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編集部発「著者に聞く」
元ロッテ・清水直行氏 ニュージーランドと日本の野球を繋げる!

 

3月25日、ニュージーランドに“戻る”前夜、都内のホテルで取材をお願いした。タイトルは『日本野球を売り込め!』。元野球選手の著書としては一風変わったタイトルだ。書いたのは元ロッテのエース、清水直行氏。

「日本野球を売り込め!元世界一投手のニュージーランドからの挑戦」ベースボール・マガジン社 1400円+税


挑戦は誰でもできる


――そもそも、なぜニュージーランドなんでしょう。

「それを話し出すと1時間はかかります(笑)。端折っていくと、第3回WBCの予選で、台湾とニュージーランド戦を見て、ニュージーランドの選手に興味を持った。台湾にやられましたけど、体も大きいし、基礎体力もある。技術を覚えれば可能性はあるんじゃないかなって。それでニュージーランドの野球の歴史はどうなのかなと調べてみたら、発展途上で成熟していない。こういうところで野球が普及することが、世界への野球の普及にもつながるし、そのために、僕にもできることがあるんじゃないかと思ったんです」

――それまでニュージーランドに行ったことは。

「一度もないです。ただ、オーストラリアは東芝時代にも行ったことがあるし、南半球のゆったりした雰囲気はもともと好きなんですよ」

――英語はどうなんですか。

「しゃべれないけど、通じます(笑)」

――ニュージーランドはラグビーのイメージが強いですが、野球を観戦する文化はあるんですか。

「やはりラグビーが一番ですが、MLBはみんな見てますよ。でも日本の野球放送は一度も見たことないですね、残念ながら」

――少年たちを指導しているそうですが、野球をやっている子どもたちは、メジャーを目指しているんですか。

「国内にプロリーグもないし、彼らが野球をしているのはあくまで楽しいからです。ヤンキースの選手になりたいも、ロッテの選手になりたいもない。ひとつには自分たちのレベルも分かりませんよね。自分がどのくらいの位置にいるのかは世界との比較ですから。でも、そうなると、ほかのチームを呼ぶか自分たちが行くしかないわけですが、呼ぶにしてもニュージーランドには専用球場がないので大会が開けないし、こっちから行くなら選手の親もおカネがかかる。そうなると、わざわざ外国に出ていって試合をしてどうするの?ってなりますよね。親たちも子どもたちが野球をやっているのを熱心に見ているし、応援もしてくれますが、そこから先のモチベーションがないから、なかなか金銭的な支援にはつながらないんですよね」

――ニュージーランドで活動する中での一番の苦労は。

「やっぱりおカネですね。日本の領事館とか日本企業の現地法人の方に協力していただきながら、いろいろ回っています。いまはオークランド市の観光局、ニュージーランド航空とかに支援していただき、日本からもロッテがボールを寄付してくれたり、ロッテ時代の関係もあって新昭和さんの松田芳彦社長にも支援していただいています。あと、僕自身も基本的にはボランティアなんで給料が出るわけじゃない。ニュージーランドと日本の観光にかかわるJTBさんとオークランド市の話し合いに入って、スポーツツーリズム、スポーツ留学についてアイデアを出したりという仕事もしています」

オークランドのクラブチームで子どもたちを指導


――引退時、国内球団からのコーチの要請もあったようです。それを断っての決断は経済面でも勇気が必要ですよね。

「いや、だれでもできますよ。いまの時代ならクラウドファンディング(インターネットで財源協力を求めるやり方)もある。おカネさえ集まれば、あとは熱意と子どもたちを説得できる技術があればいいだけでしょ。クラウドファンディングに関しては、僕も本来はしなきゃいけないんですけど、僕はまず行動だと思って、動きながら考えようと思ってやっています。それでいまなんとかやっている。贅沢なんてできませんけど、これまで野球界にお世話になったし、そのくらいやってもいいと思います。それに、僕はあのとき球団を自由契約になって、どこに対しても責任なかったですからね。だからできたんです」

