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白球ストーリー〜2016年への鼓動〜
ヤクルト・小川泰弘の決意「1つでも多く勝つ」

 

2年連続の開幕投手を務め、14年ぶりのリーグ優勝にも大きく貢献した。だがその表情に満足感はない。それだけ2015年は、もがき苦しんだ1年でもあったのだ。今季4年目ながら、先発投手の柱として君臨する右腕は、その経験と自信、そして技術を糧に、さらなる成長を遂げようとしている。
取材・文=阿部ちはる、写真=BBM



 小さな声でつぶやいたその言葉に、本音がこめられていた。

「そりゃ投げたいですよ」

 それは、緊張感のある場面で投げたいか、という質問をしたとき、「できれば投げたくないですよ」といたずらっぽく笑った後の言葉だった。

 2015年、史上まれに見る大混戦となったセ・リーグの優勝争いの中で、小川泰弘もまた、何度もしびれる場面での登板を経験した。

 10月2日、14年ぶりの優勝を決めた試合の先発マウンドに上がったのも小川だ。マジック1が点灯してから負けと雨天中止を挟み、3日間足踏みした。そして迎えた本拠地最終戦。ここで敗れればCS進出を懸け1戦も落とせない広島と敵地へ乗り込んでの戦い、そしてそこに敗れればいよいよシーズン最終戦で巨人との直接対決となる。この試合で決めたいと、選手はもちろんチームもファンも願っていた。

 だが相手もまた、CS進出を懸け必死の形相を見せる阪神だ。そこで6回無失点と試合を作り、チームは延長戦の末、サヨナラ勝ちで優勝を決めた。「結構プレッシャーがありましたよ」と言いながらも、臆することなく立ち向かっていったその背中に、エースの風格を感じた。

10月2日の阪神戦[神宮]に先発し、6回無失点の好投で優勝に導いた小川[左から2番目]が、真中監督の下へ駆け寄りと喜びを分かち合った



 だが、小川にとって、自身の試合ではない。さらに緊張感のある試合があった。そしてそこで投げたベテランの背中こそに、真のエースとしての風格を感じた。昨季、一番の緊張感があったとチームの誰もが振り返る9月27日の巨人戦(東京ドーム)。そこで先発したのが中4日での登板となった石川雅規だった。

 勝てばマジック3が点灯、負ければ2位・巨人とゲーム差なしに迫られる、大一番。そこで5回1失点。そして自ら先制打を放つ働きを見せ、勝利に導いた。そんな石川の登板を振り返り、感じた。

「大事な試合での気迫のピッチングですよね。そこを見習いたいと思います」

 勝つだけではなく投球で見せるその姿勢、気迫、気持ちのこもった球、そのすべてにエースとしての姿を見せつけられた。

試行錯誤した苦しい1年。そこで見えた新境地


 小川は13年ドラフト2位でヤクルトに入団。その年に16勝を挙げ最多勝、新人王に輝いた。最下位に沈んだチームの中で確かな輝きを放ち、一気にブレークすると14、15年は開幕投手も務め、“エース”と呼ばれるまでに成長。そしてついに優勝という栄冠まで手に入れた。

 自らの実力を証明する実績を残した15年。だが収穫を聞くとしばらく返事がなかった。チームの栄光とは裏腹に、苦しんだ1年だった。

 開幕から6戦負けなし(3勝)と好投を続けていたものの5月に失速。敗戦が続き課題も浮き彫りになった。“クイック”と“投球のテンポ”。これは春季キャンプから取り組んできた課題だが、意識し過ぎるあまり、走者を出した際の気持ちの割り切りができずピンチを広げ、失点する場面も目立った。そこで繰り返しコーチとミーティングを重ねながら自分に合ったやり方を模索。さらに真中満監督には「どんな選手でも変化していくことが大事」と言われ「自分も変わらなきゃ」と素直にチャレンジすることができたという。迷いを断ち切るその言葉に、「思い切って試合の中で課題に取り組んでいけたので、すごくありがたい言葉でした」と振り返る。

 ローテーションを外れることなく試合の中で修正と実践を繰り返し、ついに8月12日の広島戦(マツダ広島)で一つの形が完成した。

「そこまでなかなか勝てず、その時点で6勝6敗。勝ったり負けたりが続き、自信もなかった。ですがその試合で課題に取り組んだところ、ちょうどうまくはまって、結果的に完封につながったんです」

 この試合の前の登板となった5日の巨人戦(神宮)で小川は2度の三盗を許していた。ここでの反省を広島戦でぶつけた。

「この試合からランナーを二塁に背負ったときの首の振り方とかを変えたんです。それだけではないとは思いますけど、自分の中でうまくはまっていった感じですね」

 苦しんでもがいて見つけた答え。そこに結果が伴ったことで自信へと変わっていった。

「(試行錯誤した)その経験というのは大きいと思いますね。これからの自分にとって」

 投手として成長を遂げた瞬間だった・・・

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