2011年秋のドラフト。
ロッテは指名4人の少数精鋭ながらも12球団屈指の大当たりと評された。
3球団競合の末にドラフト1位で獲得した東洋大の
藤岡貴裕は1年目から6勝をマーク。2位の
中後悠平(近大)は前半戦に中継ぎで存在感を見せ、3位の
鈴木大地(東洋大)はマルチな活躍で中盤以降は一軍に定着。4位の
益田直也(関西国際大)は新人記録となる72試合登板、41ホールドを挙げて新人王に輝いた。この4人が将来のチームを担う――多くのロッテファンがそう思ったことだろう。
しかしドラフトから4年後の昨年オフ、中後が戦力外通告を受けた。制球力に難があったとはいえ、まだ26歳。その報を聞いた瞬間を回想し、藤岡は「まさか(戦力外に)なるとは思っていませんでした。同期入団として少し早いなという気持ちもありましたし、寂しい」と口にする。だが、すぐに「人のことを気にする前に、まずは自分がやらなければいけない立場ですから」と続けた。
鈴木は13年に遊撃手部門でベストナインを獲得し、現在はキャプテンを任されるなど、チームの中心人物となった。益田も13年にセーブ王に輝き、欠かせぬリリーフの一員となっている。一方、藤岡の立場は微妙だ。
プロ4年間の勝ち星は、6勝、6勝、6勝、2勝の計20勝。昨季は5月2日の
日本ハム戦(QVCマリン)で3回8失点とKOされると、残るシーズンのほとんどをロングリリーフとして過ごした。
それでも救援では28試合で2勝0敗、防御率2.21と光明を見せた。「後半戦は自信を持って感じ良く投げられていましたし、さらにパワーアップできればボールはもっと良くなる。去年の後半戦を生かしてやっていきたいと思っています」と、このキャンプでは二軍スタートながら精力的に汗を流している。取り組んでいるのが真っすぐの質を上げることと、チェンジアップの向上だ。
「去年は先発のときにしかチェンジアップを投げていなかった。中継ぎのときに抜けるボールを投げられればいいなと思い、ブルペンではチェンジアップの精度を上げることに取り組んでいます。全体的に去年のキャンプよりも投げていてしっくりくるボールがいっているので、感覚良くいけていますね」
生命線のストレートについては、名伯楽の
小谷正勝二軍投手コーチも「真っすぐは今のままでいい」と太鼓判を押すほど。調整は例年以上にうまくいっているようだ。
気になる起用法については、「僕自身としては先発をやりたいですが、コーチは中継ぎとして考えられていると思います。先発できるように球数を投げながら、中継ぎと言われてもいいように準備をしています」と語る。求められる立場で結果を残すこと。それが自らの役割だと理解している。
中後とは戦力外通告後に球場で会い、さまざまなことを語り合ったという。中後は今季からBCリーグの武蔵ヒートベアーズに所属。年齢を考えればNPB復帰の可能性もあるが、“再会”するためには何よりもまず、自身が確固たる地位を築かなければいけない。
「1年1年が勝負だというのは毎年のことですが、今年はしっかり投げられるように準備をしたい」
背水の陣で臨むプロ5年目。いまこそ覚醒の時だ。
取材・文=吉見淳司 写真=中島奈津子