

 もちろん、これで、この一件にケリがつくなどというものではない。プロ野球選手が野球賭ばくに手を染めてしまったことが、深刻な問題なのである。どうして、こんなことになってしまったのか。69〜70年の、あの“黒い霧事件”は、忘れられてしまったのだろうか。

 あのとき、永久失格となった選手は、6選手(すべて投手。西鉄・池永正明投手は05年に処分解除)。このうち5人が敗退行為(八百長)。1人はオートレースの八百長(逮捕。この選手には野球での敗退行為の強い疑いがあった)。また、1人の元投手が東京地検特捜部の取り調べに「プロ野球の八百長を仕組んだ」と供述している。元投手が現役だったら、当然、永久失格となったハズだ。

 ところで、敗退行為で永久失格となった5人のうち、それをハッキリと認めたのは、2人だった。そのうちの1人の事例を紹介しよう。

 この投手は、当時の新聞報道などによると、元暴力団準構成員などから50万円を八百長の報酬として先に受け取ったが、八百長に2度失敗。さて、この50万円をどうしようかと迷っていたら、次々に事件が発覚。さらに、この投手に50万円を渡した人物の1人が、野球賭ばくの常習者であることが報道されると「そんな金なら使っちまえ」と使ってしまったという。

一軍登板なしなら敗退行為なし、ではない。徹底調査を


 何ともアッケラカンとした話しぶりだが、こういう、ほとんど社会的に無知としか言いようのない人間が、プロ野球の選手をやっていたのである。ここが大問題なのだ。こういう無知な選手を2度と生み出さないために、プロ野球界は、己の襟を正し、若い選手の教育に務めたのではなかったのか。

 そもそも、この投手も語っているように、八百長を仕組んでも失敗することがあるのだ。野球にはそういう難しさがある。ド真ん中に好球を投げ込んでも打ってくれないこともあるし、ゲッツーを打つことだってあるのだ。

 こういう話を、新入団選手にするのは、はばかりがある、なんて考えるのは、余計な心配、昔の具体的な事例を教えれば、その恐ろしさと愚かさを選手はよく分かってくれるハズである。

 戦争直後の1リーグ時代は、黒い霧時代の比ではなかった。何しろ給料が安いし、インフレ。手っ取り早いのは八百長だ。これに手を焼いた南海・山本(鶴岡)一人監督は、疑わしい選手はバッサリと斬った。しっぽをつかむために、鶴岡監督は警察の婦警さんに頼み込んで、尾行までしてもらったという。

 こうしてプロ野球は何度も危機を乗り越えてきたのだが、平成の時代も四半世紀を過ぎてから、野球賭ばくとは……。天災は忘れたころにやってくるのだ。福田1人の問題とせず、ここは、球界全体を徹底的に洗浄して、ウミを出し尽くしてほしい。

巨人からの告発を受けた熊崎コミッショナーは徹底的な調査を約束した



 巨人は7日、熊崎コミッショナーに告発書を提出したが、同コミッショナーは、福田が一軍登板なしだから、敗退行為はなし、とはせず、「共謀などで実質的に勝敗に関与した状況の有無なども含め、しっかり調査する」と語った。そう、そこまで徹底してこそ調査の名に値するのだ。
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