――現在の目標は。

「大きなゴールは2つ。ニュージーランドの野球を強くするという目標については、目安として年代別の子どもたちの大会が2年置きにあるんで、アンダー15のメキシコの次の大会、今年を一つの目標としています。そして、もう一つ、日本の野球とつながりを持たすというゴールに向けては、日本でプレーする選手を送り出したい。高校、大学は難しいので、まずは社会人か独立リーグに働きかけ、今回その架け橋の第1号で選手が1人、新潟アルビレックスに入ることになりました」

ほかのOBもせひ


――本を書こうと思ったきっかけは。

「書きたいとはずっと思っていたんですよ。次に誰かが僕と同じことを“自分もやりたい”と思ったとき、“道しるべ”になるような本にしたいと思ったんです。いろいろな苦労ややり方があるというのを知ってもらったほうがいいと思うので」

――どんな読者を意識しましたか。

「『日本野球を売り込め!』と言ってもピンとこないかもしれないけど、僕は日本野球の素晴らしさを世界に知らしめたいと思って動いています。この本を読んで日本野球の素晴らしさを、それこそ現役選手にも再認識してほしいし、危ないぞと思っている人にも読んでもらいたいですね」

――アメリカ発のベースボールではなく、日本の野球なんですね。

「日本には4万人以上が入る球場があって、選手個々にも高い技術があるのに、それが世界に伝わっていないのが残念なんですよ。ただ、それを伝えると言っても、日本はいい野球をしているから来てよと言っても来るわけがない。こっちから行って、日本の野球を説明し、身をもって技術を示し、下世話な話だけど、日本の野球選手ってこんなにお金を稼げるんだ。日本は食べ物おいしいよ、安全だよと言って伝えるしかない。

 実際、海外青年協力隊とか、ボランティアで野球を教えている日本人は海外にたくさんいるんですよ。僕は、それをNPBが仕切って、プロのOBがしなきゃいけないんじゃないかと思うんです。いまはあまり野球が盛んではない、アジアだとか南半球の人たちに日本の野球を伝えて、日本の野球を目指すような流れを作っていく。それができなきゃ日本の野球はしぼんでいくだけじゃないかって。サッカーだってそうですよね、チームに何人も自分の国の選手がいたら試合も見たくなるでしょ。それで放映権料やグッズ販売で大きなビジネスになっている。その発信ができていない。やっているのはMLBだけです。すごくもったいないですよね。

 あと、学生に関しては、野球は教育でもあると思うので、そういう意味でも野球を通じて日本を知ってほしい。野球は礼儀も含め、いろんなことを学べるスポーツですしね」

ロッテのエースとして活躍していた現役時代。9年連続規定投球回到達が光る


――アテネ・オリンピック(05年)の際、名誉監督だった長嶋茂雄さんから贈られた“野球の伝道師たれ”という言葉もきっかけになったとか。

「アテネは初めてオールプロで挑んだオリンピックですよね。やったことのない挑戦ですから、ここで学んだことをこの後につなげてくれ、という意味だったと思います。世界に散らばって野球を広めてくれ、じゃなくてね。ただ、いろいろ考えるきっかけになったのは確かです。日本の野球を広げるために、もっと海外発信をして、興味を持ち、やりたいという国があれば手伝ってあげるべきじゃないのかなと思います。先ほども言いましたが、本来はNPBの仕事だと思うのですが、いまはだれかが手弁当でやるしかない。僕はいち早くこういう活動をしましたが、ほかのOBに人たちにも、ぜひやってほしいと思っています」

2014年3月25日、ニュージーランド野球連盟のGM補佐&代表統括コーチ就任会見


PROFILE
しみず・なおゆき●1975年1月24日生まれ。京都府出身。兵庫・報徳学園高から日大を経て社会人・東芝府中でプレー。同部の休部で東芝に移籍後、99年秋のドラフトでロッテを逆指名し、2000年2位で入団した。02年から5年連続2ケタ勝利とエースとして活躍。10年に横浜に移籍し、12年限りで退団。14年3月に現役引退を発表した。通算成績は294試合登板、105勝100敗、防御率4.16。04年のアテネ・オリンピック、06年のWBCでは日本代表として出場している。14年からニュージーランド野球連盟のゼネラルマネジャー補佐兼代表統括コーチに就任し、16年2月のWBC予選では投手コーチを務めた。
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