2月12日、
広島が一軍キャンプを行っている天福球場には、4人の高卒ルーキーの姿があった。投手の
高橋昂也、
アドゥワ誠、
長井良太と、捕手の
坂倉将吾。一軍体験のために1日限定で昇格した4選手は、それぞれ緊張の面持ちでブルペンに入り、先輩を相手に球を投げ、あるいは受けた。
練習を終え、会見に臨んだ4人は感想を求められたが、そこである選手の名前をそろって口にした。2016年シーズンの最多勝、勝率第一位の2冠に輝いた野村祐輔である。
「テンポが速くてコントロールがいい」(高橋)
「レベルが違う。コントロールとキレがすごい」(アドゥワ)
「全部が違う。体の使い方がうまい」(長井)
「初めて見るようなボールだった」(坂倉)
元よりコントロールの良さには定評がある野村だが、示し合わせたように全員から名前が挙がるとは。見慣れてしまうとつい当然のことのようにとらえがちだが、プロ野球選手というピラミッドの最上位にいるすごさをあらためて感じた瞬間だった。
2000年にドラフト1位で広島に入団し、15年に引退。現在は広報を務める
河内貴哉氏は、入団直後の春季キャンプで一軍メンバー入り。当時もやはり、ある先輩の投球に驚かされたという。
「僕の場合は佐々岡(真司)さんだね。球は速いし、コントロールも精確。単純な球の速さだったら黒田(博樹)さんや長谷川(昌幸)さんのほうが上だったけど、佐々岡さんはストライクの四隅にビシッ、ビシッ! あれはすごかった」
ルーキーに衝撃を与え、新たな目標像を与えてくれる一流選手。野村のパフォーマンスに目を丸くしていた4人がもしかすると10年後、今度は金の卵たちを驚かせているかもしれないと想像してしまうのだった。
取材・文=吉見淳司 写真=川口洋邦